Book2

□ブーゲンビリア
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人は本当に美味しいものを食べた時、余計なコメントは言えなくなる。
それと同じで、本当に美しいものを見た時は、時間が止まる。
目を奪われる。何も、言えなくなる。


全ての男がひれ伏さんばかりの、人を惹きつける力がナミにはあった。女子供も息を呑むような美しさが。
ゾロもサンジも、お互いのことを忘れて、一瞬でその場の空気を支配した女を見つめていた。


神に愛されたとしか思えない美貌に、完璧なスタイル。太陽の光を受けて、白い肌は輝き艶めいている。
海風に遊ばれる柔らかな髪にあしらわれたのは、ブーゲンビリアの花飾り。


にこり、とナミが誰へともなく微笑むと、まるで魔法が解けたかのように、夏の午後の時間が回り出した。人々は笑い合い、美味しい料理に舌鼓を打ち、波と戯れる。それでも中には数人、やはりナミから目を離せない者もいて。


「…あいつら、ナミさんに無遠慮な視線向けやがって」
「ナミはお前らに笑いかけた訳じゃねェからな!」


人喰い獣のぎらついた視線を浴びて、慌てて目を逸らす。


「二人とも、また喧嘩してるの?」


ふわ、と甘やかな香りが漂う。
花のそれか、と思うが、ブーゲンビリアは香りの無い花。甘い甘い香りは、間違い無くナミ自身から匂い立つもので。
愚かな虫たちを誘っては、溺れさせる、危険な花のような女。
彼女が身に纏うのは、


焦がれるように情熱的で鮮やかな、


「「………赤じゃねェか」」




「お!ナミ、着替えんの遅ェぞー‼︎きれーな色の水着だな‼︎」


ありがと、と微笑むナミは、「あっちにすげェ美味い食いもんあったぞ!」とはしゃぐルフィに連れられて、呆気無く目の前から消えてしまって。


敗北を悟った男たちは頭からプールに飛び込んで、冷たい水で涙を紛らわせるのであった。





ブーゲンビリア
(情熱/あなたは魅力に満ちている/あなたしか見えない)





END
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