Book2

□チューリップ
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「選べ、ナミ屋」




ずい、と突きつけるように差し出された色とりどりの花束。…というには少し小振りだけど、まあ、何本か花が束ねられていたらそれは花束だろう。でも花束って、普通束ねられたそのものを渡すんじゃなかったっけ?その中から一本選べ、なんて聞いたことない。
…というか。


(……に、似合わない………!)


それはもう絶望的に似合わない。全身黒ずくめで不健康そうな髭面の、隈も鮮やかな目つきの悪い男に、チューリップの花束は。


「ほら」


目の前の光景の気持ち悪…不自然さに固まったままの私に、不機嫌の色を濃くした男は、ちょっと乱暴に花束を差し出した。


「えーと……」


とりあえず、選べというのだから選んでみよう。トラ男くんにはチューリップみたいな愛らしい花より、毒がある花とか禍々しい色の花とかいっそ食虫植物みたいなやつの方が似合うよ、なんて余計なことは言わない方が身の為だ。


(チューリップといったらやっぱり…)


真っ先に思い浮かぶのは赤、かな?でもオーソドックス過ぎるかしら、なんか企んでそうだし…。
眼光鋭い男に抱えられて怯えているようにも見える花々を一通り見渡して、指をくるくると遊ばせながらひとつに狙いを定めた。


「やっぱりオレンジか」
「…なによ、悪い?」
「いや、悪くねェ……それが、お前の気持ちだとすれば。まあ、もっと他にあるだろう?」


(意味がわからない…)


くつくつと怪しく嗤う男に次の選択を急かされる。少し迷って、大人っぽいシックな色の花を選んだ。この中では一番、トラ男くんに相応しい気がして。


「紫…ナミ屋は気が早いな。まだ”それ”を誓い合うような関係じゃねェだろうに」
「…は?」
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