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□奏でるなら愛の唄を
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「ひっろいれしょ?」
「…そうだな」


こじんまりとした酒場で、客の会話を妨げないくらいの心地よい音量で流れるジャズ。ナミは、その音を掻き消す勢いで喉を鳴らし、目の前のカクテルを二杯まとめて飲み干した。


「これらから、海賊なんて、らいっきらいよ…」


自他共に認める酒豪の彼女が、呂律が回らぬ程悪酔いしている。お前も海賊だろ、というツッコミを飲み込んで、ローは飲み干された自分の酒だけを追加注文した。


(…まァ、無理もねェか)


麦わらの一味が立ち寄ったさほど大きくないこの島は、数ヶ月程前に現れた血に飢えた海賊たちによって、暴虐の限りを尽くされていた。その惨状たるや、”死の外科医”と呼ばれる船長が率いるハートの海賊団でさえ、言葉を失う程のものだった。とはいえ彼らが偶然現れたときには、怒れるルフィたちがもう、悪党どもをまとめてブッ飛ばした後だったが。


島中のありったけの食糧で、感謝の宴が開催されているところ、静かな場所で飲み直したいというナミをローが連れ出してやったのだった。




聞けばその海賊たちは、島民をおよそ4分の3に減らすまで暴れた後、毎日3人ずつ、気紛れなくじ引きで生贄を選んでいたらしい。破壊し尽くしてしまうより、恐怖で支配し君臨する道を選んだのだろう。


「おんなも、ころもも、かんけいなくよ…」


血塗られた処刑台と、そこに打ち棄てられた骸は、さぞこの女にショックを与えたのだろう。
また思い出してしまったのか、ナミの大きな瞳は赤く潤んでいる。


やれやれだ。
麦わら屋のところの連中が仲間思いで自己犠牲精神の塊だってことは承知の上だが、その上見ず知らずの人間の為にまで涙を流すとは。
こんな女が海賊だなんて、誰が信じるだろう。
その精神構造はどうなっているのか、呆れを通り越して興味が芽生えた。もう少し、観察してみるのも悪くはないがーー


「泥棒猫、もう飲むな」


酒場の主人の手からカウンターに置かれる暇もなく、奪い取られた琥珀色の液体は、またナミの細い喉を通り抜けた。


ふにゃりとカウンターに突っ伏した女の肩を、ローは乱暴に揺する。


「…もうお前、帰って寝ろ」


「うー…」


「チッ…」


厄介事と、思い通りにならない女は、面倒で嫌いだ。
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