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□蜘蛛は生き餌を溶かして啜る
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僅かな灯りを残すばかりで、息絶えたように眠る街。
その高台にある大きな石の城に囚われた、橙色の蝶がゆらり、広い寝台で舞う。


「……ぁ、うっ」


休む暇なく喘がされる喉は、もはや元の声色を忘れて錆びついていた。


「あァ、ナミ……可哀想に、すっかり声が枯れちまったな?もっとイイ声で啼かせてやる」
「やあぁっ……!!」


美しい蝶の羽根をもいだこの城の主は、弄ぶようにゆるりと動かしていた腰を激しく沈め、喉元に噛みついた。突如として与えられた衝撃は誤魔化しきれない快楽となって、白い肢体がびくびくと波打つ。


ーー愛している。


何もかも麻痺させるような愛の言葉と、最奥に吐き出された熱に、ナミは声にならない声で悲鳴を上げた。霞む意識もこの時ばかりは急浮上して、毒に侵されていく恐怖に呆然とし、また暗い淵に飲まれていく。
たとえ愛ある営みでも、連日連夜続けられるそれは苦痛を伴うのに、望まぬ関係なら尚更だ。
停泊していた島から無理矢理連れ去られて、どれくらいの時が経っただろう。身体と心の両方が、容赦なく毒に苛まれ、身動き取れなくなるぐらいにはこの拷問は続いている。その無尽蔵の体力が一体何処から湧いて出るのか、ナミが目を覚ましている間、ドフラミンゴはほとんどナミから離れずにいた。




ーー愛している。


揶揄うように、いたぶるように、下卑た笑みで散々責め抜いてくるくせに。中で欲望を放つ時だけ、微かな声で、切な気に降ってくる言葉。


ーーどうして私を攫ってきたあなたが、被害者みたいな顔をして私を見るの。


甘いキャンディのような言霊に思わず手を伸ばすけれど、それは幾重にも張り巡らされた、毒蜘蛛の罠。いっそ一息に糸で締め殺してくれたらいいのに、生きたままぐずぐずに溶かされ、捕食される。




ーーナミ……




ーー愛してくれよ…




何度目か分からぬ律動の果てにまた霞みゆく意識の中、ひときわ消え入りそうな震える声が聞こえた、気がした。





蜘蛛は生き餌を溶かして啜る
(蝶は愛という名の毒に死ぬ)





END
 

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