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□絆
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今夜も、二人きりの宴が始まる。


ハイペースで喉の奥に呑み込まれる酒と、空けられていく瓶。
少し、冷たくなってきた夜の風が、熱を持った頬に心地良い。


「…飲むか?」
「ん…」


二人で飲むことは少なくない。くだらないことを酒の勢いに任せて喋り続けることもあるし、お互い宵闇に溜息を浮かべるばかりの夜もある。
ー今宵は、後者。言葉少なでも、互いに何を望むか分かる関係だから、この静かな宴は成立する。




「…なぁ…」


「…なに?」


「…いや」


今夜はずっとこんな感じ。
お互いに欲しがる言葉は同じなのに、唇から溢れたそれは音にはならずに、静かな甲板にころりと転がる。




昼間の闘いで熱くなった身体は引き摺られたまま、ともすれば情欲の類と混じり合ってしまう。
ならばと若さを盾にして、欲深き獣同士確かな繋がりを求めることだって出来た。
欲しいものは素直に欲しがればいい、私たちは海賊なのだから。
”海賊狩り”と”海賊専門の泥棒”が言うことではないけれど。


でも、それをしないのは。





ーあんたの夢は、世界一の剣豪になることよね。


ーお前の夢は、自分の手で世界中の海図を書くことだよな。




そして二人の共通の夢は、彼と最果てまで辿り着くこと。
その為には、





言葉にはしないのだ。お互いを想う気持ちは確かにあっても。


見つめ合っていては航路を見失い、彼の夢を守れない。ならばお互い同じ方向を向いて、彼を支えようとーー





私たちは仲間。
愛と、確かな信頼で、繋がっている。






(これからもずっと)





END
 

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