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□この心臓に永遠を誓え
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酷く、苛つく。
もうすぐ自分の腕から抜け出してしまう、この女に。







海賊船としては珍しい黄色の潜水艦は、今は海面から顔を出して穏やかな夜の港に停泊していた。静まり返った船の奥、飾り気の無い船長室のベッドで、ローは安心しきったように眠るナミを見ていた。


あの戦争で、仲間ではないが敵とも言い切れない妙な縁が出来てしまったおれと麦わらの一味。この偉大なる航路の最果てを目指す者同士、適度な距離を保ちながら航海する筈だったのだが。







「…絆されちまうとはなァ」



このおれが。






どちらが仕掛けた罠だったか。
お互い糸を手繰り寄せるかのように求め合い、気付いた時にはこの心まで雁字搦めにされていた。


誘ったのはおれの方。
後腐れなく楽しめそうな女だと。
容姿も申し分なし、他所の船の情報収集、天候を読めるという技術に興味があると、散々後付けの理由で。






「…ん…」


小さな声を立てて身じろぎをする女。自分でも気付かぬうちに、おれはコイツの髪を撫でていたらしい。


「わりィ…起こしたか?」


情事の相手を労わるなんて、全く自分らしくない。その穏やかな眠りの邪魔をしたのかと、心臓にちくりと痛みが刺すことなど、有り得ない。まして、その原因たる手が女の髪を梳く心地良さに、滑らかな上下運動を止められないなど、決して。


「…珍しく、早起きね?」


いつもなら起こしても起きないのに。寝起きのやや掠れた声で、女が笑う。






酷く苛つく。
何故、朝は来るのだろう。
コイツを腕の中に留めておける時間は、もうあと僅か。




ああ、酷く、苛つく。
お前の家が、ここでは無いことに。
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