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□Kidnap!
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聳え立つ赤い土の大陸を護るように、マリンフォードはあった。ここは海軍本部基地、世界中の正義が集う場所。
まだまだ下っ端の三等兵であるナミは、息を切らせて廊下を走っていた。
(明日使う大事な会議の資料を、「忘れてた、今から作れ」とのたまう大将も、それを一番の下っ端に届けさせる先輩たちもどうかしてるわ!)
心の中で悪態を吐きながら、長い廊下をひた走る。なにしろ遠いのだ、お偉いさんの部屋というものは。
幾つもの階段を駆け上がり、角を曲がろうとした時ー
「きゃ……!」
もふ。
何かにぶつかって尻餅をついた。咄嗟に目を瞑ったが、人に当たったにしては柔らかな衝撃。
「オイオイお嬢ちゃん…廊下は走っちゃァいけないんだぜ?」
声がした方を見ようと、随分上に首を傾けると、
ーーピンクのもふもふを身に纏った、ニヤニヤ笑いの大男。
「ど、ドンキホーテ・ドフラミンゴ…!?殿!!」
ぺたんと座ったままのナミを、怪しげな指の動きだけでひょいと立たせると、男はおれの名前を知っているとは嬉しいねェとかなんとか独り言ちながら、ナミの頭のてっぺんから爪先までを舐めるように見た。
(元懸賞金三億四千万ベリー、ドレスローザ国王、”天夜叉”…!)
一般兵でもその名を知っている七武海で最も危険な男を、一般兵ならまず有り得ない程の近さで見返していたナミは、自分が今非常にマズい状況にあることを認識し、慌てて敬礼の格好をとった。
「た、大変失礼いたしました!私、火急の用事が有りますので……失礼いたします!」
「オイ」
「はひっ」
「このおれにぶつかっておいて、挨拶はそれだけか」
「ひっ」
思わず一歩退く。
男は一歩進める。
また、一歩退く。
男は一歩進める。
ざっと見ても倍程の身長差、ならば歩幅の大きさも全く違う訳で。
差し引きゼロの歩数を刻んだ筈なのに、距離はみるみる近づき、壁際に追い込まれた。
「丁度クソつまらねェ招集から解放されて、退屈してたとこだ…おれと遊ばねェか?お嬢ちゃん」
軽い言葉とは真逆の、首を横には振らせぬ迫力に冷や汗が流れる。
「っ!私、クザン大将に、急ぎ呼ばれておりまして…!」
抱えた書類の束を持ち直し、再度失礼します!と言い置いて全力で走り出す。
断ったら殺されそう。着いていっても殺されそう。同じ結末なら、逃げるしかないではないか。
なのに。
(なんで着いてくるのよーっ!?)
優雅にも見える足取りで、ぴったり後を追ってくる男に、絶賛全力疾走中のナミは泣いた。