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□瞳に、溺れる
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偉大なる航路後半、指針通りに進んでは決して辿り着けない、灼熱と極寒の交わる島。そこからそう遠くないところにある無人島に、麦わらの一味はいた。
子供たちとの別れを惜しみ、闘いの傷も癒えぬまま旅立った仲間たちは、その美しい小さな島にしばしの休息を求めたのである。


「よーし!とりあえず冒険だー!!」
「食えそうな動物もいそうだな。うし、食糧調達に行くか。んナーミすわーん、後で何か美味しいもの作るから待っててね〜!!」


危険とは縁遠そうなその島に、仲間たちはそれぞれの目的で降り立っていった。蜜柑の木を剪定したいナミと、パンクハザードで子供たちの診察に体力を使い、のんびりしたいというチョッパーが船番を買ってでる。そしてもう一人、船医の所有する数々の医学書に興味をそそられるものがあったらしい、同盟船の船長が船に残った。




「気持ちいい〜!!」


穏やかに打ち寄せる波。早々に作業を終えたナミは、浮き輪をつけたチョッパーと一緒に、サニー号のすぐ傍で白波に浮かんでいた。
空の青と、海の青。安定しない気候が多いこの航路で、この澄んだ色を見るのは久々のような気がする。数刻前は吹雪の中コートを着ていたのに、今はのんびり海水浴ができるなんて、本当にグランドラインは不思議がいっぱいだ。


自身の髪の色と同じ輝きを放つ太陽を手をかざして見上げてから、ナミは傍らで無邪気に波と戯れるチョッパーを見やった。親元から引き離され、パンクハザードで恐ろしい実験の餌食となっていた子供たちの境遇に怒り、涙し、闘った優しい船医は、今は小さなトナカイの姿で、ちょっと脱力しながらも普段はなかなか堪能できない海水浴に夢中である。


(……ひどいこと、言っちゃったかな)


子供たちの治療は、チョッパーだけのお手柄ではない。目的も知らず外道と決めつけて、謝る機会を完全に逃した。
物騒な二つ名がついていようとも、医者には違いない。でも話しかけるのはちょっと怖い。
誰についてきてもらったら、一番スムーズにごめんねが言えるかしらと、再び機嫌の良い空を見上げた。






太陽の眩しさに溺れていた。
だから、気付くのが遅れた。


穏やかな白波を切り裂いて、チョッパーの背後に、大きく口を開いた海獣が近づいていることに。
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