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□姉の襲来
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ーヨンジの場合ー


「ねぇ、私のレイドスーツ見なかっーーあら、だぁれその可愛い子?」
「ぎゃっ!?レイジュ!!」


ひらひらとブラウスのフリルも華やかに、蝶のように可憐な身のこなしで何の断りもなく滑り込んだ末弟の部屋、見慣れぬ美少女を発見したレイジュは嬉々としてベッドの上まで上がり込んで来た。


「おまっ……何を、いや、普通こういう時は気を利かせて……つぅか服!服を着ろよ!!」
「あんたに普通を説かれる日が来ると思わなかったわ。着替えてるところだったんだもの、仕方ないじゃない。下はちゃんと履いてるわよ?それよりあなたヨンジの彼女?可愛いわねえ」
「っはじめまして、ナミと言います。あの、お姉様ですか?」
「お姉様?やだ素敵な響き」


姉弟の押し問答の中ほどで、口から一度飛び出した魂を回収したナミは、撫で付けた髪をぼさぼさにしたまま半裸で狼狽えているヨンジを差し置いて、光の速さで身支度を整え体制を立て直した。


「ごめんなさいね、この子末っ子だし我が儘でだらしなくて人情の欠片もない人でなしで。迷惑かけてないかしら……嫌になったらいつでも捨ててね?」
「ちょっ余計なこと」
「ええ、そうします」
「ちょっナミ、」
「あ、でもそしたらお姉様って呼んでもらえなくなっちゃう。まあいいわヨンジのことは抜きにしても、私と仲良くしてくれたら嬉しいわ」


ナミはほっと息を吐く。弟の気まずいシーンに乱入してくるなんてどんなトンデモお姉様かと身構えたが、ただ本当に気に入ってくれただけのようだ。


「今度は私の部屋に遊びに来てね?……あら、ヨンジが死にかけてる。あ、そんなことより、私仕事に行かなきゃいけなかったんだわ。ごめんねナミちゃん、慌ただしくって。また今度会える時を楽しみにしてるわ」
「あ、はい」
「あとコレ、落ちてたわよ?」


別れ際に手渡された、面積の少ない布切れに、心当たりは


ーーあり過ぎた。




突如乱入され、下着を履きそびれ、あまつさえ初対面の女性にそれを手渡されるという状況に羞恥心が限界突破したナミが、かぶっていた猫をかなぐり捨ててヨンジにぎゃいぎゃいと八つ当たりする物音を扉越しに聞きながら、レイジュは機嫌よく自分の部屋へと帰って行ったのだった。
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