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□サニー・サイド・アップ
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「ッハァ、ナミさんっ」
「おかえりなさい、サンジ君。どうしたのよ息切らして」
「ただいま、ナミさん、帰っちゃったかと思って、急いで」
「ちゃんと連絡したじゃない」


スーパーの袋をがさがさ言わせて、慌てて帰ったおれを迎えてくれたのは、元気そうなナミさんだった。付き合っていた時の姿が重なって、なんだか目眩がする。あの頃、ナミさんの髪はもう少し短かったけれど。
部屋は整然としていて、心なしか太陽の匂いに満ちていて、きちんと畳まれた服がベッドに並んでいた。


「ちょっとナミさん、もしかして掃除と洗濯もしたの?寝てなって言ったのに」
「少しモップかけただけだし、せっかくいい天気だったから。ちゃんと休んでたわよ。だいぶ良くなったわ。あ、お昼美味しかった、ありがとう」
「いやいや、こちらこそありがとう。夕飯は何がいい?色々買ってきたよ」


大抵のリクエストには対応出来るつもりだが、お姫様のお望みがあれば何度だってスーパーに戻る。普段からレストランの厨房のバイトで料理の腕を振るってるけれど、やっぱり大事な人に作るとなると気合いが違う。スーパーを超特急で回りながら、大量の食材を積んだカートと心臓が共鳴して揺れた。
分かってたことだけど、おれはまだ、ナミさんが好きだ。


「今日バイト休みにしてもらったから。なんでも作るよ」
「え、」
「ああ違う、ナミさんのせいじゃない。今月前半にシフト詰め過ぎてて、どうせ調整しなきゃならなかったんだ」


半分は本当だ。オーナーのジジィに怒鳴られたのは内緒。だって君はいつ帰ってしまうか分からないし、少しでも一緒にいたかった。
ナミさんが何でもいいと言うので、思いつく限りナミさんの好きなものを作った。あの頃、褒めてくれたもの。これ美味しいねと笑ってくれたもの。おれ、気持ち悪いかな。女々し過ぎるかな。
でもナミさんは喜んで、たくさん食べてくれた。
こんな時間がずっと続けばいいのに、




「ねえサンジ君、」
「なんだい?」


ナミさんの声が、ふと暗い陰を帯びたから、おれは精一杯にこやかに応えた。ナミさんが何を言っても受け止めるつもりだった。


「迷惑かけてるのは分かってる。甘えてるのも分かってる。……もう一晩、今晩だけ、泊まってもいい?ちゃんと話すから」
「……うん」


ナミさん、おれ、ちゃんと笑えてるかい?
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