昨日のデルニエトラン Yesterday’s dernier train.

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カン、カン、カン、カン。

はしごを誰かが登ってくる音しかしない。

いや、こんな立入禁止の屋上の、さらにはしごを登る音なんて、僕以外には一人しかいない。

「はぁ、やっぱここにいた‥」

僕は寝そべった状態のまま、相手の方を見る。

「どーも、ひなちゃん。」

「紺、あんたまた授業サボったでしょ?」

緋菜は僕の隣に正座をした。緋菜は正座をするのが好きらしい。

「いいじゃん別に。テストで点取っとけば。」

僕は、国語系の授業は基本サボることにしている。

そのかわり、テストでは国語系は毎回ほぼ満点をとっている。

だから先生も何も言わなくなってきた。

「またそんなこと言ってるし‥あ、そうそう。こないだ、3年生の女子生徒が自殺したの、知ってる?」

何でもないことかのように緋奈は言った。

「知らないな。」

「そうなんだ!?へーえ、紺が私より情報遅いなんて、珍しいこともあるもんだねぇ。」

「受験勉強でも嫌になったか。」

「さぁね。今探偵部が全力を上げて調べているんだよ。」

僕は起き上がり、ため息をついた。

「ひどい学校だな。生徒が自殺したのに、普通休校にするんじゃないのか。」

「それどころか、全校集会さえ開いてない。まぁ、さすがに自殺したクラスは立入禁止だけど。」

そこで授業受けるのは、私も嫌だし、といった緋菜の言葉に自分が小さな思い違いをしていることに気づいた。

「自殺した教室、ひなちゃんのクラス?」

「そうなんだよね。実は、うちの部長が第一発見者でさぁ、それではりきっちゃってるんだよね。」

「わざわざ3年生が1年生の教室で自殺‥.どういうことだ?」

「何よ?まさか、紺まで翔と同じようなこと言い出すんじゃないでしょうね?"自殺じゃなく、他殺"って。」

呆れたような声を出す緋菜。その顔を隠す大きなメガネを僕は取った。

「あ、ちょっと‥」

「メガネをかけていない緋菜ちゃんを見れるのは、僕だけの特権だから。」

「......今、翔平なんかと同じレベルみたいに言われて怒ったのね。そういうところは負けず嫌いというか」

そういう緋菜の顔にそっとメガネをかけてあげる。

「あたり前だ。あんなのと一緒にされたくない。どう考えても自殺だ。ミステリーの読みすぎだろ。」

「口の悪さは天下一品ね、紺って。」

「素直なだけ。ひなちゃんには言わないだろう。」

「もし言ってたら、100倍にして返すから。」

「だろうな。」

僕は苦笑しながらまた寝っ転がった。

「ひなちゃん」

「何?」

「大事なこと言っていい?」

「どうぞ?」

「さっきはしごで登って来た時にさ」

「うん」

「思いっきり水色のぐべらぁっ..」

うまく呼吸ができない。一体何をしたんだ、ひなちゃん。

「し・に・た・い・の?」

「まだ何も言っていないだろ!色について述べただけだ!」

その、残念なものを見るような目で見るのはやめて欲しい。大事な所は言ってないだろ?!

「そ、それより...」

「それより?!」

「あーっと...その...。申し訳ありませんでした。」

「よろしい」

で、何なの?と緋菜。本当に、緋菜が根に持つタイプじゃなくて良かった。

「仕事が入ったんだ、仕事。さっきクラークからメールがあってさ。あとでメール転送しとく。」
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