昨日のデルニエトラン Yesterday’s dernier train.

□1.
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この湯羅原高校には「探偵部」というものがある。
 
別にホ―ムズについて語ったり、金田一耕助へとダメ出しをしているわけではない。

それらは、「文芸部」しかり「ホ―ムズ同好会」しかり「日本ミステリーの会」しかり。

とにかく、「探偵部」ではない部が行っている。

本校の「探偵部」のことを、一体どれだけの人数が知っているのだろう。

「野球部」「サッカー部」といった王道から、「仮面部」や「バレンタイン廃止推奨委員会本部」

といった"外道"な部まで、様々な部が乱立する本校。

その、旧校舎3階、理科準備室。

そこが、「探偵部」のプライベートル―ムである。


月川翔平は高校2年で、「探偵部」の部長である。

ことさらに、彼は学校に来るのが早い。誰もいない教室で、嫌な奴の机を蹴り、貧しい心を優越感で満たすのである。 

その日も、翔平は心を満たすため、まだほとんど人のいない校門を通り、学校へと入った。

少しまだ、昨日の雨の湿気が残っている。頬に当たる風が生暖かい。

そんな気持ち悪さを感じながら、翔平は教室の引き戸を開けた。

その日は、翔平より先に教室に生徒がいた。

いや、彼女はもうすでに、死んでいたが。
  


 
 
「‥‥‥‥ぁ」

絶句する他にないだろう。

いくら探偵部の部長だからといって、メガネをかけた小学生探偵のように毎週毎週死体とにらめっこしている訳ではない。

第一、こんな田舎町でそんな死体に出会うことはない。出会ったとしても、それらは全て老人ばかりだ。

と、いう訳で翔平は首つり死体を見るのは初めてである。


「ど、どうされました‥.?」

もう、死体に話しかけてしまうくらい、テンパっているのである。


コツコツ、コツコツ。

足音が近づいてくる。ハイヒ―ルの音だ。つまり、先生もしくは「姫ギャル同好会」のメンバーである。

しかし、「姫ギャル同好会」は基本メイクで遅刻ギリギリなので、この場合先生であろう。

その予想は外れ。現れたのはガッツリ過ぎて胃にもたれそうなガッツリメイクのギャルであった。


「おっす―、ツッキーどしたん?そんなトコに立ってるとか、マジありえんのやけど―。」

「や、山口さん‥.」

ちなみにギャルの名前は山田である。

「じゃまやし―。どいてほし―んや、‥‥ぁ‥‥‥」

山口は口をぽかんと開けたまま動かない。首つり死体の方を向き、ぱちぱちとまばたきをした後、呟いた。


「ま‥マジありえんのやけど‥」

確かに、マジありえない状況である。

コツ、コツコツ‥‥。

またもやハイヒ―ルの音。


「ん‥どうしたんですか?二人で入り口に立って、二人で口をだらしなく開けて。」 

今度は先生であった。ただ今、婚活に必死な34歳の英語教師である。

「せん‥せい‥」

「ちょっとぉ、マジやばいんよ―」  

「もう、何なんですか‥って、あああぁあぁ‥‥っ」

先生も翔平と山口のように口をだらしなく開けた。

「こ、これは‥」

さすがに大人。フリ―ズはしないようで。

しかし。

「あ、貴方たち(が殺ったの)!?」

「えええええっ!?」

思いっきり生徒を疑う先生。

「教師が教え子疑うとか、マジありえん―」

まったく、山口の言う通りなのである。

その後、正気に戻った先生が警察、救急車を呼んだのであるが、相変わらず山口は口をだらしなく開けていた。

恐怖からなのか、涙を流している。しかし、メイクが崩れて、マスカラによる黒い涙となっていた

正直言って、死体よりも恐ろしいといえよう。夢に出てきそうなほどの山口の顔色。

翔平は死体より山口の顔のほうが記憶に残っている。

そんな死体発見。

ただ今、死亡者数、1名。
 
 

 
 

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