それでも毒舌芸人が恋人です。

□家族に。
2ページ/2ページ






次の日、私たちは渋谷に来ていた。



ヒロは仕事中。



それにしても、行きたがるところ全部人混み。



「ユウト、お昼食べながらで、あれだけど、夜何食べたい?」



「お寿司!」



ユウトが即答した。



「お寿司かー。」



私は空を見た。




それこそ渡部さんに…




私はヒロにメールを返した。


ーーーお寿司が食べたいそうです。























「寿司かー。」



「なに、寿司?」



前室で俺は、携帯を片手に、椅子をくるくると回した。



「渡部さん、寿司屋です。寿司屋。」



俺は携帯をほいほいと動かして渡部さんに言った。



「は?」



「山の国群馬からやってきた10歳男子が喜ぶ寿司屋知りません?しかも今夜入れるとこ。」




「なにそれ。」





「渡部さんは、女が喜ぶところしか知らないか。」




俺は目線を携帯に戻した。




「いや、知ってるよ!魚が泳いでて、いけすで釣った魚、その場で調理してくれる店。」




「まじすか。ちょー楽しそう。」




俺は顔を上げた。




「今送ってやるよ。」




渡部さんはすぐにリンクを携帯に送ってくれた。




「うお!助かりました!あざっす!」



「なになんでおまえが家族向けレストラン?」




渡部さんが不思議そうに俺を見た。




「子連れの女にでも入れ込んでんの?」



すぐそばにいた有田さんまでそんなこと言い出した。




「んなわけないでしょ。親戚の子が来てるだけっすよ。」




「おまえ、群馬に親戚いんの?」




突かなくていいとこつついてくんな。





「怪しいぞ、有吉。」




渡部さんに聞くんじゃなかった。




夕方仕事を終えて、俺は車で渋谷に向かった。



またすげえ人混みのとこに…




もうちょっと外れたとこで待ち合わせすればよかった。




待ち合わせより早く着いてしまった俺は、駅前に車を止めてその中で二人を待った。




こんなとこ来たのいつぶりだよ。




ハチ公前は待ち合わせの人間で溢れかえっていた。




カップルらしい人影が、出会い頭に抱き合っている。



全然、羨ましくねえや……




そんなことを思ってると、サイドウィンドウがこんこんと叩かれた。




はっとして振り向くと、るいが手を振っている。



るいはドアを開けた。




「ごめん、お待たせ。大丈夫だった?」




「ああ、」



「ヒロくん、仕事お疲れっ!」



なぜかユウトに上から目線でそう言われた。



るいとユウトは二人並んで後部座席に座った。



「ヒロくん、お寿司食べに行くの!?」




「おう!すげえとこだぞ。」




「すげえとこ!!」




ユウトが目を丸くした。




それにしても、ヒロくんってどうにかなんねえのかな。




後部座席でるいとユウトはずっと話していた。




今日行った場所の話だ。




楽しそうで微笑ましいけど、なんつーか、ちょっと妬けるな、これは。



ユウトもだけど、るいがいつも以上に楽しそうで。



車内は笑い声ばっかりで。




よく事故を起こさなかったと思うくらい、俺はルームミラーをずっと見てた。



ふと、るいと結婚して、子供とかできても、俺はずっとるいばっかり見てしまうんじゃないかと思った。





渡部さんに紹介してもらった店は大正解。



ユウトも、それからるいも、大はしゃぎで、食べて、またはしゃぐから、なんかいつまででも喰えた。



向かいに座ったるいとユウトを見てたら、そのころころかわる表情が面白くて、それをずっと見てるだけで笑えた。



酒を飲まなかったのに、いつの間にかすげえテンション上がってて。




「ヒロくん、これ食べてーーー!」




ユウトにタコを口に突っ込まれて、大笑いした。




なにより、るいがすごい楽しそうで、ユウトが来ること快諾してよかったなと思った。




帰り道、ユウトはまた寝てた。



助手席に座ったるいも少しうとうとしている。



今日、朝からユウトに起こされたみたいだし、仕方ねえか。




さっきとは大違いの静まり返った車内。



俺は口元を緩ませた。














「おーい、るいさん。起きて。着いたよ。」



マンションの駐車場について、俺はるいの体を揺すった。



「んー。あ、ごめん、完全に寝てた。」



るいが気だるそうにしながら、目をぱちくりさせた。



「ユウトー。起きて、着いたよ。」



「おーい!」



二人で起こそうとするが反応がない。




「仕方ねえな。るい、これ持って。」




俺はカバンをるいに渡した。




「え、大丈夫?」




俺はユウトを担ぎ上げた。




「こいつ、いちいち眠り深すぎだろ。」




そんなことを言いながら、部屋に戻った俺たちは、ベッドにユウトを寝かせた。





「本当に起きねえのな」





「まあ、ヒロもそんなにかわんないけど。」




ユウトを見ながら、るいがそう言った。




「う…」




耳がいてえな。




「ヒロ、お酒飲むでしょ?」




るいがにこっと笑った。




「え、うん。」




店で飲めなかったからな。




二人でいつものように一つのソファに並んで、テレビを見ながら、日本酒を飲み交わした。





「ヒロくん、本当にありがとうね。昨日、今日。」




「おまえまで、その呼び方止めろ。」




「あはは。」




「うお。」




るいが足を俺の膝に乗っけた。




「本当は二日間ゆっくりできるはずだったのに、よかったの?」




「別に、二日とも早く寝れたし、俺も楽しかったよ。」



「へえ。」



るいがにこっと笑った。



「なんかさ、結婚して子供とかできたらこんな感じなのかなって思って…」



酔いがまわったのか、ふとそんなことを口走った俺。




「え?」



「…いや、なんでもない。」




「こんなだったら大変だね。ヒロ、仕事だけでも忙しいのに、子供いて、一緒に遊んで…」



「…まあ、それはがんばるでしょ、きっと。」



「なんでちょっと自信満々なの。」




るいくすくすとわらった。




「え?そりゃ、るいと作る家族だからでしょ。」




「……ふふ。」



俺は、るいの腕を掴んで、自分の方に引き寄せた。



顔がすぐ近くにあった。



「キスしていい?」



るいの瞳が真っ直ぐ俺を見てた。




しかし、その黒目がきょろっと動いたかと思うと、るいがするっと俺の腕の中を抜けた。



「え?」



俺の前にはぽっかり空いた空間。



「ユウトどうしたの?」




るいの声で振り返れば、寝室からユウトが顔を出していた。



俺からは真後ろで全然見えてなかった。



「目冷めちゃった。」



駐車場から戻るときに目覚めろよ。



なんて思った。



笑ってしまうほどのタイミングだったけど、ユウトはリビングに出てきて、俺の隣に座った。




「ユウトもなんか飲む?」



るいがキッチンから言うと、ユウトがジュース、と返した。




「今日、楽しかったか?」



「うん!もう最高だった!」




ユウトは目を輝かせながら言った。






「おお、いい店探しただけあったわ。」




「渡部さんが見つけてくれたんでしょ。」



ジュースを持ってきて、ユウトの向こう側に座ったるいにピシャリと言われてしまった。




「まあ。」



「それにしてもさ、ヒロくんの家大きいね。お母さんがお金持ちって言ってたけど、本当なんだね。」



真顔で俺にそう言うユウト。



俺がるいの親戚からどう思われてるかはわかった。



「ユウト、この人はお金持ちじゃなくて、成金だよ。お笑い成金だよ。」



「なりきん…?」



「なんで、そんなに口が悪いのかな。」




俺は首を傾げてため息をついた。



だけど、笑いがこぼれた。


「なーりきん!なーりきん!」





ユウトが俺を指差した。




「おい!ふざけんなよー!」



俺はユウトを捕まえて待ち上げた。




「うわー!」




逆さにすると、ユウトは声を上げた。




「ちょっと…」




るいは目を丸くしてから、笑った。




結局ユウトも明け方まで起きてて、3時ごろやっと眠った。




「明日大丈夫かな?」



ベッドで寝息を立てるユウトを見て、るいが言った。



こうしてベッドの上でユウトを挟んでいると、本当にまるで…



「10歳児を夜更かしさせちゃったな。」



「明日は新幹線で帰るだけだしね。」




「にしても、るいの親戚に会ったら、俺、相当叩かれそうだな。」




「みんなおもしろがってるだけだから。」



るいがユウトを見ながら言った。




「そうかな。」




「うん。私は、ヒロが大好きだから、それでいいんだって。」




「わかったよ。」



俺はニヤッと笑った。
















次の日俺は、一人で、仕事の前にユウトを東京駅まで送って行った。



「じゃあな、ユウト。元気でな!」



俺はユウトを車から下ろし、改札まで連れて行った。



またすげえ人混みだ。



「じゃあな!」




ユウトが得意げに笑った。




「また来いよ。」



俺はユウトの頭を強めに撫でた。




「痛えよー!まあ、お母さんにヒロくんいいやつだったって言っとくよ。」




ユウトは意地悪く笑った。




「まじで?そりゃ、よろしく頼むわ。今度来た時、なんか奢ってやるから。」




「それ賄賂ってやつ?」



「まあ、そんなとこ。」




俺とユウトは握手をした。




「じゃあ、気をつけてな。」




「うん、ヒロくんありがとう。」



「俺も楽しかったよ。」



俺はそういって、ユウトが人混みを抜けるまで見送った。



ーーーユウト、ちゃんと新幹線乗ったよ。



ーーーヒロくん、ありがとう。



しばらくは、この呼び方が続きそうだ。

















しばらくして、あのディズニーランドでのデートがすっぱ抜かれた。



「ねえ!!!」



家に帰ってくるなり、るいは怒ってた。



俺はソファでテレビを見ていた。



「おかえり…どうしたの?」



「これ見た?」



るいは週刊誌を俺の前に落とした。




「ああ、もういいかなと思って。」



「そうじゃなくて!この記事の内容!」




ーーー有吉弘行、バツイチ美女とTDLで子連れデート!?




「…よかったな、美女だって。」




俺は懸命に笑ったが、どうしても顔が引きつる。



「そこじゃないよね?」



るいの冷たい声が頭から降ってきた。



「いや…びっくりマークのあとにはてなマークも付いてるし。」




「私って10歳の子供いそうかな…?」



るいはため息をついて、俺の隣に座り込んだ。



「いや、まあ21で産んでれば…」



「そういうことじゃない…」



何を言っても怒らせるだけな気がしてきた。




「いや…」



本当に落ち込んでるのか。



「るいは綺麗だよ。」




俺はるいの頭を撫でてからその頬を包んだ。




「ヒロォ…」



「こんなの気にすんな、ばか。そっちのが面白いから書いてんだ。きっとみんなこれ見て笑ってるよ。」




「…わかった。」



るいは頷いた。



俺はその唇にキスをした。



「楽しかったんだからいいだろ?」



また頷くと、今度はるいがキスをした。



笑いあってるのが幸せだった。



笑い合ってることに笑いが溢れるような。




…家族になろう。
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ