それでも毒舌芸人が恋人です。

□実は優しくて
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数ヶ月かけた仕事が終わり、会社で放心状態になっていた。




まだ昼前だが徹夜明けで、ちょっと頭が重い。



ユメがお疲れと言って缶コーヒーを私の前に置いた。



「あーありがとう。」



「まだ仕事する?」



今回もユメと一緒にプロジェクトをやっていたから、もちろん彼女も徹夜明け。



「うーん。どうしよ。」



私は机にひれ伏した。



「ちょっと息抜き行かない?」




ユメがにこっと笑った。




私は首を傾げた。












ジャケットを着るように言われて会社を出る。



すたすたと前を歩くユメについていくが、行き先を教えてはくれない。



社員証だけ持つように言われたけど、いったいなんだろう。



会社を出て、ただまっすぐ歩いていく。



黙って付いて行くと、日本テレビ本社の前に着いた。



着いたと言っても徒歩3分



目と鼻の先にあるこのキー局でいったいどう息抜きするというのか。



こんな仕事での知り合いがうろうろしてるところでは落ち着かない。




時間は午後12:30




適当なことを言ってスタジオがある階に忍び込んだ私たち。




「ねえ、なにするの?」




「なに!まだ気づいてないの!?」




ユメは目を見開いた。



「え、ごめん全然わかんないんだけど。」



「あれ、るいさんとユメさん?」




そのとこ背後から声をかけられ、私たちは揃って振り返った。




そこには顔見知りの社員さん。




「あ、長嶋さん、お疲れ様です!」




ユメはあっけらかんと挨拶をした。





いや、私達一応無断で入ってきてるんじゃ…




と、私は思ったのだが、ユメの態度があまりにも堂々としてるから、誰も不審がらなかった。




「なんか収録でも見ていく?」




長嶋さんがそう言った。




テレビ局の人はほとんどいつもこう言ってくれる。




「はい!ぜひ!」



「えっ」



まさか収録見にきたの?



この人は、本当に…



私は苦笑いするしかなかった。




「今だとね…えーっと、ああ!今ちょうどそこでヒルナンデスの生放送してるよ。」




ん?



ヒル…ナンデス?




ん?




今日は、何曜日ですか?




「ああ!見たい見たーい!いいんですか?」




ユメはわざとらしく高い声を上げた。



それから私を見て、ニヤッと笑った。




この人…確信犯だ…



嵌められた。




「紹介するって言って、あんたが全然紹介してくれないからだよ?」



ユメに耳打ちされた。



根に持ってたんだ…



「さあ、こっちです。こっちです。」



長嶋さんが私たち2人を招き入れた。



いや、だめ、絶対にだめだ。




そう思った私は長嶋さんとユメから一歩離れて、スタジオに入らず、入り口あたりで立ち止まった。



そして、一人、セットの影から中を見た。




ヒロだ。



当たり前だがその姿はすぐに見つかった。




VTRを見ているらしく、並べられた真ん中の椅子に座ってモニターを見ている。



ヒロの仕事しているところをこんな風に見るのは珍しいから、今でも新鮮に感じる。



仕事ができる男性に惚れるのは女性の性だろう。



みんなを笑わせてるヒロはいつも以上にかっこよかった。



見ている私も笑顔になってしまう。



それから私の視線は、ヒロの隣のモデルさんへと移った。



顔が、ヒロと比べてめちゃめちゃ小さいくて。



それもそれで笑ってしまいそうになった。




でも、なんか…ヒロとすごい近い気がする。



椅子の位置のせいだ…



モニターを見るヒロは彼女の方を向いて体を傾けている。



映像を見ながら小声で話したり、彼女がヒロに笑いながら文句を言ったり。



忙しくて、数日ヒロとちゃんとしゃべれてないから、そんなことさえ羨ましくて。




今夜会えるの楽しみだな。



ヒロには来るなって言われてるけど、こうしてしっかり仕事をしてるヒロを見ると、また惚れ直すから、こうして影から見るのはいいかもしれない。



ヒロが何か言うたび、私もニコニコ笑ってしまう。



やっぱり、ヒロはすごい。



「もう!なんで入ってこなかったのよ。」



収録後、ユメにぶつぶつ文句を言われたのは言うまでもない。



「ごめんて。私、やっぱ眠いから会社の仮眠室で寝てくるねー」



私は早々にそこを立ち去った。





















収録が終わって、一度前室に集められた。



なんだ、珍しいな。



コラボCMがなんとかって言ってたけど。



CMと言われると、一瞬、るいのことを考える。



ここ一週間ほど相当仕事が立て込んでるらしく、朝は早く、夜は遅くまで家に居なかった。



そして遂に昨日は会社に泊まったらしい。



相変わらずの社畜



いつまでそんな働き方するのかと思うけど、人のことは言えない。




「こんにちは!今回、ヒルナンデスコラボCMを担当します。ユメです。」



ん?なんか見たことある気がする。




るいの知り合い…?





「同じく松山です。新人ですがよろしくお願いします。」




もう一人の若い男は見たことない。




「ユメさんがこんな若い人と組んでるなんて珍しいですね。」




プロデューサーはそう言った。




「馴染みの同期と組もうと思ってさっき連れてきたんだけど、ばっくられちゃって。」




「ああ、るいさん。」




社員の長嶋さんが笑って言った。




え?来てたのかな?




「そうなんですよ!寝るって言って。」




彼女はため息をついた。




もしかしてまた覗き見されてたか。



「るいさんが構成してくれればよかったのにね。」




「本当!ヒルナンデスの金曜日になんかあるんですかねー!」



彼女はそういうとわざとらしいく俺を見た。



え、バレてる。



俺は引きつった笑いを返した。





その日、その後仕事がなかった俺は、ひょんなことから生放送のメンバーと近場で飲むことになった。



全員でもCMの打ち合わせが終わり、飲み始めたのは夕方4時。



延々と飲んで、締めの飯にも行ったが、ぼろぼろと帰っていったせいで、最後は若いモデルと二人だった。



もう随分レギュラーやってるけど、もちろん二人で飯なんか食ったことなかった。



20歳若い女と夕飯って、捕まんねえのかな。




そう思うくらいだったけど。
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