それでも毒舌芸人が恋人です。
□家族に。
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もしヒロと結婚したりしたら、どんなか家族になるんだろう。
ヒロは、どんな夫に、そして父親になるんだろうと、考えることがある。
それなりに年を食ってる、なんて言ったら失礼かもしれないけど、ヒロもちゃんと大人なんだから、父親はできるだろうと思う。
むしろ、私の方が危ないかも。
でも、普段の様子から、父親のヒロってあんまり想像できなかった。
「うちは無理だよ。えー…うーん、じゃあ、一応聞いてみるけど、期待しないでね?」
私は電話を切った。
電話は群馬に住むいとこからだった。
10才になる男の子を始めて1人で東京に行かせたかったんだけど、うちの母が急に体調を崩したから、どうにか私の家に泊めてくれないかってことらしい。
お盆に会った時、彼の家にいてあんまり実家には帰ってないなんて言ったから、いとこもちょうどいいと思ったんだろう。
ただ、まさか彼が有吉弘行だなんて、親戚にはまだまったく伝えていなくて。
紹介するときはちゃんとした席でなんて思ってたけど。
「ねえ、ヒロ…どうかな?だめなら全然断るけど。」
「うーん。いや、その2日間ちょうど仕事少ないし。」
「じゃあ、ゆっくり休みたいよね。」
「いや、いいよ?別に。」
「本当に?」
ヒロが頷いた。
私はいとこの事情を説明して快諾した。
彼女のおかげで3日とかからず、親戚中に噂は広まったのだった。
「上野駅にした方がよかったんじゃない?」
私とヒロは東京駅で待っていた。
平日の昼間、営業のサラリーマンが目立つ中で、10歳の子供の姿を探した。
「うーん、八重洲口って言って、大丈夫って帰ってきたんだけどなー。」
新幹線の到着時間から10分。
私たちは車を停め、その横でキョロキョロしていた。
そのとき電話が鳴る。
「もしもし?」
「もしもし、るいちゃん?いまね、八重洲口に歩いてるよ。」
「うん。道わかりそう?」
「さっき、駅員さんに聞いたからたぶん大丈夫だよ。」
「そっか。わかんなかったら、駅員さんじゃなくても、近くの人に聞くんだよ?」
「うん、わかってる!」
それで電話が切れた。
「大丈夫そう?」
「うん、とりあえず向かってるみたい。」
「ん。」
「ヒロと10歳の男の子ってどんな感じなんだろう。」
私はヒロを見て笑った。
「いや、言っても、同級生の子供とか普通にそんくらいだし。」
「まあね。」
「俺のこと知ってるかなー。」
「当たり前でしょ。」
なにを今更…なんて、私は苦笑いをした。
「野球派?サッカー派?」
「野球だね。リトルリーグやってるし。」
私は出口を見ながら答えた。
「へー。嫌いな食いモンとかあるかな。」
ヒロをチラッと見ると、スマホをいじっている。
「えーあんまりわかんない。来たら聞いてみればいいんじゃない?」
「野球好きなら、明日の野球のチケット、誰かに聞いてみるか。」
「それは喜ぶと思うけど…」
私は視線を完全にヒロの方へ移した。
少し眉間にしわをよせて、画面を見てる。
「ヒロ、優しいね。」
思わず笑みが溢れた。
「え、」
ヒロがはっとしたように顔を上げた。
「ふふ。なんでもなーい。確かにお昼食べるところ決めないとね。」
私は体を伸ばした。
「渡部さんって子供連れで行けるところも知ってるのかな。」
「なんかデートスポットのイメージしかないけど。」
一生懸命スマホをいじるヒロに私の胸は高鳴った。
「あっ!来た!」
そのとき私は人ごみの中に彼の姿を見つけた。
ヒロもすぐに顔を上げた。
「よく来れたねー!いらっしゃーい!」
彼はにこにこして駆け寄って来た。
「こんにちは!初めまして!ユウトです!」
ユウトは、立ち止まるなり、ヒロを見ると、姿勢を正して、お辞儀をした。
「初めまして。よろしくな。」
ヒロはにこっと笑って、ユウトの頭を撫でた。
「本物なんだね。」
ユウトが言った。
「あー、はい。有吉弘行です。」
ヒロが少しバツ悪そうに笑った。
「そうですか。るいちゃんを騙してるんですか?」
「はっ、ユウト!?」
私はユウトの言葉を聞いて目を丸くした。
「お母さんが言ってたよ?」
ユウトはくるっと振り返って、その無垢な顔でそう言った。
「え!?」
「ははっ、まあそれが普通の反応だよな。」
ヒロは笑ってた。
「え?」
「こんな仕事してたら大体のけもんだからな。まあいいよ。それよりどうする?どこ行くの?」
ヒロはそう言って、車のドアを開けた。
「ディズニーランド!」
「えっ」
「ははは…仕方ねえか。」
ヒロは困ったように笑った。
人ごみが大嫌いなヒロなら絶対いやがる場所だ。
現に、ヒロと遊園地なんて行ったことがなかった。
ヒロを見るとなんてことなく笑っている。
「いやったー!!」
ユウトは後部座席で大手を上げて喜んでいる。
「ヒロ大丈夫?」
「まあ平日の昼間だし、俺の都合はユウトには関係ないし。」
「…そっか。」
思わずニコッとしてしまった。
「ユウト、まず何乗りたい?」
ヒロがチケットを買ってくれてるのを待つ間、私はユウトに聞いた。
「スプラッシュマウンテンかな!」
「おっけー!じゃあ、まずはそこまで行こうか。」
「あとは、新しく出来たモンスターズインクのやつ!」
「へえ、そんなのあるんだ。私も乗ったことないかも。」
平日に休みなんか取れないし、ヒロと来ることなんてないし。
「あ、有吉が戻ってきたよ。」
「ユウト、有吉はやめなさい!」
ヒロを指差して言うユウトに私はずっとヒヤヒヤしていた。
「よーし、行くぞー。」
ヒロはそれをなにも気にすることなく、チケットを私たちに渡した。
「行くぞー!」
ユウトが最初に走り出した。
「ちょっとユウト…」
なんかしばらく見ない間に活発になってる?
「るいも行くよ。」
ヒロがにこっと笑って、手を差し出した。
「え、あ、うん。」
私は少し驚きながらも、その手を握った。
「たぶん、まずファストパス取ったほうがいいんじゃね?」
「ヒロって来てないのになんでそういうことわかるの?」
「なんでって…お昼の番組のせいかな?」
ヒロは自分でも首を傾げた。
「そういうことか。お昼の番組見てるって意味では私よりOLかもね。」
「まあ、そういうことだから、ユウトと一緒に先にいってて。」
「え?」
「時間ねえから。すぐに追いつくよ。」
「るいちゃん、有吉に任せて行こうよ!」
ユウトが私の手を引いた。
「え、ちょっと、だからその呼び方やめなさいって。」
「あはは、まあ、いいじゃん。わかんなくなったら、電話するから携帯見ててね。」
「あ、うん!」
私はユウトに腕を引かれ前のめりになりながら、ヒロに返事をした。
ヒロはなぜか嬉しそうに笑っていた。
なんか今日は、ヒロの機嫌がすごくいい気がする。
「るいちゃん、ポップコーン買おう!」
「いいね、買おう買おう。」
ユウトにポップコーンを食べさせながら、並んでいる間、私は少し気になってTwitterを開いた。
すると予想は的中していて、既にヒロがここにいることを感づいてる人がいた。
本当に良かったのかな。
あの見られるの大嫌いなヒロが。
「るいちゃん、どうしたの?」
「ううん、なんでもないの」
そのときヒロが追いついてきて、列に入った。
「お待たせ。なに?ポップコーン?俺にも頂戴。」
ヒロはそういうと、ユウトが抱えていたポップコーンを一掴み取った。
「あー有吉、とりすぎ。」
「おまえはいい加減にその呼び方止めろおお。」
ヒロはユウトの頭をくしゃくしゃと撫でた。
「うへ。…じゃあ、ヒロくん?」
「え、」
ヒロが目を点にした。
「くすっ」
私は思わず笑ってしまった。
「笑わないでくれよ。」
ヒロが私を見た。
「ヒロくん。」
「ヒロくん。」
「やめろ、お前ら。」
私とユウトが2人揃ってそう呼ぶと、ヒロが恥ずかしそうに笑った。
それから、時間の許す限りアトラクションを楽しんだ。
ホーンテッドマンションでユウトが騒いで、スペースマウンテンで私が目を回した。
ビッグサンダーマウンテンでヒロは帽子を飛ばしそうになった。
あ、ミートミッキーで、ミッキーは完全にヒロに気づいていたと思う。
「あ、もうすぐパレードの時間のだよ。」
私は時計を見て言った。
「見たい見たい!」
「急がねえともう場所取り終わってるぞ、きっと。」
パレードルートの方に歩いて行くどんどん人が増えていった。
「すごい人だね。」
「ああ、」
ヒロは怪訝な顔で人ごみを見た。
「ユウト、ちゃんと手繋いでてね?」
「わかってるよ。」
ユウトは少し恥ずかしそうに言った。
「るいもだよ。」
するとヒロが私の手を握った。
「…うん。」
私はその手を握り返す。
私たちは3人連なって、人混みを進んだ。
「お、パレードもう来てるよ。」
ヒロが背伸びして、それを見つけた。
「え、うそ!どこどこ!」
ユウトもぴょんぴょん飛び上がってそれを探した。
私も少し先にそれを見つけた。
学生の頃はよく来てけど、久しぶり見たそれは、なんだか童心に帰してくれるというか。
要はものすごくきれいに見えた。
隣にはヒロの顔があって、電飾が光ってるだけだったのに、
初めてだったからかもしれない。
ヒロとこの景色を見たのが。
「ねえ!見えない。」
ユウトのその言葉でふと現実に戻った。
「これ以上、前には行けそうにないな、仕方ないか。」
ヒロはそういうと、ユウトを持ち上げた。
え、っと思って、目で追えば、ヒロがしゃがみこんで、ユウトを肩車した。
「ちょ、大丈夫?」
「すごい!ヒロくん!よく見える!すっげーきれい!」
ユウトは興奮して、視線の先を指差した。
「おまえ、結構重いな…」
そりゃ、もう10歳だからね。
ヒロは苦い顔をしながらも、喜んでるユウトを見て、にこっと笑った。
ヒロってまえから子供には優しいと思ってたけど、なんかここまで甘いと笑えてきちゃうかも。
花火を見終わって出口を目指す頃には、ユウトはヒロの背中で寝息を立てていた。
「大丈夫?重くない?」
私は10歳児をおぶるヒロを見ながら、私は苦笑いして言った。
「平気だけど、なんで子供ってこんなにディズニーランド好きなんだろうな。」
「やっぱり夢の国だし。この作り出された空気全部が子供にはきらきらして見えるんだから。」
「るいも子供のころ来た?」
「うん、家族5人できて、お父さんいつも一人で乗るのに、すごい楽しそうだった。不思議だったのに、なんか今日わかった気がする。」
家族5人でディズニーランドに来たのなんてたった2回だけど。
「俺はほとんど来たことねえな。」
「私も働き始めてからはすごく久しぶりだよ。」
「ディズニーランドなんて一緒に来たの初めてだな。」
ヒロが嬉しそうに笑った。
「ヒロ好きじゃないじゃん。」
「そうだったんだけど、それは、バレたらとか、るいが撮られたらとか、考えてたからで…。」
「まあね。」
駐車場に着いた私たちは、後部座席にユウトを寝かせた。
「全然起きねえ、こいつ。」
ヒロが運転席から後ろを覗き込んで言った。
「だいぶはしゃいでたからね。今日も朝早かったんだろうし。」
「じゃあ、直帰だな。」
ヒロが車を出発させた。
ディズニーランドからの帰り道は本当にきれい。
「綺麗だねえ。」
レインボーブリッジと湾岸の風景を私は見ていた。
「いつも見てる景色だけど。」
「うーん、確かに。なんでかな。ヒロと一緒だからかな、それともディズニーランドが楽しかったからかな。」
「…なるほどね。」
お互い顔は見なかったけど、にやにやしていたのはわかる。