赤色アイドルが恋人でした。

□そばにいてれくる間
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るいが大学の夏休みに入った。



一緒に時間をすごしたいところだけど、ライブや稽古やらでなかなかまとまった時間はとれずにいた。



それでも、週に一、二度は必ず顔を合わせていた。



社会人一年目の友人たちと変わらないペースは保てていると思う。



しかし、来週から3週間、るいとはしばらく会えない。



原因は俺というより・・・



「本当に大丈夫なの?」


今日も、俺はるいの実家でくつろいでいた。


ここもすっかり居心地がよくなったもんだ。



「大丈夫だよ。向こうに知り合いもいるし、一人じゃないし。」



るいは俺を見て困ったように笑った。



それは、るいが3週間旅行に行くから。



一緒に行きたいとこだけど、都合は合わず。



単純に3週間も旅行とかうらやましいのもあるけど。



「なんで、アフリカ?」



「アメリカに住んでたときの友達がいるしさ。」



最初は冗談かと思ったが、るいはとんとんと決定させてしまった。



この日はるいの出発前に会える最後の日。


「そうだけど。」



「大学の友達もいるから。」



それだって、男がいるからって少し安心できるような、すげえ妬けるような。



感情が入り乱れる。



スワヒリ語を勉強してたのもこのためか。



るいはたまにこうやって俺の想像の範疇を超える行動を取る。



急に他人なんだと見せつけられるような。



それが直接いやなわけじゃないけど。



「予防注射した?」


「したよ。」


「旅行保険入った?」


「入ったよ。」


「マラリアの薬持った?」


「うん。」


「ちゃんとしたホテル取った?」


「うん、まあまあいいとこにした。」


俺は質問責めにした後押し黙って、るいを見つめた。



「翔くん・・・」



るいはまた困ったように笑う。



「心配してくれてありがとう。でもものすごい危ないとこに行くとかじゃないから。」



るいが俺を諭すように言った。



「そりゃ、心配するよ。自分の彼女なんだから。」



俺はるいの手を握った。



「アフリカが全部危ないわけじゃないんだよ?モロッコとエジプトはアフリカっぽくないし、タンザニアもね海がきれいでちょっとずつリゾートになってるし。南アには日本人の知り合いがいて、ずっと一緒にいてくれるし。」


##NAME1#は俺の目をみてそう言った。



俺のせいでるいのやりたいことを妨げたりしたいわけじゃない。



「ネットつながったら、メールしてね。」



「うん、する。それより翔くんこそ、コンサートとか稽古とかあるんでしょ?暑さで体調くずしたりしないでね?」


そっか、俺もいつも心配かけてんだな。


「うん、わかってる。」



俺はうなずいた。



それから楽しそうに旅行の計画を話するいを見て、俺なんかよりずっとたくましいなと尊敬もした。


それでも、なんか、本当は寿命縮みそうに怖いよ。



大事だから、怖いんだね、きっと。












るいは旅行に出発してから、何度かメールをくれた。


そのたびに俺はあわててメールを開き、安堵のため息をついていた。


俺、はげたりしねえよな・・・?


ほんの数回だけ写真もくれた。


砂漠でらくだに乗ってたり、ピラミッドの前にいたり、海にいたり。



楽しそうだな。



思わず笑みがこぼれる写真ばかりだった。



俺も一緒に行きたかったわ。



なんて思ってる自分がいた。



こんな楽しそうな顔、俺が一番近くで見てたい。



でも無情にもそこに一緒にいるのは俺じゃないだれか。


女友達ならまだ、いいんだけど、男に対する嫉妬はぬぐえるものじゃなかった。



大好きなるいと楽しい時間を共有してる彼らがうらやましくて仕方なかった。



普通に青春写真を見せられているようで、なんとなく、るいが遠くに感じた。



3週間、一人きりの夜が続いた。










るいが帰国する日、休みが取れた俺は空港まで車で迎えにいった。



到着ゲートの前でそわそわしながらるいを待つ。



次々に流れてくる人間の波、ひとつひとつを目で追って、その姿を探した。



もう着くはずだけど。



俺は時計に目を移した。





その視線を戻したときに、ちょうどるいがゲートから出て来た。



友達と楽しそうに話しながら出て来た。



るいはきょろきょろと首を動かすと、俺をすぐに見つけた。



るいは友達と早々に別れると、俺の所にきた・



「おかえり。」



俺はるいをまっすぐ見つめた。



「ただいま、翔くん。元気そうでよかった。」



るいがにこっと笑った。



「それはこっちのセリフだよ。なにもなかった?」



俺はるいのスーツケースを持つと逆の手をるいに差し出した。



「大丈夫だった!本当に行ってよかった。」



るいはその手を取ったけど、視線はどこか違うとこを見てて、かみしめるようにそう言った。



「そう…」



「車で来てくれたんだ。ありがとうね。うちで大丈夫?」



駐車場に着くとるいがそう言った。



「うん、るいん家に帰ろう。」



俺はスーツケースを後部座席に押し込んでから、運転席に乗り込んだ。



車の中で、るいはひたすら話つづけた。



見たこと聞いたこと感じたこと考えたこと。



どれも興味深くて、こういう風に聞いてるとるいの頭の回転の速さに恐れ入るんだけど。



「やっぱり卒論はザンビアの銅産業と環境評価にしようかなー」



なんて言い出した。



この辺から言ってることがちょっとわからなくなったんだけど…



「本当、よかった!アフリカに住んで仕事とかしてみたいなー。」



なんてさらっと言ってしまう彼女は俺よりずっとフットワークが軽い。



そんなことされたらこっちの心臓が持たないって…



そう言おうとしたのに、信号待ちで見たるいの顔はすごくうきうきして。



これが君の興味をくすぐることなんだって、理解した。



同じ大学にいたこともあって、一緒に時間を過ごしていても、見ているものは全然違うんだと思った。



自由にいろいろ考えて、どこでも行ってしまうるいを見てると、自分がとんでもなく束縛された存在に思えてしまう。



「るいならできるかもね。英語もフランス語もできるんだから。」



俺はそう言った。



「翔くんもそう思う?本当に目指してみようかなー。」



本当に楽しそうだ。



るいが違うところを見てるのはいいんだ。



むしろ俺なんかに縛られてほしくはないし、好きなことをしてるるいじゃなきゃ俺も好きじゃないと思う。



でも、それでも好きだから。



好きなことを追いかけていても、できれば、




できれば、



隣にいて欲しいよ。











るいの家に着くと、るいは俺を部屋に残して、風呂場に直行した。



ひとりそれを待っている間、俺はるいの本棚に目を移した。



相変わらず、すごい本の量。



ん?広告の本か。



そういえば、この前CM撮影に呼んだとき、面白かったって言ってたもんな。



俺はその本をぺらぺらと捲った。




「あーさっぱりした!翔くん、お待たせ。何か飲む?」



あっけらかんとした顔のるいが髪を乾かしながら部屋に入ってきた。



「俺もやるよ。」



飲み物を持って、また部屋に戻ってきた。



「広告の本、これ新しいの?」



俺はさっきの本を手に取って言った。



「ああ!そうそう!このまえのCM撮影見せてもらった後、本屋さんに行ったら買わずにいられなくなっちゃって。」



るいが嬉しそうに言った。



「そんなにおもしろかったなら、また見に来る?」



俺はふとそう言った。




「え!嬉しいけど、邪魔になるからいいよ。」



るいはそう言って、おもむろにテレビをつけた。




俺の気が少しだけ散るのは確かだけど、なんて思った。




「最近、テレビ見てても、CMに目奪われちゃって。私、感化されすぎだよね。」



るいが笑いながら言った。




「今度、これそうな現場あったら呼ぶよ。」



俺は諭すようにそう言った。



「本当に?じゃあ邪魔にならない程度に呼んでくれたら嬉しいな。」



やっぱり来たいんじゃん。



好奇心旺盛な君に俺の世界にも興味を持ってほしいんだよ。




「それにしても写真、楽しそうだったね。」



俺は自分の携帯に保存されているるいの写真を見返しながら言った。




「そりゃ楽しそうな写真送ってるからね。」



「なんか妬けるわ。」



俺は口をへの字にして、その写真をじっと見た。



るいが視線をテレビから俺の方に移したのがわかった。




「妬けるの?」




るいは不思議そうに言った。




「俺がいないところで、こんなに楽しそうにしてるるいを見ると、嬉しいような…さみしいような。」




自分でも格好悪いと思う。



こんな姿、普通だったら、好きな人に見せたくないはずなのに。




「そっかー…」




るいは何か考え込んだ。



「こんな汚い気持ち、知りたくなかったな…」



俺は不意にそう呟いた。



「汚い?」



るいがベッドを背にだらしなく体を投げ出す俺の隣に寄って、ちょこんと膝を抱いて座る。



「やきもちとか格好悪いとこだって見せたくなかったのに。」



俺はふてくされたように言った。



「別に格好悪いとは思わないけど。」



「なんでだろう、るいには言っちゃう。たぶんそれだけ、構ってほしいんだと思う。」



俺はるいを見上げて言った。



自分でも驚くくらい冷静な顔をしていたと思う。



きっとこの3週間、るいのこと考えすぎて、俺は開き直ったんだと思う。



「…私、今回の旅行で気づいたんだけど。」



るいは恥ずかしそうに目を逸らして言った。



「旅行中、たっくさん綺麗な景色とかおもしろい動物とかおいしい食べ物とか見たけど、やっぱり、全部翔さんと見たかったって思った。」




なにそれ。



「今、すごい胸きゅんとしたわ、俺。」



俺は自分の胸を押さえてそう言った。



「…そう思った人初めてだから。たぶん私…」



るいがそこで言葉を詰まらせた。




俺は次の言葉が聞きたくて、じっと待った。




るいがちらっと俺を見た。




「たぶん、翔さんのこと大好き。」



るいが両手で顔を覆った。




俺は目をぱちくりさせてから…



「かわいいなあっ」



体を勢いよく起こして、丸くなってるるいを抱きしめた。



「なんだよ、それ、どこでそんな殺し文句覚えてきてるんだよ。」



自分でも笑いながら、るいを抱きしめた。




そしたら、るいの心臓の鼓動が強調されて、こっちまで恥ずかしくなった。




「るい、今度は二人でどっか行こうね。」



「本当に?」



「うん、絶対休み取る。約束するから。」



「待ってるね!」



るいが目を細くして笑った。




やっぱり、俺はるいのそばにずっといったいよ。





おわり

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