赤色アイドルが恋人でした。

□綺麗
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いつの間にかお互いの実家を行き来するのは普通になってた。



今日は翔くんがうちに来る日。



家の近くまで車で来た翔くんと待ち合わせて、私たちは手をつないで歩いてた。



「あ、薬局寄ってもいい?」



「いいけど。調子悪いの?」



翔くんが心配そうに私を見た。



「違う違う。昨日お兄ちゃんが私の化粧水と乳液ひっくり返しちゃって、全部無くなっちゃってさ。」



私は笑いながら首を振った。



「それ、大変だったね。」



翔くんが目を細くして笑った。



「そうなの。酔っぱらって帰って来たからさー」



私たちは、スキンケアコーナーに立ち寄った。



「あ、これ前教えてくれた隈消しクリーム。」



「本当だ。使ってる?」



「うん。すげえ効く。」



翔くんが興奮気味に言った。



「本当?よかった。毎日見られるって大変だよねえ。」



「まあねえ…」



私が陳列棚を見る横、翔くんも同じように商品を見ていた。



「飲んだ次の日とか辛くない?」



「なんか自分で化粧とかするわけじゃないから、あんまりわかってないかもなあ。」



「でも化粧水とかは使うでしょ?」



「使う。」



「何使ってるの?」



「んーこれ。」



翔くんが棚から商品を一つ出した。



「あーそれかあ。パックとかしないの?」



完全に女子と話すテンションになってきた。




「さすがにしない。え、すると違う?」



「全然違うよ。お肌トゥルントゥルンになる。わかった!今日やってあげる!」



私はいつも使っているパックを余計にかごに入れた。



それからうちに来て3時間くらいずーっと部屋で他愛もない話をしていた私たち。


どっか行くのもいいけど、翔くんと話してるだけで、私は十分だった。



「ねえねえ、お風呂入ってこない?」


私は翔くんを見て言った。



「え?」



翔くんが不思議そうに私を見た。



「パックとかしてあげるから。」



「あ、でも教えてほしい。」



私は翔くんをお風呂に連れ出した。










まさかのきっかけで、彼女の家のお風呂に初入浴。



なんか少しだけ緊張している。



お兄ちゃんだけで、両親がいない分それでも気持ちは楽な方だけど。





「このシャンプーと、このリンスと、このボディソープも使ってみて。」



るいが風呂に並んだそれを一個一個説明した。



「この洗顔も使ってみて!」



「う、うん。」



女性用の製品を使うことには抵抗はないけど、るいのを使うと思うとちょっとドキドキしてしまう。



「じゃあ、お兄ちゃんの新しい下着持ってくるから、入ってて。」



「う、うん…」



俺、鼻の下伸びてねえかな。



お風呂には紫色の入浴剤。



嗅いだことない、いい匂い。



「翔くん、湯加減平気?」



洗面所からるいの声がした。



「あ、う、うん、いい感じだよ。」



なんだろう、この感じ初めてかも。



分かんないけど、なんか同棲とかしたら、こんな感じなのかな。




俺は浴室に視線を戻した。



これって、るいが掃除してんのかな。



鏡も蛇口も水垢ない。



カビもない。



上がって、まずはシャンプーを手に取った。



わ、いい匂い。



いつも嗅いでる、るいの匂いだ。



るいの匂いに包まれながら、頭をごしごしした。



リンスとか普段そんな使わないけど。



あ、これもるいの匂いだ。



お風呂を出ると、洗面所には新品の下着と、スウェットが並んでいた。



それを着て、リビングに出た。



るいはソファに座ってテレビを見ていた。



「あ、おかえり。平気だった?」



「うん、気持ちよかった。」



「よかった!じゃあ、ここ座ってー!」



るいがソファをぽんぽんと叩いた。



「うん。」



俺がソファの隣に座ると、るいは俺が首にかけていたタオルを取って髪を拭いてくれた。



丁度いい力がこもってて気持ちいい。



「このタオルふわふわだね。」



「これはね、ママお気に入りの柔軟剤入れているの。高いんだけどね。」



「え、柔軟剤でこんなに変わるの。るい、主婦だね。」



「お兄ちゃんが、6個も上なのに、なんにもやんないから。」



るいはため息をついた。




「風呂もすげえきれいだったし。」



「本当に?よかったあ。」



それからるいはドライヤーを持ってきた。


「いいよ、それは自分でやるって。」



「いーの!やらせて。」



そう言って、るいが髪にドライヤーを当てた。



細い指が頭皮を滑る。



自分の髪からるいのシャンプーの匂いがした。



るいは一度ドライヤーを止めると、オイルを取り出した。


「これね、シャンプーと同じ匂いなんだけど、髪さらさらになるから。」


るいに乾かしてもらった髪はびっくりするくらいつるつるしていた。


「髪の毛元気だね。すごいつるつるになった。」



「いや、いつもと全然違う!なにこれ!」



思わず興奮してしまった。


「もったいないよ。綺麗な髪なのに。髪は染めるたび弱くなるから、今からやっとかないと、年とって後悔するよ。」



「…そっか。」



「はげるよ。」



「えっ!」



衝撃の事実に俺は絶句した。



「セットするときも絶対こっちの方がいいし。」



「そうなんだ。」



俺は頷きながらその話を聞いていた。




「るい、スタイリストなれるんじゃない?」



「うちのお母さん、もともとデパートの化粧品売り場の人だからかな。」



なんか納得。



「じゃあ、次Tシャツ脱いで。」



「え。」



「ボディークリーム塗るから。」



その姿は本当にエステティシャンなんじゃないかと思うくらいだった。



まさか脱ぐ前に脱がされることになるとは。



ボディクリームを纏ったるいの手が背中を這った。



なんか違う気分になってくる。



「気持ちい?」


「え?う、うん!」


目を合わせないようにしながらうなずいた。


「これ、いい匂いもするし、肌すべすべになるんだよ。」


「翔くん、結構凝ってるね。」



ボディークリームを付けながら筋肉がほぐされる。



「やばい…すごい気持ちいい。」



腕に足までじっくりマッサージされて、すっかり店に来た気分。




足マッサージされてるときの奉仕感がはんぱじゃない。



一生懸命な顔をにやにやしながらずっと見ていた。




「これしとくと、明日の朝ほっそりする。」



「すげえ為になるんだけど。」



俺の美容マネージャーになってほしいくらいだわ。



「この化粧水、俺が使ってるのよりいいかもなあ。」




「うん、おすすめだよ。」




るいが俺の頬を突いた。




「ん?」



「つるつるでいい感じだね。」



るいがにこにこ笑った。



「俺、るいを見習うわ。体からすごい良い匂いする。」



「翔くんもともといい匂いだけどね。てか、女の子と話してる気分。」



グー…



そのとき、空気の読めない俺のお腹が鳴った。



「ふふふ。」



るいも笑いだした。



かっこ悪。



「おなか空いた?お兄ちゃんの夜食作るから、翔くんも食べる?」



ソファから立ち上がってキッチンに行く姿はまるで新妻で…



絶対いい奥さんになるじゃん。



俺はソファの背もたれに顎を乗っけてそれを眺めていた。



「なーに作るの?」



俺もキッチンに付いて行って、それを覗いた。



「こんにゃくのお刺身と、もやしサラダ。」



「すげえヘルシーじゃん。」



「お兄ちゃんをメタボにしないために必死だから。でも翔くんはこれじゃ足りないかな。そうめんゆでる?」



それでも十分ヘルシーですけど。




「11時すぎて炭水化物はだめだから。」



耳が痛い。



るいが一生懸命、手元を見ながらごはんを作っている様子は、いつまででも見ていたかった。



「ねえ、ちゅーしてもいい?」



「えー、ここでー?」



困ったように笑った。



「ここがいいの。」



そう言って俺はるいの唇に吸い付いた。



「なんか結婚した気分。」



「なにそれ。」



るいは笑って言った。


















「翔くん、肌きれいになった?髪もさらさらだし。美容に目覚めたの?」



後日、テレビ局のメイク室で、スタイリストさんにそう言われた。



「本当すか?あざーっす。」



あれ以来、るいが使う美容グッツを揃えた。


肌はつるつる髪はさらさらいい匂い。



俺、女になれるんじゃないかと思う…

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