赤色アイドルが恋人でした。

□決断のときまで
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クリスマスの夜、家に帰って来た俺は、親の声を振り払い、自分の部屋に直行した。


電気も点けずにベッドの上に自分の身を投げた。


布団の中に顔を埋めて、時間が過ぎるのを待った。


俺、さっきなんて言おうとした?


あのとき、るいちゃん越しの自分のポスターに気付くのが一瞬でも遅れていたら…


言っていた。


好きだって。


るいちゃんが好きだって。


言うところだった…


別に彼女を作るなとか言われたことはない。


だけど、俺なんかが絶対そんなこと簡単に言っちゃいけない。


そのとき、イルミネーションの中にあったるいちゃんの笑顔を思い出した。


いつ会っても幸せそうな顔をしているのがるいちゃん。


俺と付き合ったら、なんだかあののびのびしたるいちゃんじゃなくなっちゃう気がする。


壊してしまう気がする


忘れろ、忘れろ、忘れろ。






クリスマスにディナーに誘ったり、イルミネーションに連れ出したり、手を握ったり、俺は一体…


「なにしてんだ、馬鹿野郎!!!」


俺は部屋で枕に顔を埋めて、叫んだ。


寝返りを打って、暗い天井を見上げれば、思い出すのはまた彼女の顔だった。


完全に惚れてんじゃん、俺。


ばっかみてえ…


好きになったのも焦ってんのも。


そう、焦ってなかったら、あんなことしてない。


今日、るいちゃんを迎えに行った俺は一足早くに彼女の家の前に着いた。


すぐに話しかけたかったが、そのときるいちゃんは、俺の知らない男と話していて。


それを盗み聞いた俺は、出れなくなってしまった。


これから俺はディナーの約束をしているわけだが、その相手は、今他の男に好きだと伝えられている。


それを見たときに、俺は、断れ断れと心の中で繰り返していた。


るいちゃんに彼氏ができたら、こうやって食事に誘ったりすることもできなくなる。


あの笑顔とか、全部その誰かのためになる。


その誰かが、るいちゃんが一番になる


それがどうしてもいやだったから。


だから、あんなバカをしたんだと思う。


俺を一番にしてくれ。


なに考えてんだ、俺は。


21歳のクリスマス、俺は、間違った。









それから1か月、るいちゃんに会うことはなかった。


広報部の活動もなかったし、キャンパスも違う。


会いに行かなければ会うことはない。


よかったかもしれない。


だけど、夜寝るとき、どうしても、あの暗い天井に、るいちゃんの顔が浮かぶ。







新年は、仕事とテスト勉強でどんどん過ぎていく。


今日も仕事でテレビ局の楽屋にいた。


あのクリスマスから、もう1か月が経つ。


るいちゃんは何をしてるんだろう。


「翔ちゃんどうした?」


二宮に声をかけられ、俺は顔を上げた。


「え?なんでもないよ。」


俺は首を振って、目の前の弁当に手を付けた。


「なんか最近ぼーっとしてること多いよね。」


二宮が他のメンバーに言うと、みんな頷いている。


「まじで?」


自覚もなかったから、俺は目を丸くした。


「もしかして、恋煩いですか?先輩?」


二宮が意地悪な顔をして俺を見た。


恋…煩い…


「えっ、まじ?」


俺の沈黙に気付いて、声を上げたのは相葉だった。


「…いや。」


「うわ、誰?翔ちゃんは、大学通ってるから、いいよね!」


相葉くんが、椅子の上でのけ反って俺を見た。


「にしてもわかりやすすぎるよ!最近、本当、ぼーっと思いにふけってること多かったし。」


二宮がケラケラと笑っている。


「まじか、そんなだった?」


まさかそんなにも自分が思いふけってるとは思ってなかった。


「翔ちゃん、その子のこと大好きなんだね。」


相葉くんがそう言ってにこっと笑った。


大好きか…


そう言われた瞬間に、鼻の奥がつんとした。


やっぱいくらだめだと思っても、好きなもんは好きだ。


この一週間、なにをしてても、あの楽しかった時間を思い出した。


すげえ会いたいよ


「告らないの?」


松本が口を開いた。


「えー…悩み中…」


俺は目を逸らした。


「翔ちゃん、悩みそうだよねー」


そう言った二宮はあっけらかんとしている。


「大学の普通の後輩だからさ。」


「翔さんが悩まなくても、そこは彼女が決めるでしょ。翔さんが好きになるくらいなんだから、そんくらい自分で考えて選べる子だよ。」







…確かに。


松本が言い放った言葉が、胸に突き刺さった。


「…そうだよね。」


俺の視線は宙を捕えた。


「仕事のこともきっとわかってくれるよ。」


相葉がにこっと笑った。


こいつは本当優しい奴だと思う。


「翔ちゃんは、頭使い始めると、回転しすぎちゃうからなあ…この困難を乗り越えてこそなんだよ。」


二宮がそう言った。


「そうそう、もうそれを楽しまないとね。」


相葉もそう言って笑った。


こいつらやっぱすごいわ。

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