赤色アイドルが恋人でした。

□聖夜が始まる
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その夜、どきどきが止まらず、眠れなかったことをよく覚えてる。

そしてトモからメールが入っていることに気付いた。

―――ちゃんと日付変わる前に帰って来た?

―――ぎりぎり

―――おかえり。楽しかった?

―――うん、すっごく。

―――そっか。

―――トモ、今度また飲みに行こうね。

―――行こう!

トモが心配してくれてることを思い出して、私は少し現実に戻った。

翔さんは、櫻井翔なんだ。





それから1か月後のクリスマス5日前。

大学に入って2回目のクリスマス。

すっかり周りもカップルが増えていた。

「るい、クリスマスどうするの?」

授業終わりで、優里と一緒と学食で時間をつぶしていた。

「えー、家族で過ごすかなー」

「え、誘ってくる男いないの?」

「うーん、クリパとか、ごはんとか誘われたけど、それだったら家族といたほうがいいかなとか思ったり。」

「るいって好きな人とかいないの?」

優里はゲテモノでも見るような目で私を見た。

「えー、好きな人…」

「はあ。じゃあ、このキャンパスにくすぶってるるいを狙ってる男たち全員にチャンスがあるわけ?」

「なに、その言い方。」

「別にー」

「まあでもさすがになんか彼氏ほしいかも。」

「おっ!これはチャンス到来!」

優里がおもしろそうに私を見た。

「優里はどうなのよ。あのジャニーズ顔の先輩とまだ付き合ってるんでしょ?」

「うん、一応、彼と過ごす予定。っていうか!るい、この前、櫻井翔くんと飲みに行ったんだって!?」

優里が急に興奮しだして声を上げた。

「そう!優里が蹴った広報部の仕事で仲良くなったんだよ。」

「まじか!うわーとちった…」

優里が頭を抱えた。

優里はこう見えてジャニーズ好き女子大生。

嵐が好きというのは聞いたことないけど、翔さんのことだって、私よりはずっと詳しいはず。

「っていうか誰に聞いたの?」

「トモくんだよ、トモくん。大丈夫、私以外には話してないと思うから。」

「よかった。」

「ばれたら刺されかねないよね。」

優里がため息をついた。

「…そうだね…。」

確かに、冗談として笑えない。





翌日、クリスマス4日前

授業終わり、今日も学食で優里と待ち合わせをしていた。

「るい?」

そのとき、先輩に声をかけられた。

「あ、界人先輩!」

界人先輩は広告研の先輩で、文化祭の準備期間に何度か二人でご飯に行ったこともあるくらい仲の良い先輩だった。

「なんだよ、ひとり?」

「優里を待ってるんですよー」

「なんだ、さみしがってると思って慰めに来てやったのに。」

この人はいつもこんな調子で、私をいじってくるのだ。

「界人先輩だって一人じゃないですか!」

「俺は今、学校来たとこなんだよ!」

「遅すぎですよ!」

「てか、お前クリスマスどうしてるの?」

界人先輩はそう言って私の隣の席に座ってきた。

「たぶん、家族と過ごします。」

「あれ、お前彼氏いないんだっけ?」

「うるさいですよ。」

私は先輩をキッとにらんだ。

「時間あるならさ、俺とご飯行かない?」

「え、どうしたんですか?急に。」

「いや、俺もさみしいから、さみしい同士さ。」

「界人先輩と私が?」

「うん。」

急にクリスマスを一緒に過ごそうと言われて、私は黙ってしまった。

「明日までに考えとけな。」

先輩はそう言ってとっととどこかへ行ってしまった。

急に…なに…

でも私ももう20だし、家族と過ごすよりは、先輩と過ごしてみるのもいいのかな。







その数時間後、広告研の部室で一人、漫画を呼んでいた私

―――るい、クリスマスの日、うちでパーティやるけど来ない?

とみっちゃんから連絡が入った。

―――いいね!誰来る?

―――トモとか、梨央ちゃんも来るし。

―――わかった、もしかしたら行くかも。曖昧でごめんね。

―――了解。来いよー。

―――はーい!

この期に及んで、みんな結構いろいろ企画し始めるんだな。

どうしようかなー…

私は部室の窓から空をじーっと見つめた。




クリスマス前のこの時期に部室に来る人もいなくて、私は夕方一人で部室を出た。

明日から飲み会続きだし、今日はさっさと家に帰ろう。

そう思ったとき、携帯が鳴った。

今日はよく連絡が来る、と思い、携帯を見て噴き出した。

「わ。」

一人で声を上げてしまった、その人は、翔さんだった。

通話ボタンに指を乗せて少し固まる。

先月に飲みに言って以来、何度かメールのやり取りはしていたが、大体、私がこの授業がつまらないとか、これは面白いとか、こういう飲み会があって、誰が酔っ払ってこんなこと言ってたとか、箸にも棒にも引っかからないような話をしていたので、直接話すのはなんだか緊張する。

しかし、意を決して通話ボタンを押す。

―――もしもし

―――あ、るいちゃん?久しぶり。

―――お久しぶりです。

―――今大丈夫?

―――はい、大丈夫ですよ。どうしましたか?

―――えっと、急だから、もしだめだったら全然いいんだけど…

私は翔さんの次の言葉を待った。

―――クリスマスの夜ね、フレンチレストランの予約を人に譲ってもらっちゃって、急で誰と行こうか考えてたんだけど、なんか…るいちゃんと行きたくて。

心臓が大きく鼓動した。

―――クリスマスだし、もう予定入ってるかな?

―――入ってないです!!

無意識にそう答えていた。

―――本当に?

―――はい。

そう答えた瞬間に笑顔がこみ上げて来た。

―――じゃあ、25日6時に家まで迎えに行くから。

―――えっ、いいんですか?

―――うん、クリスマスの夕方まで仕事なんだよね。るいちゃん家の近くだから、迎えに行くよ。

―――わかりました。よろしくお願いします。

こんな風に誘ってくれる人も今までいなかった。

―――じゃあ、クリスマスに。

―――はい。クリスマスに。

そう言って電話を切った瞬間に、さらに興奮がこみ上げて来た。

翔さんと、クリスマスに、ディナーの約束しちゃった。

頬がかあっと熱くなった。

それから、先輩とみっちゃんに丁重なお断りメールを送った。












クリスマスの夜、私は家の前で翔さんを待っていた。


こんなクリスマスが自分に来る日がくるなんて思いもしなかった。


うきうきしながら待っていると、影が近づいてくるのがわかり、私は顔を上げた。


「よお。」


しかしそこにいたのは翔さんではなく…


「界人先輩?」


予想外の人物の登場に、私は目を丸くした。


「こんな寒いのに、なんで外突っ立てんの?」


界人先輩はなんだかいつもより綺麗な格好で、クリスマスだからか気合が入ってるよう。


「人を待ってるんですよ。界人先輩、こんなところでどうしたんですか?」


界人先輩には前に一度家まで送ってきてもらったことがあるから、家を知っているのは不思議じゃなかった。


「…へえ。…彼氏…とか?」


「違いますよ!!彼氏いないって言ったじゃないですかー!」


私は笑ってそう返した。


「でも、クリスマスに二人でデートなんじゃないの?洋服もいつもより気合い入ってるし。」


「たまたまですよ。界人先輩だって、なんかいつもと違いますよ?」

服装だけではなくて様子も違う気がする。


いつもハイテンションで、落ち込むことがあっても、この人に会うと忘れてしまうことが多かったくらいだ。


「まあ…クリスマスだからな。」


先輩は落ち着かないように俯いた。


「やっぱりそうなんですね!どこいくんですか?誰かに会いにいくんですか?」


私はそう言ったが、先輩の反応がなかった。


「先輩?」


「…おまえに会いにきたんだよ。」


先輩は顔を上げて、そう言った。


いつものひょうきんな先輩じゃなくて、緊張したような真剣な顔をしていた。


「え?」


「るいとクリスマスを一緒に過ごしたい。」


声も今まで聞いたことないような声だった。


「それって…」


「俺と付き合おう。ずっと好きだった。」


まさか、こんなクリスマスになるなんて…


そして先輩が一歩私に近づき、手を取った。


「ダメか?俺、お前が入学してきたころから、ずっと…」


大学に入ってからこんな風に言われたのは初めてだった。


というか、こんな風に目をまっすぐ見て、思いを告げられたのは、初めてだったかもしれない。


だから、そんな先輩に私の胸はどきっとしていた。


そのとき、私は先輩のことをたくさん考えた。


入学したときから、たくさん面倒を見てくれた先輩は、いつも本当にやさしくて、恋人として見たことはなかったけど、大好きなことには変わりはなかった。


だけど…


「ごめんなさい。」


私は頭を下げた。


頭を下げて、唇をかみしめてた。


「…やっぱ、だめかー!」


先輩が、すっと一歩退いたのがわかった。


その瞬間に、いつもの先輩に戻った気がした。


私はゆっくり少しだけ頭を上げた。


「いつまで、頭下げてんだ!いいんだよ!俺が勝手に告ったんだから。」


先輩はその場にしゃがんだ。


「だけど…先輩のこと嫌いとかじゃ…」


「わかってるよ。でも俺なんか、彼氏じゃねえよな。」


先輩は自分の髪をくしゃっとつかんだ。


「そんな…」


「いや、本当、おまえにはもっといい男がいるわ。」


先輩は立ち上がると微笑んで言った。


「そんなことないですよ…」


「まあ、振られた以上は、俺よりダサい男と付き合ったら、承知しないからな。」


こんな風にまた、先輩は私を励ましてくれる。


先輩は一度手を振ると去って行った

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