赤色アイドルが恋人でした。
□はじめて君としゃべった
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出会いは本当に偶然だった。
大学の広報活動に関わることになった私は、ある日の授業終わりで学生会館へと呼び出された。
時間より少し早めに着いた私は、他にも大学全体で10人くらいが集まると聞いていたので、携帯を見ながら待っていた。
次々と教室に入ってくる面々は、ミスコンの入賞者だったり、今年のキー局アナウンサー内定確実と噂される先輩ばかりで、私はド緊張してしまった。
そもそも、私の学年で、こういうビジュアル重視の仕事をいつも引き受けていたのは、私ではなかく、親友の優里だったのに、なぜか彼女は今、サークルの幹事で忙しく、私があてがわれたような状況なのだ。
ただ今思えば、あの時、あの広報活動に呼ばれなければ、もちろん”彼”と出会うこともなかった。
あんな素敵な思い出や、もしかしたら悲しい思いもしなくて済んだのかもしれないけど、でも、もしかしたら、今この仕事をしていなかったかもしれなくて、そうすれば、ヒロと出会うことだってできなかったかもしれない。
これは私が19歳の時から始まった、へんてこな恋の話。
新歓期が少し落ち着いた5月のころ。
次々に入ってくる構内では有名な顔ぶれ。
とほほと思いながらも、第一印象は重要だと思い、シャキッとその場に立っていると一人だけ知った顔を見つけた。
「ああ!みっちゃん。」
みっちゃんというのは、女の子ではなくて、後輩のちょっとかわいい顔をした、男の子で、中村光宏という。
「あれ、るいさん?るいさんって広報部なんですか?」
「え?私今日は、広報部の人に呼ばれてきたんだよ?」
「あ、そっちなんですね!ちなみに俺は広報部で来てるんですよ。」
みっちゃんのただでさえクリクリな目がさらに見開いて、目ん玉飛び出るんじゃないかと思った。
「やっぱ、そうだよね…私、広告塔って顔じゃないよね…」
正直顔をが派手なわけでもない。
高校時代クラスのミスコンで名前が挙がったことはないことないけど、いつもそういうのは2番。
実際にミスコンにだって出たことないし、あまり人前にでるのも好きではなかった。
「いや、だってるいさんは広告研だから…」
「優里がサークルで忙しいって言ってたから来たけど、思った以上に、綺麗な顔ばっかりで。」
私は周りを見渡した。
「このメンツで、大学のパンフレットも、文化祭の広報もやるんですよ。るいさんはあんまり人の前に出ないからあれだけど、本当は結構、ファンも多いし、綺麗です。」
「え、みっちゃんにそんな風に見られてると思ってなかった。」
私はみっちゃんと距離を一歩取って行った。
「…恥ずかしくなるからやめてください。」
みっちゃんが照れ笑いをした。
「お、トモも来たな。」
今大学で一番もてるんじゃないかと言われている、芸能活動を始めたトモくんも、みっちゃんの同期。
彼は数年後、イケメン俳優としてデビューすることになる。
確かに、近くで見ると綺麗な顔
なにもしてないのに、自分が醜態をさらしているような気分
それから、同じ部屋に集まった学生たちとあいさつを交わした。
あのころ同じ教室にいた人たちを今ではテレビで見ているのだから不思議。
全員が集まるまで、さらに雑談していると、急にそこの空気が変わったことに気付いた。
入口の方からみんながざわついている。
私もそちらを見ると、トモくんが、ああ、と納得したような顔をしていた。
「え。だれ?」
「櫻井翔さんだよ。」
トモくんが息を飲んだ。
確かに最強の広告塔ではあるけど、こういうことはやらない人なのかと勝手に思っていた。
2学年違うため、キャンパスも違い、本人を見るのは私はこのときが初めてだった。
「初めまして、2回生のるいです。」
私は手を差し出した。
「初めまして、よろしく。」
彼はにっこり笑って手を取ってくれた。
アイドルらしくて、優しそうな目をしてる。
第一印象はそのくらいだった。
「俺、なかなか時間取れなくて、迷惑かけちゃうと思うから、先に謝っとくね、ごめん。」
自己紹介をして5秒後に謝った翔さん。
「大丈夫ですよ。櫻井さんと一緒に大学の仕事できるだけで、私には貴重な体験なので。」
「そんなこともないだよね。俺、本当大したもんじゃないから。」
櫻井さんは笑って答えた。
「私の大学生活はゆったりまったりなので、全然、櫻井さんに合わせますよ。」
「じゃあお言葉に甘えて。」
櫻井さんが目尻にしわを寄せて笑った。
それから、インタビューやら撮影やらで何度か会う機会があり、休憩中とかに少しずつ話すようになった。
話せば話すほど、彼の気遣いだったり、努力を見せられることが多かった。
世の中の女の子を引き付ける人はやっぱり中途半端じゃない。
つづく