毒舌芸人が恋人です。

□怖い顔
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うちに帰って、ドアを開くと、何だか、るいが楽しそうに笑う声が聞こえた。



いつもなら俺が帰って来たことにすぐに気づくのに、自分の笑い声で気づかないのか、出てくる様子もない。



リビングのドアに近づくにつれて、俺は気づいた。


テレビから俺の声がしてる。



るいが俺のテレビを1人で見てるのが珍しく、顔が綻んだ。


時間的にリアルタイムで見てるのか。



俺は少し口を緩ませながら、部屋に入った。



「あー!おかえり。気づかなかったよ。」


るいは立ち上がって俺の元に駆け寄って来た。


「すげえ笑ってるんだもん。1人で俺の番組見てるなんて珍しいな。」



「うん、なんかおもしろいから。」



るいはちらってテレビに目を戻した。




「…そりゃよかった。」



俺もコートを寝室にかけてから、テレビの前に座る、るいの隣に腰を下ろした。



見れば、笑顔も見せずにブチ切れてる俺。



自分でクスッと笑った。



「あ、ヒロも笑ったー!すごいおもしろいね、ヒロ!」



ここまで直接褒められることが珍しいために、俺は気分がよくなっていた。



「そう?」


るいはこういうのが好きなのかと、頭の中に確かに残した。



「すっごい怖い顔!ここにこんなにしわが!」



るいは俺の眉間に触れて言った。



「そりゃキレてるからね。」



なんとなく予想と違う反応だったが、見惚れるほどの笑顔にこっちも笑顔になってしまう。



「すっごい怒ってる!めっちゃおもしろい!ガラ悪すぎる!ただの輩だよ、これじゃ!」



るいは俺の言葉に立て続けに笑って、お腹を抱えていた。



「なんか、見方がおかしい…」



「怖い!こんな人が先輩だったら、私、やだー!」



「おまえは、もっと俺の話術を聞け!」



俺は画面を指差した。



「あはは、ごめん。でもおもしろすぎて…」


るいはもはや笑いがとまらなくなっている。



「ったく…」



「だって、ヒロってすごい可愛い顔してるじゃん?笑ったりしたら目尻にしわ寄っちゃって。怖い顔してるのがなんか面白くて!」



「いや、そりゃ家で怖い顔はしないでしょ。」




「たまにテレビ見ながら怖い顔してるときあるよ。」



「え?ほんとに?」



まったく無自覚だった。



しかも1人のときならともかく、るいといるときにそんな顔してたのは。


「うん、眉間にしわ寄っちゃうからやめたほうがいいよ?」



「じゃあ、見たら言ってよ。」



「言う言う。ヒロの笑ってるの可愛くて好きだから。」



「そっか、じゃあ頑張って笑うわ。」



「ヒロ、笑って!」



「え?…こう?」


るいの無茶ぶりに俺はニコッと笑って見せた。


「そう!笑って笑って。」



るいが俺の頬を摘まみ上げた。



「おひおひ。」



俺はるいの手を握って引き剥がそうとした。



るいはそれを見て笑っている。



「俺の笑顔なんかより、おまえの笑顔のほうが数倍かわいいよ。」


俺はるいの片頬を摘まんだ。



「えー?」



「なんでもない、風呂入ってくるわ。」



「いってらっしゃーい。」



俺はそそくさとるいのそばを離れた。


まじでかわいい、るい。



おわり

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