毒舌芸人が恋人です。

□×ロンハー
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ある日の夜、ヒロが言った。



「ちょっと、紹介したい人たちがいるんだけど、来週時間空けられる?」



「来週だったら、なんとかなるよ。誰?」


「ロンハーの人たち。」


「えー会いたーい」


番組くくりで紹介したいと言われたのは初めてかもしれない。



もちろん私も一ファンであって、嬉しい。



「クセのある人たちだから、ちょっと大変かもしれないけど。」



「全然大丈夫、楽しみにしてる。」



「まあおっさん芸人ばっかだから」



「ふふ」

























私はヒロと近くの駅で待ち合わせた。




楽しみとはいえ、あの空気にいきなり入っていく自信はなく、タクシーで来たヒロに拾ってもらった。



「駅で待ち合わせるのって初めてじゃない?」



会えた途端にヒロが笑いながら言った。



「そうだっけ?前何回かなかったっけ?」



確かに記憶にある中では、駅で待ち合わせたことなんてない。



「なんかいいな。」



ヒロを見れば、なんだか嬉しそうに笑っている。



「そうだね。デートっぽいね。」



私がそう言うと、ヒロが恥ずかしそうに笑った。




「なんかそのメガネくたびれてきてない?今度のクリスマスプレゼント、それにしようかなー」




「外出る時ずっと掛けてっからね。てか、そういえばもうすぐクリスマスじゃん。なんか欲しいもんないの?」




「ヒロにブローチとか選んでみてほしいけどなー」



「ブローチ!?」



ヒロは初めて口にしたみたいなに言った。



「一緒に選びに行こう!」



私は無理と判断してそう言った。



「その方がいいね。」



ヒロも大きく頷いている。










「ちなみに今日は、誰がいるの?」



お店までもうすぐというところで、ヒロに聞いた。



「淳さん、亮さん、ジュニアさん」



「すごい、オールスター」



そこまで並んだ名前に私は感嘆の声尾を上げた。




「あと出川さんと、吉村と、あとスタッフが何人か。」



「ちなみにどうして、急に紹介してくれるの?」



「先輩にはね、もうそろそろ紹介しないとってのもあるし、スタッフは、まあ、ミーハーなのかな?」



自分で呼んだくせに、なのかな?はないでしょと思いながら、私たちは入店した。





個室の前に来るとヒロが私を一瞥してから、戸を開けた。



「お待たせしました。」



「おお!有吉!」


淳さんらしき声が聞こえた。


ヒロが座敷へ上がり、後ろにいた私を、すでに揃っていた面々に紹介した。



「おお!来たっ!!」



淳さんが私を見るなり、嬉しそうに笑って声を上げた。



「とにかく入りや。」



ジュニアさんが冷静に私たちを奥へと通してくれた。




「めっちゃかわいいじゃん。」



「おまえずるいな!」


亮さんがそう言った。


「なんすか、ずるいって。」



「もう結婚できればどんなのでもいいですとか言っといて、すっげえかわいいじゃん。」



亮さんが嫌そうな顔をして言った。




「有吉は、こういうとこ決めてくるよなあ!」



そう言って声を上げたのは出川さんだった。



「どういう意味ですか?」



「いじれるとこがないんだよ!おまえはずるいんだよ!なんでかっこいいんだよ!」




出川さんも眉間にしわを寄せている。




「想像以上ではあったよね。」



淳さんが腕を組んで、にやついた。



「全員、コメントがおかしいでしょ。」



ヒロはケラケラと笑っている。




「ちょっと、まずちゃんと紹介しよう。」




ジュニアさんが言った。




「本当ですね。彼女のるいで、付き合って、もうすぐ3年です。」



ヒロが私を指して、みんなに紹介した。




「もう長いんだ。」



淳さんが言った。



「この辺はまあわかると思うけど、淳さん、亮さん、ジュニアさん、出川さんね。」



私はひとりひとりと目を合わせた。



「あといつも話してる、加地さんね。」



私は一番奥に座っていた加地さんが頭を下げた。



「わあ本物だ。」



私は口元覆って、加地さんを見た。



「一番感動してんじゃん。」



ヒロが鼻をかいて笑ってた。



「タレントさんって、結構仕事場ですれ違ったりとか、私テレビ局で見たりとかしてるんですけど、現場のスタッフさんって見れないし、加地さんめっちゃテレビ出てるじゃないですか!」



「そんなに出てる?」



加地さんがふふっと笑った。



「アメトークとかでよく拝見しますよ。」



「アメトークは本当、業界視聴率高いな!」



ジュニアさんが言った。



「学生時代から見てますよ?」



「じゃあ、有吉のこともよく見てた?」



「見てました。」



「え、初めて会ったのは?」



「初めて挨拶したのは、私が社会人1年目のときなので、7・8年前…?」



私はヒロに視線を移した。



「そうだね」



ヒロがすぐに肯定した。



「もう、昔から知ってんだ!」



淳さんが意外そうに言った。




「ちょうど有吉がまた出だす頃か。」



加地さんが言った。




「だったんですかね?挨拶したころから、急にテレビ出たした印象はありますけど。」



ヒロが隣でうんうんと頷いている。




「そのときはまさかこんなビッグになるとは思わなかったんじゃない?」



出川さんが言った。




「でも、結構おもしろいイメージもありましたけどね。」



「へえ」



「でも、ロンハーのレギュラーになられたときは驚きましたね。」



「あのときもう付き合ってたの?」




淳さんが聞いてきた。



「いや、まだ。」



私は首を振った。



「これはなれそめ聞きくなるね。」



淳さんがまたにやりと笑った。



「お仕事は何されてるんですか?」



わざとらしいほど丁寧に聞いてきたのはジュニアさんだった。



「代理店で働いてます。」




「ちょっとジュニアさんのお見合いじゃないんですよ!」



吉村さんが言った。



「芸人と仕事することもあるん?」



ジュニアさんが続けた。



「たまにですけどあります。」



「やっぱ芸人の知り合い有吉だけじゃないよな?」



ジュニアさんはなにか心あたりがあるように言った。



「お仕事したことある人で何人か。」



「なんか前に、今田さんと飲んでた?」



少ししどろもどろなジュニアさんが声をこれ以上ないというほどにひそめたが、狭い個室では全員に聞こえている。



「え?」




淳さんと亮さんが鉄砲玉食らったような顔で私を見た。





「たまにご一緒させていただいてます。」




「若手にも声かけたりされてるでしょ?」




ジュニアさんは相変わらず、少しにやけながら私に聞いた。




「たまに。」




仕事になると1日中一緒になることも多いので、そりゃ声をかけられることもある。




「え、待って。たぶん、俺、何回か噂で聞いたことあるんやけど。」




「まあ、これだけ綺麗だったら、あるよね。有吉にそういうの言うの?誰に声かけられたとか。」




「はい。」



私はヒロを見ながら頷いた。



「るいちゃんが有吉の彼氏って知らなくて声かけた奴らは勝手に目つけられてるってこと?」




亮さんが怖えと声を漏らした。



「でも知らないんだから仕様がないよね。ちゃんと教えてあげたほうがいいんじゃない?」



淳さんが言った。



「いやですよ。秘密しといて、いつかばらしてやりますけどね!」



ヒロが意地悪そうに笑った。



「え!今まで誰に口説かれたの?」


淳さんがとっても楽しそうにそう聞いてきた。



「おまえら、先に飲み物注文させてやれや。」



ジュニアさんがそう言って、私たちにメニューを手渡した。




「ありがとうございます、生で。」



「私も。」



そう言うと、吉村さんが2人分を注文してくれた。




「今田さんとかとは、どこで会うん?」



亮さんが私を見て言った。



「接待ですね。今田さんは、入社して、本当に最初の頃、接待でお会いしました。」



「これだけ綺麗だったら、会社も接待で使いたいよね。」



淳さんが言った。



「有吉も大変だねえ!」



出川さんが嬉しそうにそう言った。



「別に大変じゃないですよ。」



ヒロが笑いながら手を振った。




「有吉、やきもちやくん?」



そう言った亮さんの顔はとても楽しそうだった。



「やかないです。」



ヒロが真顔で否定する。




「絶対やくでしょ。」



加地さんがさらっと言った。




「なんで、加地さんに言われなきゃいけないんですか?」



ヒロが笑って、視線を逸らした。



「小っちゃい独占欲が多い男じゃん」



「やめてくださいっ」



「でも、今、有吉がモテるからね。」



「ですよね!」



私は淳さんの言葉に反応した。



「心配でしょ?」



「うーん、そんなでもないですよ。でもなんか、みんながヒロの魅力に気づいちゃったのは残念ですね。」



「有吉…ヒロって呼ばれてるん?」



ジュニアさんが大口を開けて、笑っている。



ヒロを視ればヒロが恥ずかしそうに視線を外している。



私は肩をすくめた。




「しかも有吉は、たまに、たまに、ネットで噂とかされてるの見るでしょ!」




出川さんが声を張って言った。




「そうですね。」




私は頷いた。




「そういうのは大丈夫なの?」




「大丈夫ですよ。20代前半の女子じゃないですから。」




「しかも、結構こいつの知り合いと俺書かれるんですよ。」




「え、知り合い?」



加地さんが意外そうな顔をした。




「ミトは大学の後輩で就活手伝ったりしましたし。」



「そうなの!?有吉とめっちゃ仕事してるし、仲良さそうってよく噂されてんじゃん。でもそれをなんだ後輩だ、って見てるってこと?」



「本人の事情聞くと面白れえな!」



亮さんはおなかを抱えて笑っている。




「あと、生野さんは、彼氏が私の大学の同期で、今でも仲良いし。」



「まじで?」



亮さんは眉を垂れ下げている。



「あれ、竹内ともなんかあったんだっけ?」



私はヒロを見た。



「ちょっとね。」



「竹内は本当に大学ですぐ下の後輩だったでした。」



「そうなの?竹内はよくロンハーも出てるよね。」




「飲みに行くと、よくロンハーの話聞きますよ。」



「竹内は有吉と付き合ってること知ってるの?」



「知らないです。」




ヒロと一緒に仕事をしている知り合いには確かに伝えたほうがいいかもしれないが、竹内にも、ミトにも、みっちゃんにも、もちろん生野さんにも伝えたことはなかった。




「でも、あれって、竹内が有吉のことちょっといいみたいなことだったよね?言ってあげないとかわいそうなんじゃない?」



「そうですね、そのうち。」



ヒロは結構こうして私のことを紹介してくれるようになったけど、私は一向にそれができない。
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