毒舌芸人が恋人です。

□どんなに面倒でも
1ページ/2ページ




ヒロと付き合ってることは、基本的に誰にでも言えることじゃんくて、ヒロの仕事仲間くらいしか知らないこと。



ただ、共通の知り合いで、付き合ってることを言ってない人もたくさんいるし、私の知り合いはみんなもちろん、ヒロをテレビで知っているけれど、まさか付き合ってるとは言えない。



別に結婚してるわけじゃないし、言わなくてもいいと思うんだけど、たまに面倒なことになることもある。




―――仕事早く終わったんだけど、おまえ今日遅いんだっけ?




夕方、ヒロからそんな連絡があった。



最近、仕事詰めで疲れてたから、ヒロにすごく会いたかった。




だけど、今日は、夜、飲み会に誘われている。




ちょっとコンパっぽい感じが、ものすごくドタキャンしたいのだけど、そんなことはできない相手。




―――ごめん!今日は仕事で飲み会があるから、帰れるの11時くらいになると思う。















夜7時


飲み会のため、早めに会社を出た私は、指定された時間ちょうどにお店についた。


今日はある芸人さんに呼ばれて、一緒に飲むのはテレビ局のプロデューサーさんと聞いている。



なんか、ヒロの影がちらついて、少しいやな予感がしていた。



「失礼します。」



個室に入ると、すでに局の人らしき2人がいた。



「こんばんは〜どうぞ入ってください。」




二人に促され、座敷の中に入った。




簡単に挨拶を済ませて、他の人が来るまでの間少し雑談をしていた。




「今日は、アナウンサーとモデルとあと代理店勤務の方が来るとだけ聞いてるんですけど、るいさんは…モデルさんかな?」



二人が目を見合わせてから私を見た。




「そうなんですか。私は代理店勤務の方ですよ。」




「えっ!!そうなんですか!絶対モデルさんかと思いました。まあ代理店の方は美人が多いですからね。」



「まあ、派手な人は多いですけど、派手なのは、男性の方が多いですよ。」



「芸能人のスキャンダル相手ってことが多いですよね。」



「知り合いでもいますけど、そういう人は、もう本当嫌な人が多いですよ。」



「そうなんですか!」



二人が手を叩いて笑った。



そのとき、個室の戸が叩かれた。




「よお。お疲れ。」



そう言って入って来たのは、今日の主役?、今田さん。




そして、さきほど、言っていた、他2人の女性。



「るいちゃん、久しぶりやね。」




「ご無沙汰してます。」




私は腰を上げて挨拶した。




今田さんが到着して落ち着くと、いろいろ話が弾んだ。




「今田さんは結婚相手に求める条件、厳しすぎるんですよ。」



今田さんと飲むとだいたいいつも同じような話になる。



ヒロと付き合う前は結構一緒に飲みに行っていた。




「るいちゃんだって厳しいわけやないけど、変わった男好きになるやないか。」




「そうですか?」




「今、彼氏とかいるの?」




一人の男性がそう聞いてきた。



「はい、一応。」



「どんなやつなの?」



「どんな…かわいくて、優しくて、かっこいいです。」



「めっちゃ好きやん!」



今田さんがげらげら笑っている。




ヒロのことどんな人と言われてもうまい言葉が見つからないけど。




「なんの仕事してる人?」




ああ、一番聞かれて困る質問。




「まあちょっと特殊な仕事ですけど…」




「へえ、スーツ着てする仕事?」




「うーん、まあ。…そうですね。」




…司会とかしてるし。




「えーやくざ?」




甲高い声で女性が言い放った。




「違いますよー」



苦笑いするしかない。




「前はなんかモデルと付きおうとったよな。今度はうまくいっとるんか?」




今田さんがそう聞いた。



もう5年以上の付き合いになる今田さんにはいろんなことを話している。





「まあ…そうですね。もう3年目になりました。」




「そっか。もう3年か。モデルの後、わりと間髪入れずに付き合いだしたんよな。」



「まあ、そうですかね。半年くらいはありましたけど。」



「代理店で働かれてて、モデルとどこで会うんですか?」



自分もモデルをやっている女性が聞いてきた。




「仕事で会うときもありますけど、その人は、友達の友達で、こういう感じで飲みに行って会いましたね。」





「今の彼氏はどうやって会ったん?」




「えーっと…、初めて会ったのは、もう6年くらい前で、私が社会人1年目で研修してるときに、紹介されたんですよね。」




あのときのことを思い出すのは至極久しぶりのことだった。



もう6年も前になる。



まさかそのときは、この人と付き合うなんて思ってもみなかった。




「へえ、結婚とか考えへんの?」




「もう30なんで、考えるんですけど、今、仕事が結構大事なときで、もうちょっとだけ後にしたいんですよね。」




「え、でも結婚するとしたら、今の人ってこと?」




今田さんが念を押すように聞いた。




「そう…ですね…たぶん。」



自分でも笑いたくなるほど歯切れの悪い返事だったと思う。




改めてそう聞かれると、気恥ずかしくなってしまう。





「ふーん。」



今田さんが無表情で頷いた。




「彼氏忙しいんだ。じゃああんまり会ったりもできないの?」




男性がそう言った。




「そうですね…なんか土日仕事なのに、平日急に半休だったりするので、休みが合わないんですよね。でもまあ、それになりは会えてると思います。」



私がそう言うと、今田さんがぼそっと、なんか俺らみたいな仕事やな、と言い、ドキッとさせられた。



「じゃあ、一緒にするどるん?」



今田さんはそう言って目を見開いた。




「はい…一応。」



「ほんまか。」




今田さんは口に手を当てて、少しのけ反った。














6人での食事会は、全員がおしゃべりだったせいか、店を出ようとしたころにはすでに12時近くなっていた。



さらにもう一軒行こうという誘いを丁寧に断って、タクシーを呼び止めた。




「やっぱり、家で彼氏が待ってると付き合い悪いねえ」



今田さんが茶化すようにそう言った。



「そんなことないですよー。明日も朝から仕事なんですー。」




「あれ?そうなん?ほな俺も明日仕事あるから、帰るわ。るい送ってくで。」





今田さんがそう言いながら一緒にタクシーに乗り込んだ。





「え、大丈夫ですよ!本当に!今田さん家と違う方向ですから。」




「そんなん言うなや。」




今田さんは半ば強引にタクシーを出発させた。





「るい…前にも一度言うたけど、いっぺん俺と付き合わん?」




「…また、そういうこと言って。」




私はお酒がまわって、少し赤くなった今田さんを窘めた。




「まあまあ本気やで。」




「たまに会うからきっとそう思うんですよ。私は今田さんが好きになるようなできる女性じゃないですよ。」




「そりゃ付き合ってみんとわからんやろ。」




「彼氏いるって言いましたよね?私。」




なんとか笑顔で、少しずつ近づいてくる今田さんをまた窘める。




「でも、結婚悩んでるんやろ?俺やったら別にるいがどんな忙しくてもええで。」




別に忙しいからだめとか言うんじゃないんだけどな。





「いや…」



「彼氏んとこ帰るなや。」




「…帰ります…よ。」




「つれへんな…」




「今田さんのことは好きですよ。」



「おまえ、この状況でそんなこと言うて、頭悪いん?」



「えっと…」



「ははっ悪かったわ。気にせんといてな。」



今田さんはいつものように柔らかく笑って、急に素面に戻ったかのようだった。



それから、他愛のない会話をしていたら、うちの前についた。




今田さんはわざわざタクシーを降りて、マンションの前まで来た。




「じゃあ、今日はありがとうございました。また呼んでくださいね。」



「呼んでええん?」



今田さんが自嘲したように笑った。




「もちろんです!」



そして、今田さんが片手をあげて、帰って行ったとき、なんの偶然かちょうど今田さんの正面から、ヒロがマンションに向かって歩いてきた。




たぶん先に目が合ったのは今田さんと、ヒロ。




それから、ヒロが私に目を向けた。




「有吉。」



「え!今田さん?お疲れ様です!お久しぶりですね。」




「久しぶり、おまえここ住んでんのか。」




今田さんは今一度、振り返ってマンションを見上げた。




「はい、さすがに引越しまして…今田さんどうしたんですか?」




「ちょっと飲みがあったから、送ってくてん。」




今田さんが私を見たが、気まずいことこの上ない。




「ああ、そうですか!偶然ですね!」



そんなヒロの言動もすべてが不自然なものに思えてしまう。




「まあ、また仕事しよな。」




今田さんはそう言って、ヒロとすれ違った。




「るい、おまえ、有吉と同じマンションってどんだけいいとこ住んどんねん。」




今田さんは私にそう言って、またタクシーに乗り込んで帰って行った。




今田さんのタクシーが見えなくなったころ、ヒロを見ると、こっちをじっと見ている。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ