毒舌芸人が恋人です。
□足フェチ男子
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深夜2時
1人、広いベットで眠っていたとき、家の外が少し騒がしいと思えば、うちのチャイムが鳴った。
ヒロ、鍵忘れたのかな?
だとしたら、下のオートロックも開けられないはずだけど。
私は、体を起こして、カーディガンを羽織り、ディスプレイで外を見た。
「…はい。」
「もしもし?るいちゃん?夜遅くにごめんなさいね。有吉さん連れて帰ってきたから、開けてくれる?」
ディスプレイ越しに、山崎さんがそう言った。
周りにも何人かいるらしい。
「あ、すみません!ありがとうございます!」
私はそう言って、玄関へ走った。
ドアを開けると、山崎さんと村上さん、金田さんがヒロを担いでいた。
「ごめんなさいねえ。ちょっと騙してテキーラ飲ませちゃってね!」
「るいさん、ただいまあ!」
上機嫌な顔のヒロが手を上げてそういった。
「ちょっと、酔いすぎ…」
山崎に担がれて、ヒロはどかどかっと玄関に上がった。
すると、すぐに大理石の廊下に倒れこむ。
冷たくて気持ちいいと、大理石に貼り付くヒロを見て、ため息を零した。
「山崎さん、本当、すみませんでした。お二人もありがとうございました。」
私は三人に深々と頭を下げた。
「いえいえ!今日は俺たちが飲ませすぎました。こちらこそすみません。」
今日が初対面の2人は、深く頭を下げた。
「え、有吉さんの彼女さんですか?」
すると、村上さんが恐る恐る聞いた。
「は、はい…一応…。いつもお世話になってます。」
私が答えると心なしか二人が慄いたように見えた。
「いえ!本当、こちらこそ!びっくりした…有吉さんに彼女いるなんて、俺知らなかったですよ。しかも、すげえかわいいっすね。」
村上さんが私をじっと見つめて言った。
「本当、綺麗っすね。有吉さん羨ましいですわ。」
金田さんがそう続けた。
「まったく、みなさんも酔いすぎですよ。大丈夫ですか?ここから、タクシーですか?」
「はい…」
三人が頷いた。
「わざわざ送って来て頂いたんですよね?ちょっと待ってください。タクシー代出します。」
私は慌てて、部屋の中に戻った。
「え!大丈夫です!いつもご馳走になってるので!」
背中で金田さんがそう言うのが聞こえた。
「そんなこと言わないでください、下まで、一緒に行きますね。」
私は財布を持って、外に出ると、鍵を閉めた。
「いや、もう遅いから、大丈夫だよ?本当に。それに、有吉さん早く、ベットに寝かせてあげたほうが。」
山崎さんが心配そうに言った。
「そんなの申し訳ないですよ。ヒロはいいんです。あれでどっか痛くしても自業自得ですから。」
私はそう言って、エレベーターホールへ歩いた。
「ていうか、一緒に住まれてるんですか?」
金田さんがマンションの廊下を見渡しながら、言った。
「うちの実家は東京なので、そっちに一応住んでるんですけど、最近はヒロが忙しくて会えないので、ヒロの家に居候してる感じですけど…」
「綺麗なマンションすね。」
村上さんが言った。
「るいちゃんは家賃半分出すって言ってるのに、有吉さんが受け取らないって言って前に喧嘩してたことあったよね」
山崎さんがあの喧嘩を思い出して、笑っていた。
「えー!有吉さんになら、払ってもらって全然いいっすよ!」
村上さんが信じられないという顔で私を見た。
エレベーターに乗り込み、一階に降りた。
「有吉さんが彼氏だと大変じゃないですか?色々厳しいでしょ?」
「そんなこともないですよ。なんかテレビのイメージがみなさんあるみたいですけど、すごく優しいですよ。」
「惚気ですかあ?」
そういう金田さんはなんだか落ち込んでいるようにも見える。
「ふふっ。みなさんには厳しいですか?」
「後輩からしたら、めちゃめちゃ怖いですよ。」
そういう村上さん。
そういえばいつかヒロが文句を言ってたのを思い出す。
「そっかー、確かにそうかもしれないですね。でもだからこそ、悪いところは言ってもらえるので、気持ちいいですよ。」
本当はどう思われているとか、くよくよ悩むことはあまりない。
「そう思えないと、有吉さんの彼女なんてできませんよね。」
山崎さんはなぜかとても満足そうな顔をしている。
「そうかもしれませんね。」
私たちはマンション前の通りにでて、タクシーも待った。
「でも、有吉さんのかっこいいですよね。結構モテるでしょうし。」
金田さんが、不意に声を張って言った。
「仕事も職人みたいっすもんね。」
「私も、ヒロが仕事してるの好きです!かっこいいですよね!二人でいるときには見れない姿だから、なんかドキドキします。スーツ萌えもしますし!」
村上さんの言葉にあまりにも同調して、声が大きくなる。
「女性は男性が仕事してるところが好きってよく言うもんね。」
山崎さんが頷いた。
「本当そうです。」
「ちなみに、どの仕事してるときが一番好き?」
「えーっ、ひな壇にいるときとか?」
好きな所を思い出して、顔がにやけてくるのがわかる。
「あー!なるほどねえ!まあ有吉さんがMC席に行って安心してる人も多いかもしれないけど…」
山崎さんが語尾を濁して言う。
「MCで、努力してる感じもいいですし、メインで語ってびしばし言ってるのも好きですよ。」
「有吉さん、めちゃめちゃ愛されてて羨ましいなぁ!」
村上さんがやけくそな声で叫んだ。
「しかも、るいさんにめっちゃ一途っすよね。どおりでどんな女性見せてもだめなわけですよ。」
村上さんは何度も大きく頷いた。
「そうですか?ヒロの周りは美人が多いからたまにドキドキしますよ?」
「そんなこと全然心配する必要ないよ、るいちゃん。酔った有吉さんに、今日のあの子可愛かったっすねっていうといつも、るいのが全然いいわってよく言ってるからねぇ。」
山崎さんがにこっと笑って言った。
「…そう…ですか…?」
そんなこと、なかなか言ってくれないのに、直接言ってくれればいいのに。
「しかも、そこらのタレントに全然劣ってないですよ!…照れてるんすか?かわいいんですけど。」
村上さんが口を抑えた。
「おまえ、あんま言うと、有吉さんにまじで潰されんぞ。」
金田さんが深刻な顔で言った。
「いや、そのくらいじゃ大丈夫ですよ。」
私は首を振った。
「本当、有吉さんって後輩には厳しいんすよ!」
私の言葉に反論する金田さんは必死だ。
「…ヒロ…すごく怖がらせてるんですね。ごめんなさい。」
確かに、私への態度と、同業者への態度が同じなはずはないのだけれど。
「いやいや、飲めばケタケタ笑ってるだけだから。」
そんなとき山崎さんがあっけらかんと言った。
そのとき、ちょうどタクシーがとおり、私は手を挙げて止めた。
「それじゃあ、みなさん、今日は本当ありがとうございました。少しお話しもできて楽しかったです!」
「こっちこそ、有吉さんの彼女さんにお会いできて本当嬉しかったです!今度はぜひ有吉さんも一緒に、食事でも行きましょう!」
金田さんが腰低く手を差し出したので、私はその手を取って握手を交わした。
「俺もよかったです!またお話ししましょう!」
村上さんとも握手を交わした。
私は三人が乗ったタクシーを見送り、部屋に戻った。