毒舌芸人が恋人です。

□熱
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「そっちじゃなくて、こっちこいって。」




タクシーの窓に頭を預けているるいを引き寄せると、素直に頭を俺の肩に預けた。



心地よい重さが肩に圧し掛かる。



「ごめんねー、ヒロ。 せっかく仕事早く終わったのになのに…」



なんとも弱弱しい声で、るいがそう言った。



いつもなら、俺より数倍元気なるいの弱った声に、俺は理不尽にもどきっとした。



「それはいいけどさ。元々、風邪気味だったんだから、ここうなって当然だろ。休めなかったの?」



「うん、今日クライアントと会う日だったから…ごめんなさい…」


るいは片手で自分の顔を伏せた。



「もう、謝んな」



俺はるいの頭をぽんぽんと撫でてやった。


すると、安心したようにるいから吐息が漏れた。

2、3日前から風邪っぽかったるいが、仕事中に高熱で、早退すると連絡がきた。


珍しく明るいうちに仕事が終わり、飲みに行こうとしていたところだったが、そんな気分も急に冷めて、タクシーで会社まで迎えに来た。


見上げてしまうほどの高いビルに目を見張ったが、そこから出て来た、るいはあからさまに弱っていて、白い顔をしていた。


隣のるいに視線を戻すと、多分熱が上がったのだろう、 車に乗り込んだ時よりも、顔が真っ赤になっている。


はぁはぁ、と彼女の荒い呼吸が痛々しい。



「おい、熱、上がってんじゃねえのか?」



俺は、自分の手をるいの額に当てて、熱を測った。



するとふわっと甘い匂いが俺の鼻をくすぐった。



こんなときに時に、何を考えてんだ、俺…



自分の短絡さを笑った。









「…少し平気になってきたから。」


部屋に着くなり、るいはそう言って、スタスタとリビングへ歩いていったが、少しずつ左に傾いていた。



「どこらヘんが平気なんだ? 真っ赤じゃん。」



俺は急いでくつを脱いでその背中を追いかけて、体を支えた。



「ヒロも疲れてるでしょ…」



るいが困り顔で俺を見上げた。



その潤んだ目が、また俺の心臓の鼓動を早めた。



「ば、ばーか。そんなこと気にする余裕があるんなら、自分のこと心配してろ。」



俺は少しどもりながら、そう言いながら、棚から冷えピタを取り出した。



「大丈夫だ…もん…」



るいはそう言って笑ったが、その途端、#るい#の体が傾いた。


「おいっ!」


とっさにるいの横に飛んで行き、その身体を抱きあげた。



一瞬のできごとに心臓が落ち着かない。


「おまえ、やばいだろ…観念しろ。」


るいはゆっくり起き上がった。


だけど、俺は更に、彼女を強く抱き寄せた。


「無理しすぎだ。自分のこと、もっと大事にしろよ。」




心なしか、るいの顔がますます真っ赤に染まった気がする。



「今日はもう寝てろ。これ以上こじらせるなよ。」



俺はそう言って、るいと顔を見合わせた。




「…はい。」




上目使いのるいが申し訳なさそうに頷いた 。



弱っている姿に心が揺さぶられてるのは俺の性格が悪いからなんだろうか。




「氷持ってくるから。寝てろよ。」




俺はるいをベットに寝かせてから、ベットの端に腰掛け、その頭を優しく撫でた。




「…なんか、ヒロがすごい…優しい」




「いつもだろ。今日は特別に飯も作ってやるけど。」



「わー、貴重だ。楽しみ。」



るいは布団で半分顔を隠して、うれしそうに目を細めた。



それから、氷を持っていったら、るいは寝息を立て始めていたので、起こさないように慎重にそれを首元に置いたが、触れた途端に、るいが目を開いた。


「悪い、起こした‥」



「…いいの。ヒロ、好き」



「………っ」



そういう顔で言うなよ。



「…大好きだよ」



熱のせいなのか?



「ああ、…知ってる」



「ヒロは、言ってくれないの?」



急に大胆になっているるいに俺は、眩暈を起こしそうだった。



そういうの得意じゃないって、るいだってよくわかってるくせに、絶対にわざとだ…



「らしくねえこと言うな。」



「言ってくれないんだ。言ってもらえたら、私うれしくて、熱下がるかもしれないよ。」



「なんだ、そりゃ」



こんなバカな会話も彼女と一緒なら、ひどく楽しい。


「…好きだよ」



俺は照れ隠しで、不意にぼそりとさりげなく呟いた。


るいは俺を見つめているんだろうが、そんな彼女を直視する事が出来ない。



「感謝しろよ」



俺はそう言い捨てて、その場を去ろうとした。



「…ヒロ…」



するとなんとも寂しそうに鳴くるい。



俺は素早く踵を返し、その唇にキスをした。



おわり

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