毒舌芸人が恋人です。

□いったい何の冗談で
3ページ/3ページ






家に帰る間、ヒロとずっと手を握っていた。




「ヒロ…元気だった?」




一言も離さないヒロに、私はそう聞いた。



「…全然。」




「今日、ミトとご飯しててさ、ヒロが元気ないって聞いて、心配してたんだけど。」





「もう…帰ってこないかと思ったから。」



「そんなわけないじゃん。荷物だって全部置いてきてるのに。」




「最初はそう思ったけど、よく考えたら、ただの洋服とか化粧品とかで、別に新しいのいくらでも買えるものだったから。」




「…まあそうだけど。それなら連絡してくれればよかったのに。」




私は口をへの字にして反論した。




「…怒ってんのかなって思ったら、連絡できなくて。」




「大学生じゃないんだから…」




私は呆れて、笑いがこぼれた。



ヒロが正面から視線を外して、私を見た。




いつもならもらい笑いしてくれるヒロの無表情に、顔が固まりそうになる。




ヒロはまた視線を正面に戻した。



「ごめんな。わけわかんねえこと言って。」



「もういいよ、別に。」




「怒ってたから連絡してこなかったんじゃないの?」





「うーん。そうでもなかったんだけど、しばらく会わないもの珍しくていいかなと思って。あと、ヒロに言われた通り、週刊誌の記事とか見てみたんだけど、全部読んだら、変に意識しちゃって、連絡しずらくなっちゃったんだよね。」




「なんか何言ったのかちゃんと覚えてないんだけど、本当忘れてください。」




「覚えてないんだ…」



私はそう言ってため息をついた。




「本当、ごめん!」




ヒロは私の手をほどくと、私の前に立ちはだかって、頭を下げてきた。




「え、ちょっと、わかってるって。ヒロ、すごい酔っ払ってたし。」




「それでも、なんか言ってることダサすぎて…」



「まあ、ダサかったね。」



顔を上げたヒロの顔はなんとも言えない悲しい顔をしていた。




「わかったよ。もう全部忘れるから。帰ろ?」



私はヒロの手を取って歩き出した。











家に着いても、なんだかヒロは無口で、こっちが逆に気を使う状況。



「ヒロ、ごはん食べてきた?」



「ああ、うん。」



「テレビ見ようよー」



「いいよー」



ヒロと並んで、テレビを見るのも久しぶりだった。




ふとヒロを見ると、ヒロがこっちをじっとしてた。




「え、なに?」




「るいの匂いがしたさ。」



「そっか。」



ヒロは私の頭に手を添えて、自分の方に傾けて、肺に空気を吸い込んだ。



「そんなに私の匂いする?」




「うん。する。安眠効果があるやつ。」




「なにそれー」



ヒロの言葉に思わず笑ってしまった。



「俺、酒まわるとわけわかないこと言うけど、本音じゃないから。」



「わかってるよ。」



「るいが帰ってこないかもしれないと思ったら、想像以上に怖かったんだよね。」



「ありがとう。私もさみしかったよ。」



「でもるいの匂いが好きだから、たばこの匂いやだからさ。」



「うん、気をつける。ヒロ、大好き。」



私はヒロに抱き着いた。



「…うん。」



「ヒロの匂い、いい匂い。」



くんくんと鼻を動かすと懐かしい香りが鼻をくすぐった。



「ヒロ、笑って?」



私はヒロと顔を見合わせて言った。




「無理。」



ヒロが首を振った。



「…そのうち見れるからいいか。それに私はヒロに会えなくても、テレビでヒロが笑ってるの見れるから、会えないときも楽しかったよ。」




「ずるすぎでしょ、それ。」



そう言ったヒロは少し微笑んでいた。



それを見て、やっぱりヒロの笑顔は一番近くで見ていたいと思った。







おわり
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ