毒舌芸人が恋人です。
□いったい何の冗談で
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家に帰る間、ヒロとずっと手を握っていた。
「ヒロ…元気だった?」
一言も離さないヒロに、私はそう聞いた。
「…全然。」
「今日、ミトとご飯しててさ、ヒロが元気ないって聞いて、心配してたんだけど。」
「もう…帰ってこないかと思ったから。」
「そんなわけないじゃん。荷物だって全部置いてきてるのに。」
「最初はそう思ったけど、よく考えたら、ただの洋服とか化粧品とかで、別に新しいのいくらでも買えるものだったから。」
「…まあそうだけど。それなら連絡してくれればよかったのに。」
私は口をへの字にして反論した。
「…怒ってんのかなって思ったら、連絡できなくて。」
「大学生じゃないんだから…」
私は呆れて、笑いがこぼれた。
ヒロが正面から視線を外して、私を見た。
いつもならもらい笑いしてくれるヒロの無表情に、顔が固まりそうになる。
ヒロはまた視線を正面に戻した。
「ごめんな。わけわかんねえこと言って。」
「もういいよ、別に。」
「怒ってたから連絡してこなかったんじゃないの?」
「うーん。そうでもなかったんだけど、しばらく会わないもの珍しくていいかなと思って。あと、ヒロに言われた通り、週刊誌の記事とか見てみたんだけど、全部読んだら、変に意識しちゃって、連絡しずらくなっちゃったんだよね。」
「なんか何言ったのかちゃんと覚えてないんだけど、本当忘れてください。」
「覚えてないんだ…」
私はそう言ってため息をついた。
「本当、ごめん!」
ヒロは私の手をほどくと、私の前に立ちはだかって、頭を下げてきた。
「え、ちょっと、わかってるって。ヒロ、すごい酔っ払ってたし。」
「それでも、なんか言ってることダサすぎて…」
「まあ、ダサかったね。」
顔を上げたヒロの顔はなんとも言えない悲しい顔をしていた。
「わかったよ。もう全部忘れるから。帰ろ?」
私はヒロの手を取って歩き出した。
家に着いても、なんだかヒロは無口で、こっちが逆に気を使う状況。
「ヒロ、ごはん食べてきた?」
「ああ、うん。」
「テレビ見ようよー」
「いいよー」
ヒロと並んで、テレビを見るのも久しぶりだった。
ふとヒロを見ると、ヒロがこっちをじっとしてた。
「え、なに?」
「るいの匂いがしたさ。」
「そっか。」
ヒロは私の頭に手を添えて、自分の方に傾けて、肺に空気を吸い込んだ。
「そんなに私の匂いする?」
「うん。する。安眠効果があるやつ。」
「なにそれー」
ヒロの言葉に思わず笑ってしまった。
「俺、酒まわるとわけわかないこと言うけど、本音じゃないから。」
「わかってるよ。」
「るいが帰ってこないかもしれないと思ったら、想像以上に怖かったんだよね。」
「ありがとう。私もさみしかったよ。」
「でもるいの匂いが好きだから、たばこの匂いやだからさ。」
「うん、気をつける。ヒロ、大好き。」
私はヒロに抱き着いた。
「…うん。」
「ヒロの匂い、いい匂い。」
くんくんと鼻を動かすと懐かしい香りが鼻をくすぐった。
「ヒロ、笑って?」
私はヒロと顔を見合わせて言った。
「無理。」
ヒロが首を振った。
「…そのうち見れるからいいか。それに私はヒロに会えなくても、テレビでヒロが笑ってるの見れるから、会えないときも楽しかったよ。」
「ずるすぎでしょ、それ。」
そう言ったヒロは少し微笑んでいた。
それを見て、やっぱりヒロの笑顔は一番近くで見ていたいと思った。
おわり