ハイキュー!!
□気まぐれでも・2
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『及川さんと付き合うことになった』
『…。良かったじゃん』
『じゃあもう寝る』
『影山』
『なんだ』
『…おやすみ』
『おう、またな』
夜遅くに影山から電話がかかってきた。
めったに自分から連絡をするようなやつじゃないから何事かと思えば、わざわざ及川さんとのことを俺に報告してきた。
さっきまで眠気に襲われていたのが嘘のように頭の中がクリアになる。
自分で影山に『告ってみれば』なんて、けしかけておいてなんだけど。
本当に及川さんに告るとは思っていなかった。
単細胞の行動力恐るべし…。
そんなことよりもっと驚いたのは及川さんが影山を受け入れたことだ。
*
俺が影山に対して友達以上の感情を抱いたのは中1の頃だった。
そして及川さんが影山のことを口では嫌いと言いながらもいつも気にかけているのを知ったのも同じ頃。
当の影山はバレー馬鹿だから、そんなことに気づくはずもなくただ及川さんに嫌われているということだけ理解していたようだった。
及川さんが中学を卒業してからは平穏な日々が続くものだと思っていたのに影山とはいろいろあって高校も別々になった。
今はまた親しい友達として接しているけれど俺の場合、友達以上の感情をまだ影山に抱いている。
そんな俺だからこそ、影山の及川さんに対する気持ちの変化に嫌でも気づいてしまった。
前は及川さんのバレーにしか興味を示さなかった影山が、最近ではバレー以外の及川さんの情報にも喰いつくようになった。
及川さんの話をしている時はいつも瞳をキラキラさせて嬉しそうにしている。
影山の頭の中はバレーと及川さんで埋め尽くされているのは一目瞭然で。
俺の入り込む隙間なんてこれっぽっちもないのだと思い知らされた。
*
及川さんにいたっては青城と烏野の練習試合で影山と再会して、更に影山のことを意識しているのがよくわかった。
俺が影山の姿を探して視線を彷徨わせていれば、俺よりも先に及川さんの視線が影山を捉えていた。
烏野の先輩たちに構われ、特に灰色頭のセッターの人に懐いている影山を見た及川さんは一瞬顔を歪めて唇を噛みしめていた。
その時から俺は、及川さんも俺と同じ様な想いを…恋愛感情を、影山に抱いているんじゃないかと薄々感じ始めた。
けれど、もしそうだとしても及川さんの性格上、今更影山に対して素直になるなんてありえないと思った。
だから影山が告ったとしても及川さんはいつもみたいに影山を邪険にして終わるものだと思っていた、のに…。
『及川さんと付き合うことになった』
一晩中、影山の声が耳にこびりついて離れなかった。
*
「なあ、及川…なんかいいことでもあったのか?」
「え?なんで?」
「いや、さっきから鼻歌フンフンうるせーし」
「うるせーって何!?マッキー酷いっ!!ねぇ、岩ちゃんもそう思うでしょっ」
「うぜー、だまれ及川っ!」
「岩ちゃんまで!?及川さん泣いちゃうっっ」
朝から部室でギャーギャー騒いでいる3年生たちを見て、つい冷めた視線を向けてしまう。
及川さんの機嫌が良さそうなのはやっぱり影山とのことが関係しているのだろうか…。
皆はまだ何も知らなそうだけど、いずれ影山とのことを及川さんは話すかもしれない。
まあ岩泉さんが知るのは時間の問題だと思うけれど…。
余計なことを考えていたら急に眠たくなってきた。
俺は昨晩、影山の電話の所為で殆ど眠れずに朝を迎えた。寝不足もいいところだ。
確か今日の1限目は担当の先生が不在で自習のはずだから、その時間は寝るに徹することを決めた。
「あれっ国見ちゃん、今日はいつにもまして眠そうだね?」
「…はぁ」
及川さんは意味ありげに口角をあげて笑っている。
もしかして影山から聞いたのだろうか、俺が2人の関係を既に知っているということを。
チッと小さく舌打ちして及川さんの横をすり抜けようとした。
「国見ちゃん、ごめんね?」
「…?」
「あいつ、及川さんのものだから」
「!?」
耳元でそっと囁かれて俺は固まった。
なんで及川さんが俺にそんなことを言うんだと頭が混乱した。
及川さんにバレてる…?
俺が影山に対して友達以上の感情を抱いてるってことを…
「知ってたよ、国見ちゃんがトビオのこと好きだって」
「っ…」
及川さんはまるで俺の心を読んだかのような言葉を耳元に残し、何事もなかったようにスッと俺から離れていった。
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