短編夢小説
□生存意義
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「……」
ああ、どうしてだろう。
戦いは、徹さんがエネルギーキューブを破壊することによって今、終わった。
それなのに、私の目から涙が溢れて止まらないのは………。
「…徹…」
「…鏡華…」
お互いを愛おしそうに抱き合いながら唇を重ねる二人。
二人は、よく一緒に居たけど付き合っているという話は聞いた事が無い。
だからこの全ての戦いが終わったら、自分の気持ちを伝えるつもりだった。
……でも、結局二人はお互いをいつでも何よりも大切に、愛おしく思っていたのだ。
だから、こうなっているのだ。
私では、徹さんの心を掴む事はできない。
この心の深い傷を負ったまま、これからどう生きればいいのだろうか。
生きる意味、もうないじゃない。
信じていた人達に裏切られちゃ。
私達が2015年から消える時、鏡華が私を見て、嘲笑った。ような気がした。
私は、それを最後に意識を手放した。
*********
「ナルー!いい加減起きなさい!」
「うー…、はぁい…」
ああ、今日は良くない日になりそうだ。
「行ってきまーす!」
早々と食事と着替えを済ませて家を出る。
「あ、おはよう」
「おはよっ!ナル!」
「おはようございます!徹さん、鏡華さん!」
出ると、私の片思いの人の徹さんと鏡華さんがいた。
徹さんは、私を見ると決まって決まりの悪そうな、申し訳なさそうな、後ろめたそうな、何とも形容し難い顔をする。私、何かしたかな?
あーあ、私も彼氏作っていちゃこらしたーい。
「ほんっとに、二人共ラブラブですよねー…」
「えー、そんな事ないよー」
と、言いつつもキスを堂々と朝からする二人。リア充爆発…ん?
何か頭の中に…!
{……ぁああああああぁぁぁああぁあぁぁ!!!}
{落ち着け!ナル!}
{死なせてぇぇええええぇぇ!!もう、生きる意味無いぃぃいいいぃ!}
{仕方がない…!悪く思わんでくれ}
…ああ、そうだった。
「ナル?」
どうしたの、と問い掛ける二人を余所に私の記憶は引き摺りだされていく。
{どうして?}
{あの人は私を見ていなかったの?
{痛い、苦しい、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い苦しい、痛い苦しい、痛い苦しい}
{ああ、そうか}
{この世界が私を必要としないなら}
「………死んでしまおう」
「ナルっ!!」
私は、走り出した。目の前の高層ビルに。
「思い出したの!?」
「早く、止めないと!」
走って走って、エレベーターに乗り込む。
二人は、少し遅かった。私が乗ったエレベーターの扉が閉まる直前、焦る二人の顔が見えた。
そして、屋上。
ぞっとする程高い。
ヒョイヒョイとフェンスを登って、フェンスの外側に立つ。
そこでようやく二人が来た。
「ナル…、思い出した、のか?」
「……はい。……徹さん、私はあなたが、好きで好きで、好きで、嫌いです」
「……!」
「でも、もういいですよね」
……愛してた。
私はそう呟いて、重心を後ろに傾けた。
一瞬の浮遊感と、次の瞬間の落下。
上では、涙をこぼす二人。
さようなら。
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2015/06/24 fin,