GYM熱(完結)

□迷走
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渡り廊下を歩いていると、俺が担任するクラスの窓辺に総司の姿を見つけた。
3年の総司が、うちの教室で何やってんだ?
俺は足を止めて首を傾げた。

ん?
………総司の隣にいるのは千鶴ちゃんか?
後ろ姿だが、見間違えるはずはない。
何で2人が一緒にいるんだ?
ああ。
そういや、2人は幼馴染だったか。

その時、総司と目が合ったような気がした。
…いや、確かに目が合った。

総司は俺を見て、口元に笑みを浮かべて猫のように目を細めた。
なぜ総司に笑い掛けられているのか理由が分からず、俺は、ますます首を傾げた。
総司が千鶴ちゃんの耳元で何か話をしたかと思ったら、2人の姿が重なった。
俺は目を見開いた。


ぬをををををををを!


ちっ千鶴ちゃんに何してやがる!
俺は、2人を止めるべく全速力で教室へと向かった。
だが、教室に入ろうとしてハッと我に返った。


まさか。
2人は、つき合ってんのか?


教室のドアを開けることができず、俺は立ち竦んだ。
すると、反対側のドアがガラリと開いて、千鶴ちゃんが飛び出してきた。
俺に気づかず、そのまま走り去る彼女の後ろ姿をぼんやりと見送ってから、俺は教室に入った。
総司は、窓際の机を椅子代わりに腰掛けながら千鶴ちゃんが出て行ったドアの方を見ていた。

「あれ?新八さん。あ。これ、千鶴ちゃんの忘れ物。」

“あれ?”じゃねぇだろうがよ。
見せつけるように千鶴ちゃんにキスしやがって。
俺は、差し出された日誌を無言で受け取った。
ぱらぱらとページを捲り、今日のページをチェックしながらも、脳裏に甦るのは先程の2人の姿。

「お前ら、つき合ってんのか?」

極めて平静を装いながら問いかけたつもりだったが、俺の口から出てきたのは自分でも驚くくらい低い声だった。
総司が驚いたような顔をして俺を見た。

「凄い殺気。」
「つき合ってんのか?」

俺は拳をぐっと握りしめながら、もう一度問いかけた。

「新八さんは、千鶴ちゃんのことが好きなの?」
「なっ?違っ!」
「へぇ…そういうこと、なんだ。教師のくせに。ふぅん。」
「何の話だ?」
「とぼけないでよね。」

長い沈黙の後、総司が椅子代わりに座っていた机から降りた。

「さてと。僕、部活に行かなきゃ。新八さん、手合せしてくれない?」
「頼まれなくても、そのつもりだぜ?」
「怖いなぁ。殺されそう……負けないけど。」

総司が俺を挑発するように、黒く笑った。

「んじゃ。格技場、行くか。」

俺は、総司の肩を抱いて教室を出た。

「うわっ。香水くさっ。あと、土方さんと同じ煙草の臭いもする。最低。」
「うるせぇ!」
「離れてくださいよ。新八さんて…不潔。」

放課後の教室を後にして、俺達は、格技場に向かって歩き出した。
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