歳三くんと私(未完)

□文月の章
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文月の章【2】


✻ ✻ ✻ ✻ ✻


合コン会場であるリロリロ亭に到着した私は、お店のドアの前で腕時計を見て時間を確認した。

18時50分。

食べることがが目的とはいえ、生まれて初めての合コンなので少し緊張する。
私は店の前でひとつ深呼吸してから、そっと扉を開けて蘭先輩の姿を探した。
リロリロ亭の客層は20代から30代といったところで、楽しそうに歓談するカップルや、少しはしゃいだ感じの女の子のグループなどが食事を楽しんでいた。

「土方様のお連れの方ですか?」

ウェイターさんに声をかけられた私は、店の奥まった場所にある半個室の空間へ案内された。

「す…すみません。遅くなりました。」

時間に遅れたわけではないけれど、謝らずにはいられない雰囲気。
開始10分前だというのに私以外の全員が着席していて少々面食らった。
時間前に全員集合だなんて、もしかして皆さん、非常に張り切ってらっしゃる…?

「遅刻したわけじゃないんだから謝らなくていいのよ?千鶴ちゃんは何飲む?」
「では、アイスティーを…。」

蘭先輩に促されて空いている一番右端の席に座る。
こういった場に不馴れな私を守るように左手に蘭先輩、向かい側に蘭先輩の彼氏さんである佐藤さんが座ってくれていた。
本日の合コンの参加者は男性4名、女性4名。
蘭先輩曰く合コンの勝率が最も高いのは3対3なのだという。
今回は、幹事である蘭先輩と佐藤さんが既にカップリングしているということで4対4でセッティングしたらしい。




女性陣は蘭先輩が大学のミスコンで仲良くなったお仲間さん達だそうで、当然のことながらスタイルが良くて綺麗なお姉様方だ。
男性陣は佐藤さんと同じ超有名私立大学の大学院に通う皆さんで、私よりも4学年上の方々だった。
きっと、将来有望なんだろうなぁ……と思うけれど、今日の目的は男性との出会いではなくて美味しい料理を食べること!
お姉様方は蘭先輩を始め美人さん揃いなので、おそらく私なんかは男性陣の目に入らないだろう。
そう思うと気が楽だった。





今月は1999年7月ということでノストラダムスの大予言についての話題で盛り上がった後、

「準ミスの好子ちゃんに会えるのを楽しみにしてたんだけどなぁ…。」

1人の男性が残念そうに呟いた。
代わりに私のような者が参加してしまって申し訳ありません……。
リロリロ亭自慢のクリスピーピザを食べながら、私は心の中で謝罪の言葉を述べた。

「蘭ちゃんに好子ちゃん?昔のアイドル三人組みたいだな。ミキちゃんはいないの?」
「あ、俺の下の名前ミキだよ。鈴木三樹!」

私と対角線上に座った鈴木さんと名乗る男性が手をあげた。
蘭先輩が連れてきたお姉様方がクスクスと笑う……心なしか、お姉様方の鈴木さんに対する視線が甘いような…?

「彼は資産家の次男坊なの。今日の注目株よ。」

蘭先輩が耳元でコソッと教えてくれた。
なるほど……。
チラリと鈴木さんを見るとバチッと目が合った。
視線を逸らすのも失礼なので、ペコリと頭を下げると笑い返してくれた。
よく見ると鈴木さんは、なかなかのイケメンさんだった。
見た目がいい上に超有名私立大学の大学院生で資産家の次男坊…。
多分、女の人に不自由してないんだろうな。
鈴木さんからは“彼女が欲しい!”とか“お持ち帰りするぞ!”みたいなギラギラしたオーラは全く感じられなかった。





後から考えると、この夜が私の運命の分かれ道だったのだと思う。
ここで鈴木さんと出会わなければ私の人生は多分、全く違ったものになっていただろう。
でも、この時は。
まさか、鈴木さんが私の人生を大きく狂わせてしまうなんて微塵も思わなかったのだ。





21時になり、ひとまずお開きにしようということになった。
皆さんは二次会に行くようだけど、満腹になったし二次会に行くお金もないし、私は一次会で失礼することにした。
リロリロ亭の外で蘭先輩と佐藤さんに今夜のお礼と別れの挨拶をして、さて帰ろうとしたところで、

「俺、明日早いから抜けるわ。雪村さんのこと送ってくよ。」

鈴木さんが私に声をかけた。
それと同時にお姉様方から落胆の声が上がった。

「雪村さん、この近くの女子寮に住んでるのよね?ここら辺は明るいし、1人で帰っても大丈夫なんじゃない?」

お姉様の一人が、口元に笑みを作りながらそう言った。
目が笑ってないっ。怖いっ!

「は、はいっ。すぐそこなので私は1人で大丈夫です。鈴木さん、お気持ちだけで…。」
「駅に行くついでに送ってくだけだけど何か問題ある?」
「は……はぁ。」
「じゃあ、そういうことで。雪村さん、行こうか。」

さり気ない中にも有無を言わさぬ力強さで鈴木さんに肩を抱かれた私は、思わずビクリと体を揺らした。
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