歳三くんと私(未完)

□水無月の章
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水無月の章【2】


✻ ✻ ✻ ✻ ✻


決められた制服を着て、決められた時刻に学校に行き、たいして面白くもない授業を受ける。
少しでも集団から逸脱した行動を取れば咎められ、遊んでいる暇があれば将来のために勉強しろと説教される。
カンニング?
そんな小せぇことするわけねぇだろうが。


ああ。
この小さな世界から抜け出したい。
だが、どんなに足掻いても、まだ15の俺は八方塞がりのこの世界から抜け出すことができない。


----------早く大人になりてぇ。


切実に、猛烈に、そう思った。










蘭姉は、タイトなスーツ姿で学校にやってきた。
カッチリとした黒いスーツは、若い娘だと舐められないための防御服…いや、戦闘服のように思えた。
校長室の革張りのソファに浅く座り、シャンと背筋を伸ばして話を聞く蘭姉の姿は、どこから見ても“デキる女”だった。

「歳三は、カンニングをするような卑怯な子ではありません。1ヶ月ほど前から家庭教師の先生に来ていただいてまして、歳三は熱心に勉学に励んでおりました。今回、急に成績が上がったのは、その成果が出たということなのでしょう。」

ああ、スイッチが切り替わってんな…と思った。
蘭姉は窮地に追い込まれるほど頭が冴えるタイプで、こんな時は、おそろく弁が立つ。
つまり、無敵だ。

「弟に謝罪をしていただけますね?」

蘭姉が自慢の目ヂカラで国語教師をじっと見つめると、まるで蛇に睨まれた蛙のように国語教師が縮こまった。

「ぐ…ぬぅ………疑って、申し訳…なかった。」

悔しそうに唇を噛みしめながら俺に頭を下げる国語教師の姿を見て、蘭姉が満足したように酷薄な微笑を浮かべながら頷いた。
そして、

「歳三。こちらの先生は、歳三に胸ぐらを掴まれて思わず大声で助けを呼んでしまうほど怖い思いをされたの。怖がらせてしまったお詫びををした方がいいわ。」

さり気なく国語教師を貶めるような発言をしつつ、俺にも謝罪するように求めた。
事態を丸く収めるために蘭姉が助け舟を出してくれたことに気づいた俺は、不本意ながらも頭を下げたのだった。
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