歳三くんと私(未完)

□皐月の章
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皐月の章【2】


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俺と蘭姉は、2年前に交通事故で両親を一気に失った。
通夜の席で俺を施設に入れようという相談を始めやがった親戚一同に腹を立てた蘭姉が、親戚のじじばば相手に啖呵を切った。

「私が歳三を立派に育て上げるんだから!あんた達とは今後一切の縁を切らせてもらうわ!遺産も渡す気はないわよ。」

蘭姉は、強かった。
法律事務所を通して親戚一同を黙らせ、両親の墓を建て、四十九日の法要を終えて納骨を済ませた後、争いの種であった家や土地を全て処分して金に換えた。

「歳三。遺産はきっかり二等分よ。言っておくけど、法律事務所に間に入ってもらったから私はこれっぽっちもくすねてないわよ?本当に山分け。そして、これがアンタの通帳。」

通帳を開くと、そこには8桁の数字が印字されていた。

「今後の学費が入ってるわ。お金のことは心配しないで大学行くなり留学するなり何だって好きなことするといいわ。といっても、こんな大金を中学生のアンタが持ってても仕方ないから、とりあえず私が預かっておくわね?生活費は、当面の間は私が管理する。贅沢しなければ今後十年間は十分食べていけるわ。」

そうして。
2LDKのアパートで姉の蘭と2人きりの気楽な生活が始まった。
それが俺が13歳、蘭姉がハタチの時だった。

その後の俺は、まぁ…なんつーか、荒れた。
急に親がいなくなって、心にぽっかりと空いた穴を埋めてくれる何かを探した。
悪い方に引っ張られるのは簡単だった。
酒、煙草、万引き、喧嘩。
ダラダラとした生活を送っていたせいか、中学に入学した当初はトップクラスだった成績がガタガタと落ち始めた。

ある日、ダチとつるんで面白半分でした万引きで捕まり、警察の厄介になった。

「このバカたれがぁ!お父さんとお母さんが悲しむようなことするなっ!」

警察に迎えに来た蘭姉が、ボロボロと大粒の涙を零しながら叫んだ。
両親が亡くなった時も、親戚と揉めた時も涙を流さなかった蘭姉が泣いている。

「申し訳ありませんでした!」

泣きながら警察と俺達が万引きした店の店主に頭を下げる蘭姉の姿に、俺はショックを受けた。
親がいなくなってから今まで、体張って俺を守ってくれた蘭姉を悲しませて、俺は一体何をやっているんだ。

警察からの帰り道、俺は蘭姉に頭を下げた。

「…悪かった。」
「クソガキ!謝るくらいならこんな馬鹿げたこと二度とするんじゃないわよ!」

俺は、蘭姉に生活を改めることを誓った。

酒は、どうやら俺とは相性が悪いようだから、これを機にスッパリやめるか。
煙草は、やめられっかな…自信ねぇな。
まぁ、外で吸わなきゃいいわけだろ。
万引きも、別に何かが欲しくてしたわけじゃねぇ。
喧嘩は売られれば買うが、自分からふっかけるのはよそう。

俺は、生活を改めて真面目に学校に通い始めたのだった。

学校に通い始めたのはいいが、一度落ちた成績を上げるのは至難の業だった。
特に国語がヤバい。

「塾に行ったら?」
「面倒くせぇ。だったら自分でどうにかする。」
「お姉ちゃんが教えてあげようか?」
「蘭姉、すぐ感情的になるだろ。教えんの向いてねぇ。つうか、教わりたくねぇ。」

中3になって最初の実力テストの結果を見ながら、

「でも、この成績じゃあねぇ。」

と、蘭姉が溜め息をついた。
それが数日前の出来事。
塾に行けとは言われたが、家庭教師なんて聞いてねぇぞ。
勝手に決めやがって、マジでムカつく。

苛々が最高潮に達し、煙草でも吸って落ち着くかと思った瞬間、インターフォンが鳴った。

「あ…あのっ。雪村千鶴です。」

来やがったな。
モニターには、先ほど蘭姉の携帯で見せられた冴えない清純派アイドルのような女が映し出されていた。









それが俺の運命の女----------雪村千鶴との出会いだった。
後にして思えば千鶴は、それからの俺の人生を決定づける役目を担ったキーパーソンだった。
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