GYM熱(完結)

□母校
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私が卒業した高校では各方面で活躍している卒業生から仕事に関する生の声を聞く機会が設けられている。
対象は、これから具体的な進路を決定する時期にある1年生。
私も高1の時にナースとして働いている先輩から現場の声を聞いたり、励ましの言葉を頂いたりして“ナースになれるように頑張るぞ!”と鉢巻を締め直したのを覚えている。

今回、新八さんの推薦で私が講師の一人として母校に招かれることになった。
まだまだ新米ナースの域を出ない私に講師の任が務まるのかと不安だったけれど、せっかくの機会なのでチャレンジすることにした。





校舎裏の自然散策路はバレンタインデーに新八さんと歩いたけれど校舎内に入るのは卒業式以来で……懐かしくてキョロキョロしてしまう。

廊下ですれ違った女子高生のあまりのスカート丈の短さにドギマギし、新八さんが若い女の子によろめいたらどうしようと本気で心配になった。
ふと、新八さんにハロウィンの夜に高校の制服を着てくれとしつこくお願いされたことを思い出す。
実は、常日頃から女子高生にムラムラしていて、でもさすがに手は出せないからてっとり早く私に制服を着せて日頃の欲望を満たそうとした……とか?
いや、まさかそんな…などと、悪い方向に考えながら廊下を歩いていると、

「千鶴?」

聞き覚えのある声に名前を呼ばれた。
振り向くと、そこには同じクラスだった平助君が立っていた。

「平助君!わぁ…久しぶりだね。」

私の中では着崩した制服姿の平助君のイメージしかないのに、今日はネクタイを締めてカチッとしたスーツを着ている。
不思議…平助君が大人になってる。
時の流れを感じるなぁ。

「元気だった?ここにいるってことは、平助君も講師として呼ばれたの?」
「まあな。俺、大学卒業した後に住宅メーカーに就職して営業やってんだ。千鶴は?ナースになったの?」
「うん。おかげ様で。」
「そっか。千鶴、頑張ってたもんなぁ…って、あれ?もしかして、結婚してんの?」

平助君が私の左手の薬指を見て、驚いた顔をした。

「えっ?う、ううん!まだ、だよ?」
「でも、意味深な指輪じゃね?」
「意味深ってほどでもないんだけど…これ、おつき合いしてる彼とお揃いの指輪なんだ。」
「へえ。結婚指輪みてぇなデザインだから、てっきり結婚したのかと思ったぜ〜。ま、しててもおかしくない年なんだけどさ。」

私と新八さんが結婚することを職場で知っているのは、学園長の近藤先生と教頭の土方先生、そして新八さんと仲がいい原田先生の3人だけだと新八さんから聞いている。
つまり新八さんの職場では、まだ結婚の話はオープンになっていないわけで。
今日は、新八さんの彼女としてではなくて講師として招かれたのだから、新八さんの職場で結婚のことをペラペラ話すのはNGだよね。
話題を変えようとしたところで新八さんに声をかけられた。

「千鶴ちゃん!お。平助も一緒か。」

これから授業なのか、教材を小脇に抱えた新八さんがニカッと笑いながら近づいてきた。
わあ。
“永倉先生”だ。
先生モードの新八さんは、2人きりの時の甘えた感じとは違って働く男の人の顔をしている。
ちょっと格好よくて惚れ惚れしてしまったりして。

「新八っつぁん!ひっさしぶり!相変わらずジャージ着て鉢巻代わりのタオルしてんだな。あの頃と変わんねぇな。な?千鶴。」
「う、うん。」

私は、新八さんを直視できなくて思わず目を逸らした。
ハロウィンの夜に今と同じ格好をした新八さんと、かなり…そ、その……キワドイことをしてしまったので、なんだか気恥ずかしい。

「あれ?新八っつぁんも指輪してる。まさかと思うけど、結婚できたとか???物好きな女もいるもんだな〜。な?千鶴。」
「う、うん。」

平助君。
元担任の先生と彼女(←私)に対して、その発言は失礼では…?

「これはだなー。ペアリングだ。聞いて驚くなよ?もうすぐ愛しの彼女とウェディングベルを鳴らすんだぜ?」

新八さんは、そんなことは全く気にしてないみたいで、とびきりの笑顔でペアリングを掲げて見せた。
その笑顔があまりにも嬉しそうで…。
色っぽい女子高生によろめいているのでは?なんて疑ってしまった自分が恥ずかしい。

「ええっ。マジで結婚すんの?彼女の顔が見てみてぇ〜。な?千鶴。」
「う、うん。」

その彼女は、ここにいます…と、言えないところがもどかしい。

「千鶴もペアリングしてるしさ。今、ペアリングって流行ってんの?」
「ど…どうなんだろう?」

私が新八さんとお揃いの指輪をしたかっただけなので、世間のことはよく分からない。
私が曖昧に答たところで予鈴が鳴ったので、私達は新八さんと別れて講師の集合場所である会議室に向かったのだった。

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