GYM熱(完結)
□迷走
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教師になって2年目の春。
俺は、副担任から担任に昇格した。
初めて学級経営を任され、俺はかなり張り切っていた。
今の俺の運勢を☆で表すと、
仕事運☆☆☆☆☆
健康運☆☆☆☆☆
恋愛運☆
と、いったところだろうか。
仕事運は絶好調。
体は健康そのもので、筋肉の具合も良好だ。
しかし。
恋愛運はドン底だった。
生徒である千鶴ちゃんに恋心を抱いて、早いもので1年が経とうとしていたが、教師としての立場から告白することも叶わず、かといって諦めることもできずに悶々とする日々が続いていた。
そんな時、大学ン時のダチから電話があった。
『新八か?いきなりだけど、お前さー。今、彼女いる?マッチョな男を紹介して欲しいって女がいるんだけど、会ってみねぇか?』
ぶっちゃけ、女なら誰でもよかった。
ダチに紹介されたのは、甘ったるい香水をつけたグラマラスな女だった。
会ったその日に女にホテルに誘われた。
俺の上で腰を振る女の揺れる乳を見ながら、このまま、千鶴ちゃんのことを諦めることができたらどんなにいいか………快楽に融けそうな頭で、そんなことを考えていた。
「永倉、ちょっと話がある。」
ゴールデンウィーク間近のある日、俺は教頭室に呼び出された。
プライベートでは“新八”と名前で呼ぶ土方さんが、名字である“永倉”と呼ぶ時は、仕事の話がある時だ。
ソファーに座るよう促され、俺は革張りのそれに腰を下ろした。
「単調直入に聞くが、女ができたのか?」
「……は?」
それが仕事に何の関係があるのか分からねぇ。
きっと俺は、ポカンとした顔をしてたんだろう。
土方さんが苦笑いした。
「香水の匂いプンプンさせやがって。」
「は?匂うか?香水なんてつけてねぇぜ?」
「じゃあ、首筋のキスマークにも気づいてねぇのか?」
土方さんが首を傾げて自分の首筋を指先でトントンと叩いた。
俺は慌てて掌で己の首筋を抑えた。
「お前がどんな女とつき合おうが興味ねぇけどよ。生徒の間でかなり噂になってる。思春期のガキ共を刺激するような真似はするな。」
俺は、がくりと項垂れた。
「すまねぇ。気を付ける。」
「移り香もキスマークも“虫除け”みてぇなもんだろ?無意識か意識的にか分からねぇが、お前の女、女子高生に対して威嚇でもしてんじゃねぇのか?」
俺は、体だけの関係だと割り切ってつき合ってたつもりだが、相手はそうではなかったのかもしれない。
「そう…かもしんねぇな。」
「まぁ、話はそれだけだ。くくっ。何、情けねぇツラしてやがる。」
吸うか?と煙草の箱を差し出さたので、遠慮なく一本貰った。
火をつけて肺一杯にそれを吸い込むと、たちまちに脳に痺れるような感覚が。
「土方さん……。随分、ヘビーなの吸ってんなぁ。吸い過ぎは、体に悪いぜ?」
「いつも飲み過ぎてるお前に言われたかねぇよ。」
「土方さん、酒飲めねぇもんなぁ…。」
「飲めねぇんじゃなくて、飲まねぇんだよ。」
土方さんがぷいっとそっぽを向いた。
あんな美味いモンを飲めねぇなんて気の毒だな。
「ところで剣道部の試合が近いくせに総司の野郎がだらけてる。少し喝入れてやってくれねぇか?」
「分かった。じゃあ、格技場に行って来るわ。」
「頼りにしてるぜ?」
「おう。」
土方さんは、人の使い方が上手いな…。
そう思いながら俺は煙草の火を消し、教頭室を出た。