GYM熱(完結)

□目標
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「永倉先生。私、シャワー浴びてきてもいいですか?」

なにぃぃぃぃぃっ!
マジで、そういう展開かよ?

「泥が付いたままだと気持ち悪いので足を洗いたくて…。急いで足を洗ってきちゃうので、先生はコタツでぬくぬくしててくださいね?」

………あ、そういうことか。
だよな。

俺は車に積んであったジャージに着替えられたけど、千鶴ちゃんは汚れたままだったからな。
ははは。
内心、慌りまくる俺にお茶を煎れると、千鶴ちゃんはバスルームへと姿を消した。



千鶴ちゃんが煎れてくれたそば茶を一口飲む。
俺の口の中にそば独特の香ばしい味が広がった。
はぁ〜。
そば茶が体中に染み渡るぜ。

茶を飲んで少し落ち着いた俺は、部屋の中を見回した。
1LDKの新築アパート。
こざっぱりとしている中にも所々にナチュラルテイストの小物が飾ってあって、ここが女の子の1人暮らしの部屋だということを物語っている。

本が収納されているラックには、仕事で使うのであろう医学の本と一緒に、高校で使った数学の教科書が並べてあった。
随分と物持ちがいいじゃねぇか…と思いつつ「数学U」の教科書を手に取って開いてみると、アンダーラインの他に各項目ごとにポイントがメモされており、真面目な千鶴ちゃんらしい教科書だな…と自然に笑みがこぼれた。
それをパラパラとめくっていくと、ヒラリと何かが落ちた。

「なんだ?これ。」


----------写真?


「お待たせしまし…きゃあぁっ!」

バスルームから出てきた千鶴ちゃんが、慌てて俺の手から写真を奪い取ると、背を向けて蹲った。

「み、見ましたか?」

写真に写っていたのは、少し昔の……千鶴ちゃんの担任をした頃の俺だった。

「すまねぇ。見ちまった。それ、千鶴ちゃんが撮ったのか?」
「違っ…!総ちゃんが。」
「総司が?」
「高校生の頃、総ちゃんがくれたんです。総ちゃん、私が永倉先生のことを好きだって知ってたから。」
「それ、本当か?」
「はい。私…高校時代、ずっと先生のことが好きだったんです。」

本日二度目の告白を受けて、俺の心臓がドクンと高鳴った。
頭を垂れてフローリングにぺたりと座り込んだ千鶴ちゃんを背後からそっと抱きしめた。

総司と千鶴ちゃんは幼馴染だ。
あまりの仲の良さに、二人はつき合ってんじゃねぇかと勘ぐった時期があった。
我慢できずに“お前ら、つき合ってんのか?”と総司に聞いたこともある。
俺の質問に対して総司はしらばっくれて、逆に俺が千鶴ちゃんを好きなんじゃねぇかと聞いてきた。
教師が生徒を好きになったなんて公になったらヤバいから、慌てて誤魔化したが。

「俺は、てっきり総司と千鶴ちゃんがつき合ってんのかと思ってたぜ?」
「私と総ちゃんが?まさか…。」
「でも総司とキスしてただろ?放課後の教室で。」
「あれはっ……!っていうか先生、見てたんですか?」
「……つき合ってねぇなら、なんでキスなんかしたんだ?」
「総ちゃんが……不意打ちで。」
「もしかして千鶴ちゃんのファーストキスの相手は総司か?」
「うぅ…。そう、です。」

総司の野郎…。
俺は我慢できずに千鶴ちゃんの首筋に唇を這わせた。
俺が吸血鬼だったら、ガブリと噛みつきたくなっちまうような白くて細い首筋だった。

「ん……ぁ。」

俺の唇に感じてくれたのか、千鶴ちゃんの口から甘い吐息が漏れた。
息を吸い込むと千鶴ちゃんの体臭なのか香水なのか分からねぇが甘い香りがした。

「なぁ。俺も千鶴ちゃんのことが好きだったんだぜ?教師が生徒を好きになるなんてよ。どんだけ悩んだか分からねぇ…。」

ちょうどあの頃、流行ってた曲に“ひとことの勇気が世界を変える”なんて歌詞があったよな。
だが、教師という立場上、あの頃はどうしてもその“ひとこと”が言えなかった。
互いに想い合ってたんて、これっぽっちも気づかなかった。

俺は、千鶴ちゃん仰向けにさせると覆いかぶさるように唇を重ねた。
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