GYM熱(完結)

□接吻
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教師にとってのテストとは、自分の指導の問題点を知り、今後の授業をどのように展開していくかを知るための判断材料でもある。
教師になって1年目の春に行われた、実力テストは、そういう意味では最悪だった。
なぜなら、俺が受け持ったクラスでは、赤点者が続出したからだ。
自分なりに教材研究をして授業に臨んでいたつもりだったが、生徒にしてみれば分かりにくい授業だったのかもしれねぇな。
俺は、珍しく落ち込んでいた。

そんな中、1人だけ“98点”という高得点を出した生徒がいた。
ケアレスミスを除けば完璧な答案で、難解な数式も鮮やかに解かれていた。

氏名の欄には“雪村千鶴”と丁寧に書かれており、その下に小さな文字で、

“永倉先生の授業は分かりやすくて楽しいです”

という俺へのメッセージが添えられていた。
その一言に、俺はどれだけ救われたか分からねえ。

名簿を見る限り、彼女は俺が副担任をしているクラスに在籍しているのだが“雪村千鶴”がどんな生徒だったか思い出そうとしても、俺はどうしても思い出すことができなかった。
生徒の顔を覚えるのも教師の仕事の一環だ。
だが当時の俺は新任で仕事を覚えるのにいっぱいいっぱいで、目立つ生徒しか顔と名前が一致していなかった。

次の授業の時、俺は真っ先に“雪村千鶴”を探した。
“雪村千鶴”は、窓際の最前列の席にちょこんと座っていた。
黒い髪に白い肌、そしてほんのり赤い唇をしたあどけない少女が、そこに座っていた。


----------白雪姫みてぇだな。


そう思ったのを覚えている。

テストを返却する時に、

「よく頑張ったな。」

と、誉めると彼女はふわりとはにかむように笑った。
その瞬間、俺の心臓がドキリと鳴った。

その日から俺は“雪村千鶴”のことが気になって仕方なくなった。
早い話が、俺は7つも年下の女子高生に恋をしちまったというわけだ。
俺ってロリコンだったのか?と真剣に悩み、ダチに紹介された女とつき合ってみたり、合コンで知り合った女と関係を持っちまったこともある。
だが、どれも長続きしなかった。

教師と生徒の恋愛は御法度だ。
しかも、この想いは俺の一方的なものだということも分かっていた。
教師である俺から特別な感情を寄せられているなんて、彼女が知ったら卒倒するだろう。
………だから俺は“いい教師”の仮面を被ることを決意した。










千鶴ちゃんとトレーニングジムで再会した時は、正直驚いた。
忘れかけていた感情が再燃する。
もう、教師と生徒じゃねぇんだ。
手を出しても構わねぇよな?
難しい駆け引きなんて俺には分からねぇから、とにかく押すしかねぇ。
食事に誘い、デートに誘い、想いが届くようにと念じながら勾玉を作った。
千鶴ちゃんからチョコレートを差し出された時は天にも昇る気持ちだったが、それが“感謝チョコ”だと言われて俺の気持ちは一気に急降下した。

…なんだ。
再会して舞い上がってたのは俺だけかよ。

そう思った矢先に千鶴ちゃんに想いを告げられ、俺は生まれて初めて神様ってやつに感謝したのだった。
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