GYM熱(完結)

□約束
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ジムで永倉先生と再会した後、私達は先生御用達の定食屋さんで再会の祝杯をあげた。

「かーっ!!この一杯のために生きてる!」

キンキンに冷えたジョッキに並々と注がれた生ビールを一気に飲み干す永倉先生。
ワイルドな飲みっぷりに自然と笑みがこぼれる。

「ふふ。先生と一緒にお酒を飲んでいるなんて、不思議な感じです。」
「だよな。俺も変な感じだ………と、悪い。」

軽快な電子音が聞こえてきて、永倉先生がスラックスのポケットからスマホを取り出して着信ボタンを押した。

「もしもし?………お疲れっす!」

どうやらお仕事の話みたい。
聞き耳を立てては悪いな、と思い、青リンゴサワーを口に含んで、こくりと飲み込んだ。
空きっ腹なのですぐに酔ってしまいそう。
先ほど、女将さんがサービスで出してくれたほうれん草のツナマヨ和えを一口食べてみる。
あ、美味しいかも!
今度、家で作ってみよう。

……ん?
永倉先生が耳に当てているスマホに目をやると、コロンとした形をしたストラップがゆらゆら揺れている。
あれは何の形だろう?

「すまねぇ。話が中断しちまったな。」

電話を切った永倉先生がスマホをテーブルの上に置いた。

「いえ…。あの、そのストラップ、見せていただいてもいいですか?」
「ああ、これか?」

自分で作ったんだぜ?と、得意気に笑う永倉先生からスマホを受け取る。

「これ、勾玉ですか?既製品では見たことありますけど……勾玉って簡単に作れるものなのですか?」
「石を削るわけだから、簡単てわけじゃねぇが…。そうだな。完成までに2〜3時間ってとこだな。」
「すごい。私も作ってみたいです。」
「んじゃ、一緒に作りに行くか?」


え?
今、何とおっしゃいました?
なんだかさらっと誘われたような?


「お!料理がきたぜ?」

運ばれてきた回鍋肉定食を女将さんから受け取ると、メインの回鍋肉を小皿に取り分けて、

「ま、千鶴ちゃんも食いねぇ。」

と、渡してくれた。
いただきます♪と手を合わせ、豪快に回鍋肉を口に運ぶ永倉先生。
それにしても、いい食べっぷり。
なんか、こんなCM見たことあるなぁ。


じゃなくて!


デートなの?
デートのお誘いなの?
それとも社会科見学の引率的な感じなの?
どっち?


取り分けてもらった回鍋肉を食べながら内心ワタワタと焦りまっていると、私が頼んだ若鶏の竜田揚げ定食が運ばれてきて、そのボリュームに驚いた。
とてもじゃないけど食べきれないので、永倉先生に半分食べてもらうことにした。
これだけ食べてるのに太らない永倉先生が羨ましい。
筋肉質の人は代謝がいいって聞いたことがある。
永倉先生って、かなりの筋肉量だもんね。
私も頑張ってトレーニングして筋肉増やさないとなぁ。
あぁ。
そういえば、ダイエット中なのに、お酒と油っこいを摂ってしまった。
私、本当に痩せられるのかなぁ。

「博物館で学芸員をしてる後輩がいてよ。なんつーか、いつも閑古鳥が鳴いてるようなこぢんまりとした博物館なんだが…お、これだ。」

永倉先生は、スマホをちょいちょいと操作して、後輩さんが働いているという博物館の画面を見せてくれた。

へえ。
勾玉だけじゃなくて土器とか縄文ポシェットも作れるんだ。
なんだか面白そう。

「勾玉、作ってみたいです。永倉先生も…その…一緒に行ってくださるんですか?」
「千鶴ちゃんが嫌じゃなければ、だけどよ。………行くか?」

い、行きます。
行かせていただきます!
私は、コクコクと頷きながら口の中で咀嚼中のキャベツをゴクンと飲み込んだ。

「行きたいです!」
「じゃあ、食い終わったら、いつにするか決めちまおうぜ?」
「はい!」

これってデートってことでいいんだよね?
うわー。
永倉先生とデートの約束をしてしまった……。
感無量……。

食事が一段落したところでお互いのスケジュールを確認したところ、向こう1カ月で予定が合うのは来週の土曜日のみだということが分かった。
じゃあ、勾玉作りはその日にしようということになったのだけど…。
でも。
来週の土曜日は、バレンタインデーなんですけど?
そんな特別な日に私とデートしちゃっていいんでしょうか?
永倉先生が何を考えてるのかよく分からないけど、嫌いな女の子とわざわざバレンタインデーにデートしたりしない……よね?
これは…少しは望みがあるってことなんだろうか?
うぅ……分からない…。

「何かあった時のために連絡先の交換しとくか。」
「は、はい!」

ひぃぃぃぃっ。
何てこと!!!
永倉先生の電話番号とメアド、捕ったどー!!
……って、叫び出したいくらい嬉しい!
早く約束の日にならないかな…と思いながら、私は青リンゴサワーを飲み干したのだった。

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