GYM熱(完結)

□再会
1ページ/1ページ

「え?うそ…」

お風呂上がりに久しぶりに体重計に乗った私は愕然とした。
最近、ウエストの辺りにお肉がついてきたかな?
とか、
ちょっと前に買ったスカートがきつくなってきた?
なんて思っていたけれど、まさかまさかの4kg増!
何かの間違いでは?と思い、体重計から下りて再び体重計に乗ったみたけれど、無情にも体重計は4kg増えたことを私に告げていた。

憧れのナースになって、もうすぐ1年。
就職先は、日勤・準夜勤・夜勤の3交替勤務がある大学病院。
やりがいのある仕事なんだけど、不規則な生活からのストレスで、ついつい甘い物に手が伸びてしまうことが多くて…。
気づいたら4kg増……。

これではいけないと思った私は、一念発起してトレーニングジムに通うことにしたのだった。





今日は日勤だったので17時で仕事が終わった。
小腹がすいたけど、がまんがまん。
少しの空腹は頑張っている証拠!

仕事帰りにジムに寄り、ウォーキングマシンの上でてくてく歩いていたら見覚えのある後姿が。
筋トレをしているその人は、今どき珍しい緑色のジャージを身に纏っている。


まさか。


ドキンと心臓が跳ね上がる。
それは、高校時代ずっと片想いしていた人の背中だった。
ずっと背中を見つめてきたのだ。
間違えるはずがない。

「永倉先生!」

いても立ってもいられず、私はウォーキングマシンを止めて、その人のもとに駆け寄って声をかけた。

「ん?おお!千鶴ちゃんじゃねーか!」

緑色のジャージを着たその人は、少し驚いたような顔をした後、真夏のお日様のような笑顔を見せてくれた。
高校時代(今もだけど)あまり目立つ方ではなかった私の名前を覚えてくれていたことが嬉しかった。



永倉先生は、高校の数学教師だ。
先生に会いたいがためにわざと赤点を取って補習に出る、という選択肢もあったのだけど、

「よく頑張ったな。」

という一言が欲しくて、必死で数学を頑張った高校時代の私。
おかげで成績は上々で、第一志望だった看護大学に合格することができた。
もしも永倉先生に出会わなかったら、私はナースになる夢を諦めていたかもしれない。



「お久しぶりです。高校卒業以来だから4年と……えぇと、10カ月ぶり…でしょうか?」
「もう、そんなんなるか。元気だったか?」
「はい。おかげ様でナースとして働いています。」
「そうか。夢が叶ってよかったな。千鶴ちゃん。」

永倉先生が、ニカっと笑った。
懐かしい。
永倉先生の笑い方だ。

「先生は、筋トレですか?」
「おう。こないだ公園の登り棒で懸垂してたら通報されちまってよ。不審者扱いだぜ?仕方ねぇからジムで筋トレだ。」
「え?登り棒で…ですか?」
「懸垂すんのに、ちょうどいいだろ?あれ。」

いや、それは使い方を間違えてると思います…。

「なぁ、千鶴ちゃん。腹減ってねぇか?俺、腹減っちまってよ〜。ここで立ち話もナンだから、これからメシ食いに行かねぇか?」



好きで、好きで。
でも、どうしても告白する勇気が持てなくて諦めた恋。
蓋をしたはずの気持ちが溢れてくる。

ど、どうしよう。
永倉先生に、ご飯に誘われてしまった。
ううん。
落ち着いて、千鶴。
永倉先生は、お腹がすいてる時にたまたま懐かしの教え子に会ったので、食事に誘っただけ。
だから、期待しちゃだめ。

でも。
もしかしてこれって永倉先生にお近づきになれるチャンス…なんじゃないの?



「行きたいです!いえ、行きます!」
「よし、決まりだな。この近くに美味い定食屋があってよ。そこでいいか?」
「はい。構いません。」

ふふ。
なんだかお店のチョイスが永倉先生らしいな。

でも。
よく考えたら卒業から5年近く経っている。
私の中に、不安がよぎった。

「あの、大丈夫でしょうか。」
「何がだ?」
「一緒にご飯食べて。その、か、彼女さんに、怒られたりとか…しませんか?」

永倉先生にお付き合いしてる人がいたらどうしよう。
ま、まさか結婚してたりして?
子どももいたりして?

「あー……。千鶴ちゃんは、いんのか?」
「え?」
「彼氏。」

いません、いません!
ぶんぶんと首を横に振ると、永倉先生は、またニカっと笑った。

「んじゃ、お互い問題なしだな。15分後にフロント前に集合!…で、いいか?」
「はい!」

ええと。
15分後だと、シャワーを浴びてる暇はないな。
これから着替えて、お化粧直して…。
ああ。
こんなことなら、もっと可愛い格好してくるんだった。

太ってよかった!!!
とは、思わないけど、思いきってジムに入会してよかった。


嬉しい 嬉しい 嬉しい!


私は、うきうきした足取りで更衣室に向かったのだった。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ