現代の物語

□新婚さんいらっしゃい
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今回は趣向を変えてツバメの夫婦の物語です(笑)
我が家にツバメのカップルがやって来て巣作りを始めたのですが、観察していると、どうも三角関係っぽいんですよ〜。
なので、

♂ツバメ 左之助
♀ツバメ 千鶴
千鶴を狙う別の♂ツバメ 風間

として、皆さまにご紹介しようと思った次第です。

お嫌じゃなかったら、どうぞ♪







【第1話】







「ふぅ〜。さすがに長距離の移動は疲れるなぁ。」

東南アジアから長い長い旅をしてきた若い雌ツバメの千鶴が電線で一休みをしていた時のことだった。

「お?千鶴じゃねぇか。久しぶりだな。」

千鶴に、雄のツバメが声をかけてきた。

「あ…あの?」
「俺だ。左之助だ……覚えてねぇか?」

千鶴は、小首を傾げて考えた。
そして、まだ雛鳥だった頃に近所に棲む左之助さんという見目麗しい雄ツバメがいて、飛び方を教わったことを思い出した。

「あ!思い出しました。お久しぶりです、左之助さん。いつぞやは飛び方を教えてくださって、ありがとうございました。」
「いや…。あの頃は、まだ雛鳥だと思っていたが、随分と別嬪さんになったな。見違えたぜ。」
「そんな…別嬪さんだなんて…。あれ?去年の彼女さんは、まだこちらにいらしてないんですか?」
「それがな…。仲間の情報だと、どうも渡りの途中で天国に逝っちまったらしいんだ。」
「………それは、御愁傷様でした。」

去年の左之助さんのお相手は、とても綺麗な雌のツバメだった。
あんなふうに美しく成長できたらいいな…と、雛鳥だった千鶴は密かにそのお姉さんツバメに憧れていたのだ。
あのお姉さんツバメが亡くなったなんて…。
千鶴は、シュンと項垂れた。

「まぁ、俺達みたいな渡り鳥にはよくあるこった。」

左之助の寂しそうな横顔を見て、千鶴は切なくなった。
そんな千鶴に左之助が問いかけた。

「なぁ…お前、パートナーは決まったのか?」
「いいえ。まだです。」
「だったら、俺のパートナーになってくれねぇか?」
「えぇぇっ?私と左之助さんが…パートナーに…ですか?」
「嫌か?」

千鶴は、まじまじと左之助を見た。
他の雄ツバメよりも一回り大きな体。
そして、スッと伸びた長い尾。

素敵。
この方の卵が産みたい…。

千鶴は、雌の本能が疼くのを感じた。
そして、忽ち左之助に心を奪われた。

「私でよかったら…喜んで。」
「よっしゃ!決まりだな。よろしくな、千鶴。」
「はい…左之助さん。私、(卵を産むのは)初めてなので…あの…。」
「はは。千鶴は初々しいな。俺に全て任せてくれりゃあいい。やさしくする…。」

千鶴は、こくりと頷いた。
左之助さん…頼もしくて素敵な方。
こんな方とパートナーになれるなんて、夢みたい。
頑張って、卵をたくさん産もう!

こうして、新たなツバメのカップルが誕生したのであった。





「長旅で疲れただろ?早めに巣作りして落ち着こうぜ。あっちにいい物件があるんだ。見てみるか?」
「はい!」

二羽は電線から仲良く飛び立った。
そして、十数件ほど建ち並んだ新しい住宅地の中にある一軒の家に着いた。
その家の庭で数人の子ども達が仲良く遊んでいた。
二羽は、サイクルポートの屋根の上から様子をうかがった。

「この家には、人懐っこい性格の小学生の男の子が2人住んでてな。放課後や休みの日は、近所の子ども達が庭にわんさか遊びに来るんだ。」
「あの女の人は?」
「あれは、この家のおっかさんだ。庭仕事が好きなんで、よく庭に出て草むしりやら水やりやらをしてる。」
「あの男の人は?」
「あれは、この家のおとっつぁんだ。洗車が趣味で、晴れた日はしょっちゅう車を洗ってる。」

ツバメは、人の出入りが多い場所に巣を作る習性がある。
人に近い場所に巣を作ることで天敵を追い払ってもらうのが目的だ。
どうやら、この家には大勢の人が集まるようだ。
そして住人達は、庭で過ごすことが好きらしい。
これは優良物件かもしれない…千鶴は、そう思った。

「植物もあのお母さんのことが好きみたい。この家の植物は、とても生き生きしてますね。」
「だな。この家は家庭菜園もやってるから虫が集まってくるし、食いモンには困らねぇと思うぜ?」

よくコンビニの入口や公園のトイレに巣を作っているカップルがいるが、千鶴はそれはどうかと常々思っていた。
千鶴は、できれば緑豊かな長閑な場所で子育てがしたいと考えていた。

「ここ、気に入りました!」
「じゃ、ここに決めるか?」
「はい!」

検討した結果、玄関ポーチの内側に巣を作ることにした。

「この玄関は巽にあるだろう?巽の玄関は人を呼ぶっていうから、この家は千客万来なんだろうよ。」
「左之助さんは物知りなんですね。」

千鶴は、にっこりと笑った。
そして、そんな千鶴を可愛いくてたまらないと思う左之助だった。





その日から二羽は、せっせと巣作りをした。
泥や藁を運び、巣を形作っていく。

「泥で玄関先を汚してしまって、なんだか申し訳ないです…。」
「おっかさんが毎日、タワシで掃除してくれてるな。ありがてぇ。」

中には、汚れされるのを嫌って作りかけの巣を壊してしまう人間がいることも事実だ。
だが、どうやらこの家の住人達は自分達を歓迎してくれているらしい。
二羽はほっと胸を撫で下ろした。
巣作りを開始して1週間ほどで無事に巣が完成した。





「それにしてもよ。上のガキが俺達を色々と調べてんのが気になるよな。あいつ、カメラ片手に何やってんだ?」
「“りかけんきゅう”って言ってましたよ?何のことでしょうか?」
「ああ。“理科研究”な。だったら心配いらねぇな。勉強熱心なガキじゃねぇか。大方、俺達の生態でも調べてんだろ。」
「で…でも。プレッシャーです。私、ちゃんとお母さんになれるんでしょうか。」
「大丈夫だ。俺がついてる。愛してるぜ?千鶴。」
「も…もう!左之助さんたらっ!」

…イチャイチャが止まらない二羽であった。





そんな二羽を別の雄ツバメが物陰からジッと見ていた。
その雄ツバメは風間という名前だった。
風間は、左之助の留守中に千鶴に近づいた。

「千鶴。お前こそ俺の妻に相応しい。」
「だ、誰ですか?近寄らないで!」
「俺と一緒に来い。もっといい暮らしをさせてやる。我が妻よ。」
「や…嫌です。左之助さん、助けて!」

千鶴は叫び声を上げた。
その声を聞きつけた左之助が飛んで帰ってきた。

「なんだ?てめぇ…俺の女房に近づくんじゃねぇ!」

風間を威嚇する左之助。
だが、風間はそれを無視して千鶴を口説き続ける。

「俺の子を産め。千鶴。」
「嫌です。私は左之助さんの妻です!あなたとは一緒に行きません!」
「ふん…愚かな。俺と一緒になれば強い子が生まれるものを…。」
「てめぇ!千鶴から離れろ!」

左之助が風間に攻撃を仕掛けた。
それを寸でのところでヒラリと交わし、風間は体を宙に浮かせた。

「まあ、いい。また来る。」

そう言うと、風間は去って行った。

「大丈夫か?千鶴。」
「怖かったです。左之助さん。」
「もう大丈夫だ。俺がお前を守る。千鶴…。」
「左之助さん…。」

…再び、イチャイチャが止まらない二羽であった。







馬鹿な話を書いてしまった…。
でもツバメさん達、こんな感じなんだもーん。

(20150515)
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