現代の物語
□ホットチョコレートを君と
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「本当にホットチョコレートでいいの?」
ミルクパンで牛乳を暖めながら、まるでここが我が家であるかのようにリビングで寛ぐ平助君に声をかけた。
「たまには違った味の牛乳が飲みてぇっていうか…。」
いつ頃からだったか忘れてしまったけれど、平助君は身長を伸ばすために毎日1リットルの牛乳の飲んでいる。
効果があるのかどうかは……分からないけど。
今日は、想いが通じ合って初めてのバレンタインデー。
チョコレートケーキを作ろうと思って張り切っていたら、
「ホットチョコレートが飲みたい。」
と、平助君にリクエストされた。
本命チョコなのに、こんな簡単なものでいいのかな?
と思いつつ、キッチンに立つ。
暖まった牛乳に砕いた板チョコを入れて、弱火でトロトロと融かしていく。
キッチンにチョコレートの甘い香りが漂い始め、なんだか幸せな気分になった。
チョコレートが融けたところで火を止め、静かにカップに注ぐ。
そこにマシュマロを浮かべれば出来上がり。
出来立てのホットチョコレートをリビングのソファで待つ平助君の元へ運ぶ。
「できだよ。ええと。ハッピーバレンタイン?…で、いいのかな?」
「さんきゅ。……なんか、照れるな。」
庭に植えてあるユーカリの木が風に煽られて揺れているのがレースのカーテン越しに見える。
外は冷たい風が吹いているみたいだけど、部屋の中はホットチョコレートの甘い香りとやさしい音楽に包まれていて、とても暖かだ。
「本当は、ケーキを作ろうと思ってたんだよ?」
「ケーキも食いたいけどさ。けど、ケーキを作り始めると、かかりっきりになっちまうだろ?なんか、今日は千鶴とのんびりしたかったっつうか…。」
「…そ、そうなんだ。」
ソファにもたれながら、2人並んでホットチョコレートを飲む。
触れそうで触れない距離がくすぐったい。
「小さい頃、千鶴んちのおばさんが入れてくれたココアみてぇな味がする。」
私のお父さんとお母さんは数年前に離婚している。
お母さんは、双子の兄の薫を連れて実家に帰ってしまったから、時々しか会うことができない。
平助君に言われて気づいたけど、確かにこれは寒い日にお母さんが作ってくれたココアの味によく似ていた。
----------あの頃は、いつも平助君と薫と私の三人一緒だったな…。
仔犬のようにじゃれ合って育った日々を追想していたら、平助君がそっと指に触れてきた。
平助君の熱が指先から伝わってきて、心がほんわかしてくる。
私達は、無言のまま指を絡めた。
「おばさんも薫もいねぇけどさ。……俺が、いるし。」
「うん。」
「昨日、離さねぇって言ったの、嘘じゃねぇから。」
「…うん。」
ゆっくりと平助君の顔が近づいてきたので、私は静かに目を閉じた。
唇に柔らかい感触。
少し口を開いて平助君の舌を迎え入れるとチョコレートの味がした。
もっと味わいたくて、私も平助君の口内に舌を差し入れた。
ちゅくちゅくと音を立てながらキスを味わっていて、はっとする。
----------ここで流されちゃダメ!
「へ、平助くんっ。」
私は、平助君の胸をぎゅうっと押して身を離した。
「ん?今日は千鶴の親父さん、仕事だから大丈夫だろ?」
「そうじゃなくて!」
そ、その……昨日、エッチをしている最中に“好きだ”とは言われたけど、女の子としては、普通の状態(…っていうのも変だけど)の時に“好き”って言ってほしいわけで。
私は平助君に、あるお願いをした。