歳三くんと私(未完)

□葉月の章
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葉月の章【1】


✻ ✻ ✻ ✻ ✻


「お盆過ぎるとクラゲが出るじゃない?その前に海に行きましょうよ。」

蘭先輩に海に行こうと誘われたのは、8月に入ってすぐのことだった。

「どうせ蘭姉は海辺で彼氏とイチャイチャする予定なんだろ?」
「うふふ。まぁねぇ。」
「じゃあ、2人きりで行ってくりゃいいじゃねぇか。」
「馬鹿ね。これは慰労も兼ねてるのよ。千鶴ちゃん、夏だっていうのにバイト三昧で全然遊んでないじゃない。人生、たまには息抜きも必要よ?」
「俺は?」
「歳三は千鶴ちゃんの護衛よ。変な男にナンパされないように見張ってて頂戴。」

蘭先輩……ナイスバディのお姉さんがいっぱいいる海辺で、あえて私をナンパする強者はいない気がします。
そういえば、去年の夏休みは受験勉強のために図書館に通いつめていたので、海にもプールにも行かないまま夏が終わってしまったんだっけ。

海かぁ。
久しぶりに海に行きたいな。
行きたい…けど。

服に隠れて見えないけれど、私の体には鈴木さんによってつけられたキスマークが残っている。
持っている水着はトップスがタンクトップでボトムスがホットパンツなので、それらがギリギリ隠れるかどうかだ。
“行きたい”と即答できないでいる私を見て、蘭先輩は私が水着を持っていないと勘違いしたらしい。

「水着がないんだったら貸すわよ?」

蘭先輩がクローゼットから出してきた水着は、ダイニングでお茶を飲んでいた歳三くんが口の中のものを思わずブハーっと豪快に吹き出すくらい、どれもこれも大胆なデザインなものばかりだった。
バブル期を彷彿とさせるようなハイレグや、背中が細い紐タイプになっているビキニ、ウエスト部分が大胆にカットされたモノキニなどなど、スタイルに自信がなくては着こなせない水着の数々を見て、

「そういうのは、雪村千鶴には似合わねぇだろ…。」

歳三くんが、ゲホゲホとむせながらダイニングテーブルの上を布巾で拭いた。

断りきれないまま話が進み、8月10日に佐藤さんの運転で海に行くことになった。
今は海水浴のトップシーズンなので、海岸近くの国道は恐ろしく渋滞するだろう。
それを見越して早めに出発することにした。

「じゃあ、5時半に千鶴ちゃんの寮に迎えに行くわね。」

実は、鈴木さんと住むことになって退寮してしまったので寮に迎えに来てもらっても無意味なんだけど……そんなこと言えない。
袋小路の家に連れてこられた翌日、引越屋さんが寮にあった私の荷物を袋小路の家に運んできてしまったから寮の部屋は空っぽなのだ。
それはさておき、5時半だったら始発に乗って急いで寮に向かえばギリギリ間に合う時間だ。
私は頷いて、土方家を後にした。










お風呂上がり、水を飲みにキッチンに行くと、リビングのソファーでハイブリッド車のカタログを見ながら(本気で車を買い替えるつもりらしい)寛いでいる鈴木さんと目が合い“おいで”と手招きされた。
どうやら隣に座れということらしい。
二人掛けのソファーだから限度があるのだけれど、私は鈴木さんからできる限り離れた場所に座り、海に行くことになったと話した。

「ふぅん。佐藤の運転で蘭さんも一緒?他に男はいるの?」

私達の関係は、立場的には圧倒的に鈴木さんが強い。
ここで鈴木さんがNGを出せば、海に行く話はなくなるだろう。

「蘭先輩の弟さん…歳三くんが一緒です。」
「歳三くん…ね。中3だっけ?」
「ダメ…でしょうか?」
「………黙って行けばいいのに。」
「え?」
「律儀に俺に聞かなくても、黙って行けばいいのに。別に雪村さんのこと監禁してるわけじゃないんだし。」

確かに。
私は鈴木さんと一緒に暮らしてはいるけれど、監禁されているわけではない。

「行ってもいいんですか?」
「いいよ。ただし、その日のうちに俺のところに帰ってくることが条件。それと…。」

鈴木さんはコーヒーテーブルの上にカタログを置いてから私との間を詰めると、顔を傾けて唇を合わせてきた。

「歳三くんと浮気しないこと。」

私の反応を確かめるように、じっと私の目を見ながら繰り返しキスをしてくる。

「歳三くんは中学生ですよ?」
「中学生でも女を抱けるよ。」

パジャマ代わりにしているTシャツの中に鈴木さんの手が忍び込み、ブラの上から胸に触れられた。
ああ。今夜もこの人に喰われるのか…と心が冷えていくのを感じた。

「歳三くんと私は、そういう関係では…。」

鈴木さんは、私のTシャツとブラをたくしあげて私の乳房をねっとりと舐めあげた。

「は……んっ!」
「気持ちいい?」

やさしい愛撫に反応する体とは裏腹に心が“嫌だ”と叫び声を上げる。





私は鈴木さんに抱かれながら、少しずつ……少しずつ壊れていく自分を感じていた。
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