08/23の日記

00:58
アオエクニジショウセツ
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燐が♀で色々籠の鳥状態


僕の双子の姉さんは悪魔だ。
というのは半分血を引き継いでいるというだけで、封印を施してあるから実際は身体能力がかなり高いこと以外は普通の人間だ。
姉さんが男だったらきっと、外に出れたのだろうけれどー女という性別は、悪魔も引き付けやすく、その上もしその一件の性で姉さんがサタンの娘だと協会にばれてしまいでもしたらーーよくて処刑、悪くて苗床だ。
だから姉さんは教会の外から出たことはない。まあ自由人だから夜なんかはよく僕を誘ってコッソリ近くの公園に行くことなんかもあるのだが(正直ヒヤヒヤするがその時の姉さんは凄く嬉しそうでなんとも言えない)、それだけだ。
僕が家庭教師をしているしえみさんと同じように、狭い世界が姉さんの全てだった。
だからといって暗い訳では無い。
教会の人に勉強を教えてもらっているから最悪ではないがかなりの馬鹿で、楽観的で、純粋で、面倒見がいい。容姿も教会に初めて訪れた人からは毎回息を飲まれる位には美人だ。長い黒髪に青い瞳、皮肉にもシスター服をいつも着ている。一応シスター代理のような立ち位置のためか、他にやることもなかったからか知らないが、聖書の教えだけは空んじれるのだ。他はサッパリだが。そんな姉さんの歌う讃美歌は悪魔の血を引き継いでいるとは思えないほど清らかで、澄んでいてーー何でこんなにも世界は姉さんに厳しいんだろうと思ってしまう。



夜。神父さんに言われてから付いた仕切り(正直あってもなくても…とは僕ら二人の珍しい共通見解だったが神父さんの道徳的配慮何だろう。最近一緒にお風呂に入るのも神父さんは渋る。)の向こうから、姉さんがヒョコッ、と顔を出した。
「雪男、外出ようぜ外」
「また?ダメだって言ってるのに…」
「良いじゃん別、十分位で良いし、な?」
「……仕方ないなあ」
「よっし、じゃあ窓開けよう窓」
嬉しそうにガラッ、と窓を開けると姉さんは飛び出す。多分ここが二階だとしても同じことをするんだろうな、と思わせるいっそ素晴らしいジャンプ力だ。
続いて僕も外に出る、ポケットの中には銃を入れて。
歩いて一分、走って二十秒、姉さんならば飛んで五秒ー教会のすぐ横の公園で、なんやかやで僕らの定位置となったブランコに座る。座って、何気無い話をする。
「雪男は学校どうだ?」
「順調順調、成績もトップだってさ」
「やっぱすげーな雪男は」
「姉さんはもう少し…ねえ?」
「弟の癖に生意気だぞ!」
「アハハ、ごめんごめん」
ゆっくりと流れる時間、姉さんが一瞬だけ、外と繋がる時間ーー。
そんなことをボーッと思っていると、姉さんが此方を見ていた。
「何?」
「何でもないよーーそうだ!久しぶりに夜の礼拝堂に行こうぜ」
「えー…?まあ其処なら敷地内だし、バレても大目玉は食らわないか」
「目玉だかなんだか分からないけど行こうぜ、ホラ!」
そういってまたシスター服のまま飛び上がっていく。行動も血筋もあんなシスターいてたまるかな無法っぷりだ。準ずる様にして僕も後を追う。姉さんの身体能力は鍛えていないどころか公園と教会しかその足で踏んだことがない籠の鳥の女性とは思えないほど高い、どんどん高くなっていって、僕は差を広げられるばかりだ。
けどこれは、姉さんが紛れもなく血を引き継いでしまった証拠でもある。
礼拝堂には月明かりが差して、ステンドグラスがゾッとするほど綺麗だった。その月明かりが丁度照らす床に姉さんは立つと、讃美歌を歌い出した。
サタンの血を濃く受け継いでいるとは思えない、美しく、神聖な讃美歌ーー姉さんの讃美歌を聞いているときの、神父さんの幸せな、けれども複雑な顔は記憶に焼き付いている。
これから先も、この姉はずっと教会に居続けるのだろうか。シスター服を着て、十字架を首から下げた敬虔でどこまでも善良な悪魔は、死ぬまで出ることは出来ないんだろうかー。こんなにも綺麗な人が、外を知らずに死んでいく。生まれた場所が悪かった。産まれる母胎が悪かった。それだけで。
「…きお、オーイ、雪男ー?」
考え事をしていると、不意に姉さんの声が上から降りかかる。
「あ、ごめんボーッとしてた。歌い終わったの?」
「いや?雪男も一緒に歌わないかと思って」
「僕?いや、何年ぶりかも分からないし…」
「良いって良いって、歌は覚えてるだろ?」
「まあ、それは覚えてるけど…」
「なら問題ないって、歌おうぜ!」
「しょうがないなあ」

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