singer2
□離れなければならない運命
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「歌い手を卒業する。」
初めてりょーくんから言われた時、目の前が真っ暗になった。
確かに、こういうのは始まりがあれば終わりもある。
でも、いざ自分の恋人の卒業を聞かされたら、ビックリして何も考えられなくなった。
りょーくんが卒業するということは、きっと今までよりずっと会うことは困難になるだろう。
そうなったら自分はどうするべきだろう。
男同士、というのは、今後かなりのネックになる。何より非生産的だ。結婚はおろか、子供を生んで幸せな家庭を築くことも出来ない。
これ以上、りょーくんの側に居るのは正しいことなんだろうか。自分の存在が、今後のりょーくんの人生の妨げになるのではないだろうか。
りょーくんも自分も、もう良い歳だ。結婚、というのも人事ではない。
でも、だからといって、簡単に別れを告げることも出来ない。
好き、だけじゃ駄目なんだ。男同士に対しての世間の目は厳しい。りょーくんの両親だってはやく孫の顔が見たいだろう。
あぁ、いつか来るとは思ってた。
りょーくんだって、僕のこと、沢山のファンのこと、そして自分自身のことを考えに考えて卒業を決めたんだろう。
なら僕はそのりょーくんの決断を受け止めて、そして、これからのりょーくんの人生のために、彼の背中を押すべきだ。
初めて会った時、めちゃくちゃかっこよくて、ちょっと話しづらかった。
でも、りょーくんは優しくて、打ち解けて、告白は、りょーくんからだったね。
嬉しくて泣いちゃって、びっくりして慌ててた君の顔、まだ覚えてるよ。
初デートは、君の家だったね。
すごく緊張してた。でも、りょーくんは余裕そうで、ちょっと悔しかった。
初キスもその時だったね。慣れてなくて、息の仕方が解らなかったのは、懐かしいなぁ。
君と初めて繋がった夜。絶対忘れない。幸せってこういう事なんだって分かったよ。
君と過ごしたのは、君の人生の中でのほんの数ページでしかないんだろうな。
笑った顔、不安な顔、悔しさで泣いた顔、ヤキモチ妬いて怒った顔、男らしい顔。どれも絶対忘れないよ。
りょーくんと出会って、僕は変われたと思うんだ。
大好きな人と過ごすって、凄く幸せなんだね。
でも、その幸せにも終止符を打たないとね。
じわじわと熱いものが込み上げてくる。
ソレは目尻に溜まっていき、ゆっくりと溢れた。
ゆっくりと息を吸い込み、そしてゆっくりと吐き出す。