singer

□本当はずっと待ってた
1ページ/1ページ

それはおよそ3時間前。

「夏代の馬鹿!もう知らない!」

せっかくのデートの途中。スゴく観たい映画があって、二人で観ていた。
自分はスゴく熱中して観ていたが、肝心の夏代は――

「面白かった!ね、なつしろ!」
隣に座っていたなつしろに声を掛けると、

「すぅ…」

信じられない!せっかく面白かったし、何より久し振りのデートだったから。

そして冒頭に至る。
「うぅ、飛び出して来ちゃった。てか思いっきりひっぱたいちゃったし…」

いや、これは向こうが悪い。だって久し振りのデートだったのに、あぁ、イライラする。

(…てか、どうしよう、帰ろっかな)

でも、やっぱりあんな子供みたいな事で怒らなきゃ良かった。



冷たい風が身に滲みる。吐く息が白い。ポケットに忍ばせた手も悴んでいる。

「あっ、ケータイ、」

さっき映画だったから電源を消していたのを思い出し、携帯を取り出す。

(寒い…、てか後少しで家じゃん。)

早く帰って炬燵に入りたい。そんなことを考えながら携帯を見たら、息が詰まった。

「…」

「いぶっ!」

なんで居るの?聞きたいけど声が出ない。

「いぶ、ごめん…」
なんて顔してんのさ
ぎゅぅっ、

不意に抱き締められる。

「ごめん、ホントに」

知ってたよ。なつしろ、最近忙しかったんでしょ?だって目の下にくまできてたし、ボクが行きたいって言ったから無理してくれたんでしょ?

「何時から…居たの?」
「ついさっき来たばっかりだよ。」

嘘つき。手、冷たいじゃん。何時間待ってたのさ。
馬鹿じゃないの?

目頭が熱くなる。

携帯には着信が一杯あって、全部なつしろからで。

「良かった、事故に合ったかと思った。」

何でそんな優しい声をするの?ずるいよ。

涙が止まらない。

「…なつしろ、ごめん、なさい」

「何でいぶがあやまんのさ、悪いのは俺だよ。ごめん」

あぁ、好きだ。

ぎゅうぅ

すっかり冷えきってしまったなつしろの身体は冷たい筈なのに、何故か暖かかった。


タイトル:確かに恋だった様より

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ