singer
□本当はずっと待ってた
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それはおよそ3時間前。
「夏代の馬鹿!もう知らない!」
せっかくのデートの途中。スゴく観たい映画があって、二人で観ていた。
自分はスゴく熱中して観ていたが、肝心の夏代は――
「面白かった!ね、なつしろ!」
隣に座っていたなつしろに声を掛けると、
「すぅ…」
信じられない!せっかく面白かったし、何より久し振りのデートだったから。
そして冒頭に至る。
「うぅ、飛び出して来ちゃった。てか思いっきりひっぱたいちゃったし…」
いや、これは向こうが悪い。だって久し振りのデートだったのに、あぁ、イライラする。
(…てか、どうしよう、帰ろっかな)
でも、やっぱりあんな子供みたいな事で怒らなきゃ良かった。
冷たい風が身に滲みる。吐く息が白い。ポケットに忍ばせた手も悴んでいる。
「あっ、ケータイ、」
さっき映画だったから電源を消していたのを思い出し、携帯を取り出す。
(寒い…、てか後少しで家じゃん。)
早く帰って炬燵に入りたい。そんなことを考えながら携帯を見たら、息が詰まった。
「…」
「いぶっ!」
なんで居るの?聞きたいけど声が出ない。
「いぶ、ごめん…」
なんて顔してんのさ
ぎゅぅっ、
不意に抱き締められる。
「ごめん、ホントに」
知ってたよ。なつしろ、最近忙しかったんでしょ?だって目の下にくまできてたし、ボクが行きたいって言ったから無理してくれたんでしょ?
「何時から…居たの?」
「ついさっき来たばっかりだよ。」
嘘つき。手、冷たいじゃん。何時間待ってたのさ。
馬鹿じゃないの?
目頭が熱くなる。
携帯には着信が一杯あって、全部なつしろからで。
「良かった、事故に合ったかと思った。」
何でそんな優しい声をするの?ずるいよ。
涙が止まらない。
「…なつしろ、ごめん、なさい」
「何でいぶがあやまんのさ、悪いのは俺だよ。ごめん」
あぁ、好きだ。
ぎゅうぅ
すっかり冷えきってしまったなつしろの身体は冷たい筈なのに、何故か暖かかった。
タイトル:確かに恋だった様より