少女A(JOJO2)
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「ナマエ、メッシーナ師範代を頼んだ」
「いえっさー」
中に入ると右脇にメッシーナ先生が倒れていたので駆け寄る。左腕は失われていたがちゃんと息をしていたのでほっとした。さっき見捨てようみたいな発言したけど別に死んでほしいわけではないから。ただ金髪のイケメンと比べたらアレなだけで死んでほしいわけではないです。
メッシーナ先生の腕からだらだら血が流れているので止血しなければならない。なんか縛るものないかな。ありませんね。ならこういうのは服を破ってその布を包帯代わりにするのがセオリーでしょう。というわけでメッシーナ先生の服を破いて止血する。え、自分の服を破かないのかって?やだよ勿体ない。
メッシーナ先生の手当てが終わりシーザーの方を見るとワムウと交戦中だった。ワムウが風を操るのに対してシーザーはシャボンカッターを飛ばす。シーザーの攻撃は当たってるがワムウの攻撃は避けられている。ワムウは血だらけなのに対してシーザーは無傷だ。シーザーが優勢である。とはいえ異常な回復力を持つワムウにいくら手傷をつけようが決定打にはならない。
そしてついにワムウが反撃に出た。攻撃の効かないシーザーに最強のカードを切ったのだ。闘技神砂嵐だ。まともに食らえば無事ですむはずのないワムウの必殺技だ。当然シーザーもそれを打たせたりはしない。空中を漂うシャボンカッターをレンズとして活用し外から日光を取り入れた。太陽の光を浴びてワムウの身体が黒く固まっていく。
「ぐおおおおおおっ!!」
「太陽の光を浴びせてもまだ倒せないか。なら直接波紋を流し込んでやる!」
そういってシーザーはワムウに向かい駆け出した。はい、ちょっと待ったぁぁぁーー!!シーザーの行動は客観的に見れば正しいが結果をいえば最悪である。なぜならば蹴りを放つ瞬間シーザーの影により光が遮断されたことによりワムウが動けるようになってしまうからだ。そしてその隙に神砂嵐を撃たれてシーザーは敗北してしまう。ジ・エンドだ。
それをさせないために私はこんな死亡フラグまみれの戦いに身を投じ修行とかがんばってきたんだよ!絶対にシーザーは死なせないからな!
シーザーがシャボン玉をレンズとして利用した瞬間私は駆け出していた。シーザーを救う方法はシンプルだ。つまりワムウを拘束する光を遮断しないようにシーザーの動きを変えればいいのだ。具体的にいうならワムウに蹴りを放つ前にシーザーをぶっ飛ばしワムウから離します。本当はシーザーに向けて風弾撃てば速いし楽なんだけどどうやら今の私の風弾の威力は洒落にならないっぽい。一撃でロギンス先生の意識を奪うほどの威力です。ここでシーザーに気絶されたらその瞬間命が助かっても詰むのでやめておこう。修行の成果が風弾の使い勝手が悪くなっただけなのだが私のあの1ヶ月はなんだったんだろうね。
というわけで単純明快物理でシーザーを救います作戦を決行するために私は走った。身も蓋もない作戦だなって?なら逆にシーザーをスマートに助ける方法を教えてくれよ。私の脳みそでは無理だったんだ。
ワムウに飛び蹴りを放った瞬間私はシーザー突進しぶっ飛ばしながら押し倒す。すでに空中に身を置いていたシーザーは私の攻撃にあっさりふっ飛んだ。二人して地面に叩きつけられたがすぐさま受け身をとっていたシーザーが立ち上がる。そして驚愕と怒りの眼差しを私に向けた。
「何をするんだナマエ!!もう少しで奴にトドメを刺せたというのに!!」
「いやいや!刺せないから!シーザーが飛び上がった瞬間その影がワムウを拘束してた日光を遮ったんだぞ?あのまま攻撃してたらワムウの反撃にされてたって!」
「なんだと」
私の言葉を聞いてシーザーが目を見開く。シーザーの怒鳴り声なんて聞いたことなかったからちょっとブルッときました。これが貧民街テンションか。怖い。だけれどあのままだとシーザーは確実に敗北したのだから私は間違ったことはしてません。神砂嵐を受けてたらシーザーは致命傷を受けて死んでしまうのだ。だからシーザーの攻撃を中断させた私の行動はあってた、はず。あってたよね?だって今シーザー生きてるもんね?いまいち自分の行動に自信が持てないがまあシーザーが無事なので良いことにしよう。結果オーライです。
「今の展開を予測しさらに早期の決断と迅速な行動力により仲間を救うとは中々の戦闘スキルだ。小娘、確かナマエという名だったな。貴様を戦士として認めてやろう」
砂ぼこりを払い立ち上がるとワムウからそのようなお褒めの言葉をいただいた。ということは私の判断は正しかったのですね。それはよかったです。だけどワムウのお言葉は全然嬉しくない。展開を予測したとか決断が早かったのは別に私の能力じゃないし。ただ原作知ってたからです。すいません、私ただのカンニング野郎なんです。だから私になんか戦闘能力あるみたいの言い方やめてください。私はただの雑魚です。そしてその勘違いのせいで戦士と認定されてるし本当やめて。ワムウに戦士に認定されるとか死ぬ未来しか見えませんよ?私にも死の結婚指輪送られちゃうんですか?私プロポーズは夜景の見えるレストランでされたいです。
「そうか、俺は今ワムウにやられるところだったのか。すまなかったナマエ。助けてくれたお前に俺はとんだ暴言を吐いてしまった。許してくれ」
「いえいえ、全然気にしてないよ?おきになさらずに」
貧民街テンションが落ちて冷静になったシーザーが謝罪を口にする。いやいや気にしなくていいから。君が無事ならそれでいいから。取り敢えずこれでシーザーの死亡フラグ消えましたか?ヒャッハァァーーー!!!よっしゃー!第2部完!シーザーは生きてるぞ!私はミッションをやり遂げたぞ!
私が心のなかで万歳三唱を叫んでるとゴゴゴと音がした。え、なにごと!?と思い振り返るとワムウが腕を捻りあげていた。ちょっと待ってそれ神砂嵐の予備モーションじゃね?え、うそ、ちょっと待ってそれ撃つなァァァーーー!!
「だが勝つのはこのワムウだ!闘技!神砂嵐!」
そういうとももに小型の竜巻が現れ辺りを巻き込んでいった。遠目で見たワムウは透明化しており風のプロテクターを纏いシーザーのシャボンのレンズから逃れたのだと悟る。そうか、シーザーだけ動かしても意味がないのか。ワムウが光を克服する術を持っているというならばワムウの方をどうにかするべきだったのだ。後悔したって遅い。もう神砂嵐はこちらに向かって放たれてしまっている。これを食らえばシーザーは原作通り命を落としてしまう。それだけはさせてたまるか!
シーザーの死亡フラグをなんとかするために厳しい修行に耐え柱の男がいる恐ろしく危険なサンモリッツまで来たのだ。ここで死なせてたまるかァァーー!!
「死ぬなシーザァァァーーーー!!」
「え、ナマエ?‥グハァッ!!」
振り返り驚くシーザーに向けて最大出力の風弾をぶっぱなす。シーザーの身体は宙に浮かび建物の端っこまで強制的に吹き飛んだ。そしてその瞬間私の身体を神砂嵐が突き抜けた。私の周りを風の刃が切り裂いていく。だが風人間の私に物理攻撃は効かない。ワムウの目がなにっ!?と見開かれた。その一瞬の隙を逃さず私は攻撃の構えを取る。食らえ!
「風刃ーー!!」
「な、グッ!」
私の身体から放たれた風の刃はワムウの胸を大きく切り裂いた。辺りに血が飛び散りやったか?と身体を強張らせるが私が付けた傷はすぐに塞がっていってしまう。やはり波紋を帯びない攻撃はワムウに効かないらしい。私たちは互いに互いを害することができないのだ。ジーと睨み付けるように視線を交差させていると先程の攻撃の余波かガラリと壁が崩れ落ちた。部屋の中に日光が差し込んでいく。光の満ちた部屋でワムウは戦うことはできない。ワムウは『俺の神砂嵐で死なない人間がいるとはな。ナマエ、貴様が何者かは知らんが必ず俺が殺す。待ってるがいい』というと暗闇の中に去っていった。辺りに再び静寂が訪れる。
私はゆっくりシーザーの元に向かった。シーザーはメッシーナ先生とは逆の方向の部屋の隅に倒れていて死んだように動かない。そしてその身体には結局ワムウの攻撃を避けれなかったようでいくらかの傷が付き血が滲んでいた。駄目だったのだろうか。運命は変わらないのだろうか。今までの努力か無駄になるとかどうでもよかった。ただシーザーがいない世界が訪れることを思うと目頭が熱くなった。
恐る恐るシーザーに手伸ばす。震える手で触れた先には暖かな体温があり強く脈打つ鼓動があった。口元に手を持っていくと小さな風が身体に当たる。呼吸をしている。生きてる。シーザーは生きている。
熱くなっていた目頭からそのまま涙が零れ落ちた。生きてる!シーザーが生きてるよおおおっ!!ひゃあああっはあああっ!!
ヤバい!どうしよう!めっちゃ嬉しい!私はついにシーザーの死亡フラグを叩き折ることに成功したのだヒーハー!ちょっと誰か壁殴り代行呼んでくれ。この感動をどこかにぶつけたい。
顔がにやける。だってシーザーが生きてるんだよ?原作改変に成功したんだよ?いやー、途中やばかったけどなんとかうまくいったな!終わり良ければ全てよし!結果オーライ!うん、じゃあそろそろシーザー起きてくれ。もうすぐジョジョ達が来るだろうし合流してワムウを追跡してください。シーザーが生きていればカーズ戦もっと安全にクリア出来そうだ。ジョセフと協力してリサリサ先生を助けてください。
そう思いながらシーザーを揺する。だがシーザーは起きない。あれ?どうしたのシーザー?おきてよ起ーきーろー
だがどれだけ揺さぶっても叩いても名前を呼んでもシーザーは起きる気配がない。え、何故だ。実はワムウの神砂嵐しっかり食らっててダメージが凄いとかですか?そんなんだったらそもそもシーザー生きてないよ。ワムウの神砂嵐をまともに食らってるならシーザーは死んでます。それに見たところ細かい傷はあるけど大きな傷はない。ならどうしてシーザーは目を覚まさないのだと思った瞬間はたと気付く。私シーザーを風弾でぶっ飛ばしたじゃないかと。
だらだらと嫌な汗が流れる。私はシーザーに向かい風弾を打った。そりゃもう全力で撃った。だってワムウの神砂嵐から逃がすためだもん。そりゃ本気で撃ちますよ。そこで思い出して欲しいのは私の風弾の威力はロギンズ先生の意識を吹っ飛ばすほどであると。あのあとロギンズ先生が語るには私の風弾の威力は修行塔のてっぺんから飛び降り地面に叩きつけられたくらいの衝撃だそうだ。そうエシディシ戦が終わった後弱々しい声色で言っていたロギンズ先生を思い出す。なんてこった。やべえ、やっちまった。
シーザーは起きない。死んだように眠り続ける。私は横たわるシーザーに向かい拳を握りしめ声を絞り出すように叫んだ。
「シーザァァァァァァァーーー!!!」
シーザー・A・ツェペリここに眠る。こうしてシーザーは私の風弾のせいで気絶し脱落したのだった。
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