少女A(JOJO3)

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原作を知っていたのだからこの状況になることは当然わかっていた。そしてこの状況を変えておけば今この瞬間にDIOを倒せることもわかっていた。

それでも私はあえてその選択をしなかった。理由は承太郎が時を止める能力を身につけられなくなるのが嫌だったからだ。たとえこの戦いを勝ち抜けても未来で死んでしまったらなんの意味もない。だから目の前のこの状況は私が望んだ展開だというのにいざ目の当たりにすると吐き気がした。胸がむかむかして非道な行いをする黄色い男を殴り飛ばしたい衝撃が突き抜ける。私がこうなのだから承太郎の怒りはもっと凄まじいのだろう。DIOはジョースターさんの胸に指を突き立てて血を啜っていた。


「なじむ 実に!なじむぞ!フハハハッ!!」


「テメェ、」


DIOはどっかの野菜の国の民族みたいに毛を逆立てて顔をガリガリと掻きむしり高笑いをしている。せっかく入手したジョースターさんの血液を無駄にするなよと思っていると承太郎とDIOが互いに向かって走り出し気付くとその場から消えていた。ここからは時を止められる時間が長くなっているからさらに行動パターンがわからないな。

取り敢えず空を飛んでふたりを探すと開けた道路の真ん中で地面に突き刺さるロードローラーがあり、足から血を流し地面に横たわるDIOと仁王立ちする承太郎の姿があった。もうここまで展開が進んでいるのかよ。ロードローラーのくだりも承太郎の能力が覚醒するシーンもすべて時が止まった世界で行われるから私には全カットということですね。なんか損した気分だ。

気配を消して2人のそばに近づく。DIOのゲロ臭い人間性はわかっているのでやるべきことはやっておこう。

西部劇のガンマンのように怪我が治った瞬間に互いの拳を撃ち合おうと承太郎がいうがDIOがそんなものに応じることはない。

それを知っているから周りの風を承太郎に纏わせておく。強度はそんなにいらないだろう。


「過程や・・、方法なぞ・・・!どうでもよいのだァ─────ッ!!」


「ッ、」


DIOは怪我した足からわざと血を飛び散らせ承太郎の目を潰そうとする。何もしなくとも承太郎が勝つだろうけど別にこれくらいなら手を出してもいいよね?

噴き出した血は承太郎に届くことなく弾き返されそのままDIOの視界を奪う。承太郎に纏わせていた風の鎧が弾けDIOの血液を弾き返したのだ。そこまでちょうどの場所に跳ね返るとは思っていなかったけど問題ないね。DIOは視界を奪われ一瞬怯んだ。それを見逃す承太郎ではない。


「オラァ!」


「ナニィィィーー!??こ、このDIOがァ!?」


承太郎のパンチを食らってDIOの身体が避け血があふれだす。そのまま真っ二つに割れたDIOをオラオラして承太郎がトドメを刺す。DIOは動かない。終わった、終わったのだ。

50日間の旅が今終わりを告げたのだ。

ホリーさんはDIOを倒したのだからきっと助かっただろう。典明も腹パンフラグを折ったから生きている。アヴドゥルさんとイギーはどうやってかは知らんがヴァニラさんを倒して生き残った。ジョースター一行は全員生きている。完全★勝利!うおおおっ!やったぞ!全部の死亡フラグ折って皆生き残れたぞ!もう、本当にめっちゃ嬉しい!いや、もうこの旅は苦労の連続だったよ。昼夜問わず敵スタンドに襲われるし道なき道をいくこともあり疲れるし何よりラスボスはチートだし本当に大変だったわ。これ、3人が生きているの私のおかげだよね?私めっちゃ頑張った!

あとはこの倒れて時々ピクピクと痙攣しているDIOから血を抜いてジョースターさんに入れれば終了です。さて、後は私の存在をみんなに認識してもらって日本に帰るだけだね。それが難しいのだけれども。うん、私いつまで経っても薄くて気配消えたままなんだけどこれいつになったら戻るんだ?最悪気付かれずにエジプトに取り残されるぞ?それは嫌です。日本まで飛んで帰るとか絶対に嫌です。

ふと、承太郎がこちらを見ていることに気付いた。え、承太郎!!まさか私が見えるのか!?承太郎ー!私だー!お前なら気付いてくれるって信じていたよ!


「まさか、ナマエか?」


そういって承太郎が私のいる方向に手を伸ばすが残念なことに空気化している私に触れることはできない。しかし、何かを確信したのか承太郎ははっきりと私のいる場所に視線を向ける。


「そこにいるんだなナマエ」


そういう承太郎の言葉は力強い。うんうん、そうだよ承太郎。私はここにいるんだよ!これ何か言ったら承太郎に伝わるんじゃね?言ってみるか。でもなんていおう。

『私、参上!』とかどうだ?いやそれより『典明の死亡フラグ折ってやったぞ?(ドヤ)』とかも言ってやりたい。

まあそんなことは後でいくらでも言えるよね。今、DIOを倒した承太郎にいう言葉はこれしかないだろ。


『ありがとう、承太郎』


DIOに勝ってくれてありがとう。私がこの戦いに勝つことは不可能だった。この戦いを終わらせてくれたのは承太郎だ。だから最初に伝えるべきはお礼の言葉だろう。本当にありがとう承太郎。

その瞬間、ふと視界が暗くなる。意識が遠くなり身体が何かに引き寄せられる感覚があった。…え?

そして私はその場から完全に消え去ったのだった。




※※※


DIOから吹き出した血は不自然に俺を避けDIOの目を潰した。あの時はDIOの野郎をぶっ殺してやることしか頭になかったが明らかにおかしいことだ。こんなことをできる奴は1人しかいねえ。


「まさか、ナマエか?」


誰もいない空間にそう呼びかける。返事はない。だが空気が揺らめくのを感じた。

ポルナレフとアヴドゥルにナマエが死んだと聞かされた時は目の前が真っ暗になった。いつも俺の隣にいて笑ったり泣いたりするあいつがいなくなるなんて想像ができなかった。

だがすぐに怒りが湧いてきた。ナマエを死なせたポルナレフとアヴドゥルに見当違いだというのに怒りを抱かずにはいられなかった。

すぐにじじいに諌められて冷静になる。全ての現況はDIOだ。奴を倒さねえとババアも救えねえ。怒りをDIOに向けて突き進む。そうしねえとどうにかなっちまいそうだった。

だが戦いが終わり冷静になれば不自然な現象があったことを思い出す。DIOにナイフを投げられた時に不自然に俺を避けていくナイフが何本もあった。あれもナマエが何かしたんじゃねえか?

やはりナマエは生きている。そう俺は確信した。


「そこにいるんだなナマエ」


何もない空気の揺らめく場所を睨みつけながらそういう。すると、上り始めた太陽に照らされ薄っすらとナマエの姿が浮き上がってきた。


『ありがとう承太郎』


確かにそれはナマエだった。半透明で朧げな存在だったが確かにナマエはそこにいた。

やはりナマエは生きていた。死んでなどいなかったのだ。

声をかけようとする。だが瞬きの瞬間ナマエは消えてしまった。今度はその存在すら見当たらない。慌ててその場に駆け寄るも手は空を切るだけだった。


「ナマエ、」


何故いない。何故いなくなった。

空気の揺らめきさえ感じない。ナマエは完全にいなくなった。

まさかあれはナマエの幽霊だったというのか。あり得ねえ。ナマエは絶対に生きている!必ず探し出してやる!

DIOから血を返して貰いジジイを蘇生する。その後他の奴らと合流するが花京院もジジイもポルナレフもナマエが生きていることに同意した。


『僕はDIOに腹を貫かれて死んだと思いました。ですがDIOの拳は僕を突き抜けることができなかったのです。あれはきっとナマエちゃんの能力です』


『花京院が気絶していたというなら時計を壊したのはナマエじゃろう。ナマエがわしにDIOのスタンドが時を止めることを伝えてくれたのじゃ』


『DIOにやられた時風に包まれる感覚があった。ありゃ間違いなくナマエの能力だぜ。あいつも水臭いよな。生きているなら言えってえの』


ナマエの能力は不明なところが多くひょっとしたら使い過ぎると自身も空気のように存在が薄くなるのかもしれない。いずれにせよナマエはまだこのエジプトにいるだろう。

ナマエを探すが見つからない。俺たちもそれぞれナマエを探したが丸一日経っても見つけることができなかった。

ババアに無事を知られるためと花京院はまだ学生であることから俺と花京院とジジイは一旦帰国することになった。ナマエの捜索はポルナレフとアヴドゥルが引き継いでくれる。

日本に戻るとババアが抱きついてきた。鬱陶しい。無事を確認できたことだし俺はナマエを探しに行くというとババアは不思議そうな顔をして、信じられないことを言った。


『ナマエちゃん?それはどなたかしら?』


何を言われているかわからなかった。ナマエは俺の幼馴染だ。それをババアが知らないということはない。

家を飛び出す。ナマエの家だったところには知らない表札がかかっていた。中に住んでいるのは知らない家族だった。

家中をひっくり返してアルバムを漁る。だが1枚としてナマエが写った写真はなかった。

その時アヴドゥルから電話がかかってきた。スピードワゴン財団にナマエの捜索を依頼しようとすると誰もナマエのことを知らないというと。

学校にもナマエがいたという記録は残っていなかった。まるでナマエが最初からいなかったかのようにその痕跡はどこにも残っていなかった。

俺たちの記憶にしか存在しないナマエ。いや、あいつは確かにここにいた。元々いないなんてあり得ない。


『ナマエちゃんは確かにいましたよ』


可笑しな現状に気が狂いそうになったときそういって花京院が1枚の写真を取り出した。それは旅の途中ジジイが言い出し皆で撮った写真だった。

背が低いから前に行こうとするナマエを押し留め俺の隣に立たせた。ナマエは後ろの列が嫌なのか不満そうにしていたが写真の中では笑っていた。そう、ナマエが確かにいるという証拠がそこにはあった。

やはりナマエは確かに存在した。スタンド攻撃を受けたのかそれとも別の理由があるのかはわからないが確かにナマエは存在しているのだ。ならば必ず見つけ出す。どれほどの時間がかかっても構わない。もう一度あいつに会ってそして、


「…今度こそ言っておかねえとな」


帽子を深く被った。





※※※


気付いたら晴れ渡る空の下にいた。周りは住宅街でどう見てもエジプトではない。

はい、また異世界トリップをしてしまったみたいです。次こそ元の世界に戻っていないかな〜って淡い期待をしたがどうやらまだふうふうの実の力は使えるから違うだろう。そろそろおうちに帰りたいよー。

あのあと承太郎たちはどうなったんだろう。まあDIO倒せたのだから死亡フラグは全部折れてますよね。私のお仕事は果たせたしまあいいや。それよりここがどの世界かが大事だな。

近くにはポストがあってまさに日本平凡な住宅街って感じだ。ここどこだ?


「あら、こんなところにいるなんて貴女どうしたの?」


困っていると何やら犬を散歩中のお姉さんに話しかけられた。おおっ、なんか親切な人に声かけられたぞ。じゃあここがどこだが聞いてみるか。

そう思って声をかけようとした瞬間1つの風景が頭をよぎる。

赤いポスト、犬、そして女の人。これはひょっとして…、

犬の首元を凝視する。するとそこには赤い線が入っていた。ほら間違いないようだ。私の奇妙な冒険は終わっていない。

目の前の女性、杉本鈴美が『気付いちゃったかしら。でも驚いたからといって振り向かないでね。連れていかれるわよ』という。うん、そうだ、やっぱりそうなんだ。

私はジョジョ4部にトリップしたのだ。私の旅はまだまだ終わらない。


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