short(JOJO)

□飼えない犬は拾うべからず
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「あ、ナマエ先輩ー!」


「げっ、」



休み時間にお花摘みをして教室へ戻る途中の廊下でばったり出くわしてしまった仗助に私は思わず嫌な声を出してしまう。なんてこった。今日はどうやらついてないらしい。おは朝の占い見てなかいけどきっと今日の蠍座の運勢は最下位だったのだろう。ちゃんとラッキーアイテム用意すべきだった。

私は会えたことで嬉しそうに顔を輝かせている仗助を見ながらため息をつく。その喜ぶ姿はまるでちぎれんばかりに尻尾を振る大型犬のような可愛さでこれから起こることを考えると気が重くなる。

彼の名前は東方仗助で私との関係はただの同じ学校の先輩後輩だ。だがある日彼の財布を拾って届けてから異様になつかれるようになった。先輩は命の恩人っすっていってキラキラした目で見てくる仗助に悪い気はしなかったがたかが財布で大袈裟だと思う。気にしなくていいっといってるのにいや!先輩に拾ってもらえたのは運命っす!きっと神様が先輩に拾ってもらえるようにしたんっすよ!と頬を赤く染めながら嬉しそうにそういった。なんだこのオトメンは。仗助くん、君の愛読本ってひょっとして少女漫画ですか?どうやら私はシンデレラのガラスの靴を拾ってしまったらしい。持ち主は可憐な女の子ではなく慎重180越えの中身だけ乙女なガタイのいい男だったけど。

そんなわけで仗助は好意をあからさまにして私を見かける度に主人を見つけたワンコのように刷りよってくる。先輩!先輩!っていって笑顔を向けられるのは素直に嬉しいけど私にその気がないだけに心が痛い。そう、残念ながら仗助は私のタイプではないのだ。私はしっかりしてて男らしくて甘えさせてくれるような人がタイプなのだ。外見だけで言えば仗助は結構タイプだがいかせん中身がオトメン過ぎてそういう対象に見れない。可愛い後輩っていうのならそれでいいんだけどどうも仗助は私のことがそういう意味で好きっぽいのだ。自意識過剰ならそれでいいけどそうじゃなさそうだから気が重い。

好意を返せないとわかってるのでなるべく仗助に会わないように避けているというのに仗助は目敏く私を見つけてアタックしてくる。学年違うというというのに驚異の遭遇率だ。たぶん狙ってやってるのだと思うけど私の態度からちょっと空気を読んでほしい。



「先輩!先輩!俺ナマエ先輩に聞きたいことがあるんすけどいいっすか?」


「ああ、うん、どうぞ」



仗助が楽しそうにそう尋ねてきたので無気力に肯定する。取り敢えず今日も会ってしまったなら仕方ない。次の授業まで時間もないしそう長いこと拘束されないだろうから相手をしてやろう。

さてそれで仗助は私に聞きたいことがあるらしい。なるほど、情報収集か。こういうのって普通友達伝手にやるものなのに直球でくるとはオトメンのくせにやりおる。まあそこは男らしくてないほうがよかったんだけど。だって気まずいし。

私の心情を知らぬ仗助はニコニコと毒気のない笑みを浮かべながら少し頬を染めゆっくりと口を開いた。



「先輩は年下と年上どっちが好きですか?」



その問いに私は盛大に口元をひきつらせた。おまっ、なんてことを質問するんだよ!それって今の状況でいえばかなり核心をついた問いじゃないか!?もっとフラットな問から来てくれよ好きな食べ物とかさ!

そう心の中で叫びながら私は頭を抱える。これどうしようか。正直に答えるならば年上の方が好きである。さっきも言ったけど私は頼りになる大人な男性がタイプで甘やかすよりも甘えたいのだ。だがこれをいうと仗助はしょんぼりと尻尾を下げてとぼとぼ歩く犬のようになってしまうだろう。犬派の私にとっては見るに忍びない光景だ。年上と答えるのは難易度が高い。

だがここで下手に嘘をついて年下と答えたらそれは仗助を期待させることになる。私にその気はないのだ、ここは鬼となってきっちり振ってやるのが優しさという奴だろう。

そうだ、残念なことだが仗助は私のタイプじゃないのだ。ここは年上と答えるしかない!と決意し拳に握りしめ仗助に向き合う。が、その瞬間私の決意はあっさり吹き飛んだ。

仗助は真剣な表情で私を見下ろしていたのだ。口元には先ほどの笑みはなく口は真一文字に結ばれておりじっと私を見つめている。

例えていうなら捨てないで!と目で訴えてくるチワワなような感じだ。某金融機関のCMを思い出してもらえたらわかるだろう。なんだこの目は。やめろ!そんな目で私を見るんじゃない!

罪悪感がじくじくと込み上げてくる。私拾ってくださいって書かれている段ボールに入っている子犬には弱いんだよ。お陰で我が家には4匹も犬がいる。私の中の天使がもう一匹くらい大丈夫じゃない?と囁いてくるが仗助は犬じゃないから!責任取れないなら飼っちゃダメなんただぞ!と悪魔が反論する。真剣に悪魔を応援するのは初めてかもしれない。もっとやれ。

だけども私の中には仗助を振りほどけるだけの余力はなかった。口内がカラカラに乾いた口を動かしなんとか言葉を口にする。



「と、年下かな、」



引きつった顔で出した答えにも関わらず仗助はそれを聞くとパァと表情を明るくして花が咲いたように笑った。



「先輩は年下が好きなんすね!俺も年上が好きっす!」



そう心底嬉しそうな仗助に何か『俺も』だよ。別に私は好きじゃないよこの両想い的な雰囲気はやめてくださいと脳内で返す。脳内だけだ。現実はひきつりながら笑みを浮かべてます。



「そうか、奇遇だね。はは、」


「はい!すっごく嬉しいっす!」



そういってニコニコ笑う仗助に乾いた笑みを返す。この犬系男子仗助にどうにも私は流されてしまうらしい。


ーendー

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