ホビット

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感動的な再会を果たしさあエレボールを目指そう!と思った瞬間ワーグの鳴き声があたりに響いた。どうやら今度はオークの軍団がやってきたらしい。なんでこう次から次へと敵がやってくるんですか?ゴブリンとの戦い頑張ったじゃん。そろそろ第一部完!でよくない?

皆でオークと反対方向に逃げていくがその先はなんと崖だった。下に広がるのは米粒ほどの大きさの森で落ちたらどう考えても助からない。あ、これ詰んだわ。

ガンダルフが木に登れ!と叫ぶ。それに従い皆で木の登っているとワーグに突き刺さった短剣を抜こうとしているビルボの姿が目に入った。うおおおっ!?ビルボ何しているの!?早く逃げないと!!


「ビルボ!早く登らないと!」


「わかっている!今行くさ!」


なんとか短剣を引き抜いたビルボに手を貸し木の上に登っていく。うん、とりあえずワーグの手の届かないところまで来たけどこの後どうするの?これって袋のネズミじゃない?

敵もわたしをそのまま放っておくほど甘くない。ワーグをけしかけると木を倒し始めたのだ。

ミシミシと木が傾いていく。え、これどうするの?このまま地面に着地はワーグの夕食エンドだぞ?と思っていると周りから飛べえ!!という叫び声が響いてきた。まさかジャンプしろだと?そんなターザンごっこは体験したくなかったです。

でも飛ばなきゃ死ぬので全力でジャンプする。飛んだ先の木の枝にお腹を打ち付けてマジ痛い。しかも木の枝掴んで体重支えているから腕がつりそうだ。自分の体力のなさが本当に恨めしい。

木から木へと移動するとついに最後の1本となってしまった。これを倒されればあとは崖の下に真っ逆さまである。どうするんだとガンダルフを見上げれば杖で松ぼっくりに火をつけワーグに投げている。どうやら獣は火が苦手なようだ。これわたしの出番じゃない!?火を出すことならめっちゃ得意ですよ!

ガンダルフに続いて『メラ』を唱えようとしたときふと使える魔法が増えていることに気づく。ああ、そうか。ゴブリンとの戦いでレベルが上がったのか。いったんステータスは確認しておかなければ。


勇 者 ナ ノ
せ い べ つ : お ん な
レ ベ ル : 10
H P : 7 2
M P : 2 8

▶︎魔法
メラ
ホイミ
ニフラム
ルーラ
ギラ


覚えた魔法はルーラとギラだ。どちらも有用な魔法でゲームの時は非常に便利だった魔法だ。ここでもきっと役に立つだろう。

まずルーラは移動魔法で行ったことのある街に戻ることができる。ドラクエで1番使った魔法はこれじゃね?と思うほどお世話になった魔法だ。ゲームでも便利だったけど現実ならさらにハイスペックじゃない?だってどこでもドアが手元にあるようなものだよ?これは勝利したかもしれない。最悪ルーラ使えばこの場から逃げられるぞ。

だけれどもルーラは行ったことのある場所しかいけないので今行けるのはホビット庄と裂け谷だけのようだ。ここから裂け谷まで戻るのは嫌だな。もう一度あのゴブリンの巣に行ったら死んでしまいます。ルーラは本当の本当の最終手段にしておこう。それでも逃げられる手段があるというのは気が楽になる。

もう1つの魔法はギラだ。メラの上位版の魔法で消費MPは倍だけれども攻撃力があがりそして全体攻撃ができるようになる。

ギラも確かに火炎系の魔法だったはず。今の状況にこれ以上適した魔法はないだろう。早速杖を握りしめ呪文を唱える。


「よし、どんどん投げていけ!火が燃えていればワーグを寄せ付けないぞ!」


「ナノ、おぬしも火の魔法を使うのじゃ!奴らを追い払うぞ!」


「うん、わかった。『ギラ』!!」


ガンダルフに促されて新しい魔法『ギラ』唱える。すると火があろうと近づこうとしていたワーグ数匹にボッと炎がつき激しく燃え上がった。火がついたワーグたちはキャイン!と叫び声を上げゴロゴロと転がって火を消そうとするが燃え盛る炎は消えることなくやがて力尽きたようにその場にワーグが倒れた。同じように数体のワーグがキャンキャン悲鳴を上げそして倒れていく。炎はワーグが力尽きるとともに消えていく。まるで命の灯火が失われたようだ。

皆がそれを見て驚愕の表情でわたしに視線を向ける。うん、気持ちはわかるんだけど1番驚いているのはわたしだから。ギラにこんなに攻撃力があるとは聞いてないぞ?え、確かHP20削るくらいの攻撃だよね?それにしては殺傷力高すぎませんか?敵とはいえ狼に似た動物が消し炭になって軽くグロッキーである。ここまでの効果は予想してませんでした。

おかげで全く敵が近づかなくなりました。うん、いいことのはずなのにちょっと複雑な心境だわ。

だが敵が近づかなくなったからといって脅威が去ったわけではない。細い木の枝に何人もの重たいドワーフがぶら下がっているのだから当然のこといつまでも持つはずがないのだ。メキメキという音を立てて木が傾いていく。その拍子にオーリが足を滑らせドーリの足を掴むがドーリも耐えきれず差し伸ばされたガンダルフの杖に捕まりなんとか耐える。戦況は悪くなっていった。

さらにトーリンが何を思ったのか立ち上がると剣を抜いて1人で白い大きなオークの元へと向かっていった。おそらくあの白いオークがバーリンの言っていたトーリンの宿敵アゾクなのだろう。自分の祖父の仇が目の前にいれば平常ではいられないのは想像できるけどそれでも1人では行かないでよ!周りにオークもいるしどう見ても多勢に無勢じゃないか!

後ろではオーリとドーリが落ちそうになっているし前ではトーリンが戦っているしどこから手をつけていけばいいのかわからない。助けてガンダルフ!あ、ガンダルフもめっちゃ忙しそう。ああ!

なんて考えているとわたしたちのいる松の木に手に刃を握らせたオークが近づいてきた。木はグラグラ揺れてあと少しでも衝撃を与えられたら持ちそうにない。そして何よりも武器を持ってニヤニヤ笑いながらやってかるオークが怖い!うわあああっ!!こっちくんな!

下手にギラを唱えて木まで燃えたら堪らないので近づくオークを一体一体メラで処理していく。なんとかオークを近づかせないことには成功したけど状況は何もよくなってないぞ?ドワーフは落ちそうだしトーリンは戦っているし。って、トーリン!?やばいトドメ刺されるところじゃん!

気付くとトーリンが下っ端っぽいオークに首を刎ねられるところだった。すぐさまメラを唱えようとした瞬間何かが傍から飛び出しオークに躍り掛かった。あれはビルボ!?ビルボじゃん!!え、ビルボいつの間にあんなところに行ってたの?なんにしてもトーリンは助かった。ビルボ、ファインプレー!

そのままビルボとオークの乱闘が始まる。少しでもビルボの助けになるようにとメラを唱えてピンポイントでオークの顔面を燃やすとオークは悲鳴を上げながら顔を覆いそのままビルボにトドメを刺された。

ビルボの行動はそれだけで終わらない。オークの胸に深々と剣を突き立てるとすぐさま起き上がりトーリンをまもるようにしてアゾクの前に立ちはだかった。どうしよう、ビルボが格好すぎて生きるのが辛い。結婚しよ。

なんてアホなこと考えている暇はなかった。トーリンを殺し損ねて怒れるオークたちがビルボに迫っていく。おいコラふざけんな。ビルボに手出しはさせないぞ!『ギラ』

その後他のドワーフたちも参戦し乱戦になったところで空から大鷲がやってきた。大鷲は何匹かのワーグを掴み崖の下に落とすとドワーフたちを拾い上げて空高く飛び上がった。わたしも大鷲に乗せられて空へと舞い上がる。ビルボは大鷲に掴まれると1度崖に向けて放り投げられ別の鷲に掬い上げられていた。なにあれ怖い。

大鷲は大きく羽ばたき岩肌の高い丘の上までくると次々とドワーフたちを降ろしていった。皆目を開かないトーリンを心配して駆け寄る。どうやらトーリンは重傷のようだ。

そりゃあのアゾクと一騎打ちして無事で済むはずがない。ワーグに噛まれた肩は牙の跡から血が溢れ骨も砕けていそうだ。うん、こういう時こそわたしの出番だよね。途中レベルが上がったのかMPには余裕がある。わたしは最もポピュラーな回復呪文を唱えた。


「トーリン!大丈夫、息はあるよ!」


「すぐに手当をしなければ重傷だ!」


「うん、すぐに呪文をかけるよ『ホイミ』!」


わたしがホイミを唱えるとワーグに噛まれた傷口が淡く光りゆっくりふさがっていく。なんか魔法エフェクトっぽいなと思いながらさらに2回ホイミを重ねがけする。トーリンの最大HPがどれくらいなのかわからないけれど見た目に傷が消えたから大丈夫だろう。

トーリンが目を覚ました。そして自分の様子を確認すると信じられないものを見るような目でわたしを見てきた。

不思議に思いながら周りを見渡すと周りにいたドワーフたちも有り得ないとばかりに目を見開き互いに顔を見合わせている。え、なにこれ?わたし何かしましたか?ちょ、そんなおばけを見るような目を向けないで下さい!

そこにガンダルフが杖をつきながらやってくる。ガンダルフはトーリンの傷を確かめるとなんともいえないとばかりに首を振って大きく息を吐いた。


「その『ホイミ』とやらは痛みを和らげる呪文だと言っておらんかったかの?』


「えっと、そういうことにも使えるだけで『ホイミ』は回復呪文です。怪我や傷を治せるんだと思います」


以前筋肉痛の辛さに『ホイミ』を使ったのを見られているのでその存在は知られていたが(ちなみにガンダルフにはそのような些細なことで無闇に魔法を使ってはいかん。と怒られた。それ以降は筋肉痛で泣いた)使った用途が用途だったので回復魔法とは認識されてなかったらしい。今トーリンの怪我を治して驚かれている。


「そのような強大な力を平然と使うとはおぬしは優秀な魔法使いなのじゃろう。いや、本当に魔法使いなのか?これはもうわしの理解を超えている」


「まあとにかくナノが凄い魔法使いってことなんだろう?心強いじゃないか!」


「そうだね。怪我しても治してもらえるなんて安心だよ!それにナノは持ち物をいくらでも運べるしさっきの炎の魔法は一瞬でワーグたちをやっつけてたよね?この旅に絶対に必要な人だよ!」


ガンダルフは訝しげに眉を寄せているがキーリやオーリが大喜びでフォローしてくれる。他のドワーフたちもナノは必要な人間だというように言い合い頷いている。そしてトーリンには怪我を治してくれたことを感謝する。ナノ殿がこの旅にいてくれて助かったと抱きしめられた。

うん、こんなに全力で歓迎してもらえて非常に嬉しいんだけど、あの、『ホイミ』も『ギラ』も初級魔法なんです。こんなの中ボスを一体倒したくらいのレベルだよ。え、これベホマズンやギガデインとか使えるようになったらどうなるの?知りたいような、知りたくないような。とりあえず今はガンダルフの視線が怖いから考えるのをやめておこう。魔法習得しても好き勝手使えなさそうだなぁ。

その後ビルボに対しても『足手まといはついてくるなといったことは一生の不覚。許してくれ』とトーリンが固く抱き合い旅の仲間の絆は強固なものとなった。

エレボールへの道のりはまだまだ続くのだった。





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