ホビット

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「エルフを旅に同行させるだど?奴らを同行させたところでろくに役に立たずに財宝だけを掠めとられるだろう。絶対に認めん」


はい、アイスです。現在圧迫面接の真っ最中なう。ガンダルフに連れられてトーリンの元にやってきたはいいが出会い頭に睨めつけられるは旅の同行を真っ向から否定されるはで心が抉れていきます。せっかくトーリンに会えたというのに虚しさばかり積もっていくよ。どんだけトーリンに嫌われているんだ私。やっぱり種族選択のところからやり直してもらえないだろうか。ドワーフになりたい。


「この旅にはアイスの力が必要だ。竜に立ち向うのに彼女の力は役に立つ」


「エルフがかつて我等にした仕打ちを知らないのか!奴らは肝心なところで必ず裏切る。エルフの助けを借りるくらいなら死んだ方がマシだ!」


「ええい、この分からず屋め!」


説得は任しておけといっていたガンダルフが切れそうなほど状況が激化していく。これガンダルフに任せたら旅に参加できないんじゃないのか?自分でも何かアピールした方がいい気がしてきた。

取り出す問題の争点であるエルフということについてたけど私はエルフではないのでこれは早期に解決する。私エルフに化けているだけで実はドラゴンなんですよと言えば話し合いは終わる。ついでに私の扱いも終わる。エルフよりさらに嫌われているドラゴンを名乗ってどうするんだ。この話題は深く追求しない方で進めたい。

あと私のアピールポイントは財宝の分け前が入らないということとそこそこ戦力になることだ。元々が竜であるおかげてエルフの姿になってと私のスペックは高い。それから竜の鱗と牙で作った装備を身に纏っているから戦闘でも役に立てるだろう。うん、強いことアピールに竜の剣を見せるのはどうだろうか。ガンダルフもそれを見て納得してたしトーリンにも効くんじゃない?


「私はエルフではない」


「何?」


トーリンの鋭い眼光がこちらを向く。それにヒィ!と悲鳴をあげそうになるのをなんとか堪えてできるだけ丁寧な物言いになるように心掛ける。


「確かに見目はそう見えるかもしれないが私はエルフではない。ドワーフの財宝にもなんの興味もない。私はただ邪竜の討伐をできればそれでいいのだ。旅の同行を認めてもらいたい」


「エルフではないだと?ではそれを誓えるか」


「ああ、神に誓おう」


なるべく穏やかな口調で言ったつもりだがトーリンの眼光はちっとも緩くならない。でもじっと何も言わず思案しているようなのでこれはワンチャンあるかもしれない。


「トーリン、アリスは白銀の竜の牙で鍛えた剣を持っておる。それを見れば心も固まるのではないのか?」


「何?白銀の竜の剣だと!?」


ここ一番の驚き声でトーリンが叫ぶ。え、なんでそこに反応するの?あ、自分の敵対する竜の剣持っているから驚いたってこと?白銀の竜の剣持っているのはプラスなのかマイナスなのかわからないけれどここまでお膳出せされれば出さないという選択肢はない。私は腰にぶら下げていた剣を取ると机の上に置いた。相変わらずピカピカと光るそれをトーリンは食い入るように見つめている。


「アイスが白銀の竜に認められているということは一目瞭然じゃろう。それでも旅の同行は認められないか?」


「この剣をどうやって入手した?」


「それは些細な問題じゃ。大事なのはアイスが旅に必要だという人材であること。この剣を見ても彼女を信用できないかトーリン」


「…いいだろう。旅の同行を許そう。ただしそのエルフの容姿を持つ女にドワーフの築き上げた財はコイン1枚とてやらん。それでもよければ来るがいい」


「最初に言った通り私は財宝には興味がない。旅の同行を容認してくれたことを感謝する。ともに力を合わせ竜を倒そう」


トーリンに手を差し出したが握手は返されなかった。うん、別にいいけどね。泣いてなんていないよ。嫌われているのはわかってますから。

白銀の竜の剣がトーリンにどういう意味をもたらしたのかいまいちよくわからないけど旅の参加を認めてくれるならそれで充分だ。竜の剣を作っておいてよかった。

ひと段落ついて胸を撫で下ろしているとこっそりとガンダルフが耳打ちしてくる。曰く、白銀の竜のことはトーリンには話してはならないとのことらしい。力があったとしてもガチの敵である竜でおることがバレたら流石のトーリンも許してはくれないということだろう。うん、なら進んでいうことではないね。自分が白銀の竜であることは黙っておこう。

こうして私の旅への同行が決まったのだった。





***



ガンダルフが旅の仲間に加えたいといって連れてきたのは最悪なことにエルフだった。しかも高慢で冷酷でいかにもエルフといった特徴を備えた女だった。

衝動的に剣を抜き斬り刻んでやりたい衝動をなんとか理性で抑え話し合いの席につく。ガンダルフが何を言おうがエルフを信用することはできない。勝手奴らは我々が故郷を奪われた時に傍観し我等を見捨てたのだ。あの屈辱は忘れることができない。

ガンダルフが色々言い募ってきたが聞こうとも思わなかった。どんな言葉を聞かされようが意思が変わることはなかった。

その時それまで沈黙していたエルフの女が口を開いた。真っ直ぐと射抜くような鋭い視線を向けられ不意に言葉に詰まる。その青く星が散りばめられた瞳に意識を絡め取られエルフの言葉など聞くまいと思っていたのに気付けば耳を傾かされていた。


『私はエルフではない』


『何?』


なんと事もあろうがそのエルフの女は自分がエルフではないと言い出した。容姿、言動、どれを取ってもエルフにしか見えないのにそのようにいう意図が理解できない。挙げ句の果てにエルフの女はそれを神に誓うとまで言い出した。エルフが自分はエルフでないと神に誓うのにどのような意味があるのだろうか。目の前のエルフが得体の知れない何かに見えた。

エルフでなくともこの女は気に食わない。旅の同行を容認できないといおうとした瞬間ガンダルフにこのエルフが白銀の竜の剣を持っていることを伝えられる。

その時の驚きはガンダルフがエルフを仲間にすると言い出した時よりも大きかった。白銀の竜は我等の最大の友でかつて我等が窮地に陥った時に助けてくれた敬愛すべき者だ。その竜の剣をエルフの女が持っているというのは信じられない事実であった。

エルフの女はガンダルフに促されて腰から剣を取り出す。それはひと目見ただけで白銀の竜から造られた武器というのがわかった。銀色の柄に白の金属で装飾が施され大変美しい剣だった。その剣が素晴らしいのは見目だけでなく強り力を持っていて鞘の隙間から白い輝きが溢れていた。

エルフの女が剣を机の上に置くと白い輝きが弱まりだんだんと消えていく。エルフの女の手にある時のみ輝くその剣が誰を主人にしているか悟り燃えるような感情が喉元を伝って流れてくるのを感じた。あれは間違いなく白銀の竜の剣だ。何故それをエルフが持ち剣の持ち主と認められているのか理解できなかった。

何処で手に入れたのかといえばガンダルフにはぐらかされる。これでも信用できぬかと聞かれ、白銀の竜に認められている者を容認できぬわけがないと声を振り絞って伝える。本当なら剣を抜きそのまま切り裂いてやりたいのだ。このエルフが白銀の竜に、アイリスに認められているなど許せるものではない。

だが、旅のこと、竜のことを考えた上で必要な人材なのは確かだ。ドワーフの財を分け与えないことを対価に同行を許した。エルフの女は平然としていた。

身体が燃え盛るように熱い。この感情は恐らく嫉妬だ。あの強く美しい竜に認められたこの者が羨ましくて仕方ない。

握手には返さない。エルフの女が黙ってじっと見つめてくる。

気に食わないエルフの女であるがその青い瞳だけは許容できる気がした。




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