ホビット

□4
1ページ/1ページ



予想とは違う経緯だけれども無事衣服を手に入れられたのでよしとしよう。これで人の姿で活動できますね。ああ、服を剥ぎ取った仏さんに関しては持ち物を頂いた後埋葬してあげました。なむあみだぶつ。

早速『むーんぷりずむ・めいくあっぷ』と呪文を唱えてクールビューティな人型に変身する。この呪文って必ず言わなければいけないのかな?そろそろ恥ずかしくなってきたぞ。

服のサイズは若干大きくてあっていないがまあ裸よりマシだから有難く使わせてもらう。必要な物を身につけついでに顔の横に三つ編みを2つ作って下げてみた。うん、これでこのクールなお顔もちょっとはチャーミングに見えるだろう。この顔ものっ凄く美人だけどちょっととっつきにくそうなオーラがあるんだよね。ドワーフと少しでも仲良くなれるように彼らがよくしている三つ編みを私もしておこう。

鞄の中に何枚もの鱗と牙を入れて私は山を降りた。いつもひとっ飛びで下まで飛び降りていたから歩いて下山するのは新鮮だ。景色は1面雪でしかも吹雪いているから美しくもなんともないけど。

歩く度に膝まで埋まるほど雪は深いけれども不思議と寒くはない。これは竜の特性が生きているということか。人間スタイルでもスペックは遥かに高そうだね。これなら戦闘とかもしっかりできそうだ。

山を降りて暫く進むと街がある。このあたりのことは空から見てわかっているので街に行くまでに迷うことはない。だけれども街に入るのは初めてなので少しワクワクする。早速ドワーフを探して装備を作ってもらおう。やっぱり鍛冶といえばドワーフだよね。

しかし街を歩き回りドワーフを見つけるも私の姿を見るなりエルフの為に作る剣はねえ!と叩き出されてしまった。問答無用でこの扱いなの?思った以上にエルフとドワーフの軋轢が酷くてショックである。これ、トーリンの旅の仲間に加えてもらえるだろうか。なんか無理な気がしてきたよ。

仕方ないから他の鍛冶屋に頼もうとしたのだけれどエルフの武器を作るなんてとんでもないと断られてしまった。いやいや、私エルフじゃありませんよ!エルフがこんなに生きにくい種族だとは思わなかった。美人だけどそれ以外にメリットがないぞ。

仕方ないので北の森にいると噂のエルフを訪ねてみた。裂け谷と闇の森以外のエルフに会うというのは変な感じがするが意外なことに他にもエルフの住処はあったりするのだ。北の森のエルフは以前ドラゴンの時にオークに襲われているのを目撃して存在するのを知った。勿論その時のオークは追っ払ってやったよ。まあ私が何もしなくてもエルフは強いし負けなかったと思うけど。

そんなわけで街を出て北の森のエルフを訪ねると彼らはおどろくほど私を歓迎した。貴方のような高貴な方をこの場で迎えられることは歓迎すべきことなのです。とか言われたんだけどいやいや、高貴な身の上どころかエルフですらないんだけど?なんで勘違いされているんだろうと思ったが取り敢えず今はお口チャックしておく。ここで機会を逃して装備を作ってもらえなかったら困るから。

エルフに竜の鱗と牙で身に纏えるものと武器を作って欲しいというととても驚かれた。『これは白銀の竜の鱗ですね。どこで手に入れたのですか?』と聞かれ答えに困る。どこでも何も自分の身体に生えていたものだけれどもそんなことはいえない。私=白銀の竜の等式をなくすためにわざわざ人型になったのに喋ったらなんの意味もない。竜だとバレたら絶対にトーリンに嫌われてしまう。このエルフに本当のこといってもトーリンに伝わる可能性は低いだろうけどそれでも言わないに越したことはないのだ。

取り敢えずその場は『白銀の竜の鱗を手に入れる方法などそうないだろう』っていって相手の想像力に任せることにした。自分で言っといてなんだけどまともに竜の鱗を手に入れる方法なんてあるんだろうかね?

エルフは私の言葉を聞いて口元を押さえ『まさかそんな、』 と驚きを深くした。うん、ちょっとなに想像したのか教えてもらえませんか?なに考えたのかめっちゃ気になるわ。

その後装備の作成を頼むと快く引き受けてくれた。ただ物が物だしかなり時間がかかるらしい。ここ来る前にエレボール見てきたけどスマウグいたし原作が始まるまでにまだ時間はあるだろう。大丈夫だと伝えると装備が出来るまでは是非この館にいて欲しいと懇願された。それはむしろこちらが頼みたい話なので有難く受けさせてもらった。

そうして北のエルフの館で1年くらい食べては寝ての生活で過ごし、そうしている間にできた剣と装備を見て私は息を呑んだ。

滑らかな刀身は白銀に輝いており柄には大粒のサファイアが埋め込まれている。鎧は白い銀のような金属で型取られ胸のところには竜の装飾がされている。めっちゃ剣が光っているんだけれどエルフの鍛えた剣って光るんですね。そういえばビルボの剣も光っていたしそういうものなのか。剣としてだけじゃなくて懐中電灯としても使えそうで便利である。

何処かの王国の近衛兵が身に付けてそうな程豪華な装備を作ってもらい、思わず懐に手を入れ費用を支払えるのかな?と若干冷や汗をかいたが、なんとエルフたちはお金は必要ないという。貴方のような高貴な方の鎧を作ることが出来て光栄だとのこと。いや、私食っちゃ寝してただけだし何処ぞの偉いさんでもありませんぞ?もういっそ全部黙っておこう。ただの一般人とバレたら袋叩きでは済まないわ。

装備も出来たことだしエルフの街から出て行くことにする。さあ、これで準備は整ったぞ!後はトーリンを探して旅についていくだけだ。

だけれどもそれが意外と難しかったりする。今の時間軸がどこかもわからないのにこの広い世界でトーリンを探し出すのは難題だ。おまけに今は空を飛び回れる翼もなく大地を踏みしめる二本の足しかない。まあでも最悪ホビット庄のビルボの家に行けば出発前の彼らには会えるのだから方法がないわけではない。落ち着いていこう。

取り敢えず北にいても仕方ないので南下する。空を飛んでいて地理はわかっているつもりだったけど歩くのと飛ぶのではまるで違くてちょっと旅に苦戦する。森とかに入ると途端方向までわからなくなるものな。竜って便利だったよ。

いくつもの町に立ち寄りながらホビット庄を目指す。途中立ち寄る町町でトーリンを探すも全く見つからない。そりゃこの広い世界でたった1人を探すなんて無茶だよね。大人しくビルボの家を目指そうか。

女の1人旅はけっこう危険で道中は何度もゴブリンやオーク、または人間に襲われた。だけれども竜の装備は伊達じゃない。恐ろしく高性能でバターを掬うように滑かにゴブリンが真っ二つになってしまった。うん、そこまでの性能は求めてなかった。ゴブリンの断面図見た時はさすがにその日のご飯が美味しくなかったです。

まあ強いことは悪いことではない。とくにこれからの旅はスマウグを倒すための物なのだ。強くて困るということはないだろう。

ホビット庄を目指して襲われては斬って襲われては捨ててな旅をしていると、ある日町の食堂でご飯を食べている時に灰色のローブを纏ったおじいさんが相席を願い出てきた。その姿を見て思わず飲みかけの水を吹き出しそうになる。


「この席に座ってもよいかの?わしはガンダルフという者じゃ。お前さんに用があってきた」


そう朗らかに笑うお人はガンダルフ、中つ国の物語の重要人物だった。え、これどうなるの!?




***

エルフ視点

ひと目見た瞬間その方が高貴な身の上であることがわかった。

造り物と間違えるほどの整った顔立ちに流れるような銀髪が3つに編まれ顔の横に垂れ下がっている。そして全身からは魔力が溢れその方の力を表していた。

エルフは力の強い者ほど美しくそして魔力を持っている。どちらも兼ね揃えたその方が歓迎すべき客人であるというのは我等の総意であった。

これ程の人物であれば名を知られていそうな者なのだが生憎と当て嵌まる人物を思い描くことができない。ひょっとしたらアマンから新たに海を渡って来られた方なのかもしれない。それなら尚更歓迎しなければならないだろう。

その方は名を名乗られなかった。彼の地とこちらでは異なる名を持つことが多くまだ名を持っておられないのかもしれない。我々はその方を『銀の君』と呼び最上級のもてなしを行うことにした。

銀の君にこの地を訪れたわけを伺うと質素な包みなら眩いばかりの宝石を取り出した。

いや、それは宝石ではなかった。宝石などよりもずっと価値のある竜の鱗である。周りのエルフも息を呑んだ。長いエルフの生であるが竜の鱗を見たことのある者などひとりもいないであろう。

銀の君は竜の鱗や牙を我々に差し出しこれで自分の為の装備を作って欲しいと懇願した。確かに今の銀の君の服装は旅をするために偽装していたのか酷く見窄らしい。自分に相応しい装備を手に入れたいと思うのは当然であろう。

勿論我々は銀の君の装備を作るつもりであった。だけれどもその前に聞かずにいられないことがある。この白く銀色に輝く鱗は間違いなく白銀の竜アイリスの物なのだ。

白銀の竜アイリスは北方の氷山に住むドラゴンだ。竜という種族にしては珍しく光を好み闇に仕える者に敵対している。ドワーフに慕われているというが我々エルフにも好意的でゴブリンに囲まれていた仲間が救われたこともある。

そのアイリスの鱗や牙がこの場にある。銀の君はいかにしてこれらを手に入れたのだろうか。


『白銀の竜の鱗を手に入れる方法などそうないだろう』


銀の君はそういった。私は静かな驚きとともに口元を抑える。まさか、そんな。竜の鱗を手に入れる方法などそうそうにない。当人から分け与えられるか、あるいはその持ち主がいなくなるか。

私はゆっくりと目を閉じる。そうか、あの美しき竜はもういないのか。それはどうしようもない寂寞とした思いを私に与える。これ程高貴な方の行いなのだから意味はあるのだろうが空に輝く銀色の翼を見ることができないのは非常に残念であった。

我々は竜の鱗と牙を鍛えた。その間銀の君には館に滞在してもらい旅の疲れを癒してもらう。

白銀の鱗は不思議な物だった。鍛えれば鍛えるほど魔力が成熟され力を増していく。エルフが鍛えた物には魔力が宿るとされているが元々魔力が含まれた物を鍛えるとここまで美しくなるのか。

1年という歳月をかけ鍛えた剣と鎧を銀の君のところへ持っていく。銀の君は鞘から刀身を抜き去った。その瞬間あたりが眩い光に包まれる。

鞘から抜かれた刀身が白く光り輝いていた。我々が驚きで目を見張る中銀の君は眉ひとつ動かさず『素晴らしい剣をいただいた。礼を言おう』といって鞘に収めた。

私はその光景を見て酷く安心した。私はかつてエルフの民を救ってくれた白銀の竜アイリスに対して親愛を持っていた。であるからしてアイリスを手にかけたという銀の君に複雑な想いを抱いていた。

しかし受け入れられるように光に包まれる銀の君を見て二方の間にあるのがただの暴力であったわけではないことを悟った。もしそうであるならば竜の魔力が篭った剣が銀の君をあのような形で受け入れるはずがないのだ。

銀の君は礼をしたいと言われたが我々はそれを断った。もう充分過ぎるものを頂いている。銀の君がこの地を訪れあのような我々に装備を作るように頼まれたことはとても名誉なことなのだ。

銀の君は竜の装備を身につけてこの地を去った。あの方が何をなさるのかわからないけれどもこの地よりその願いが叶うことをお祈り致します。




[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ